安静時の胸痛発作時に,血圧上昇を伴うST下降型狭心症の発症機序を明らかにする目的で,胸痛発作時の心電図・動脈圧の連続記録と,多段階運動負荷試験を7例に施行した.
(1)安静時の胸痛発作では,心電図ST下降は,胸痛出現より2.6±2.6分(mean±SD)先行した.心電図ST下降出現より3.9±2.0分前で,心拍数(HR)および血圧の安定した時点でのHR,収縮期動脈圧(SAP),拡張期動脈圧(DAP),rate pressureproduct(RPP)の値は,各々57±7/分,128±22mmHg,64±10mmHg,7,242±1,400であった.胸痛出現時には,それらの値は,68±12/分,153±29mmHg,76±15mmHg,10,453±3,018と増加した.SAPが最高値を示したのは,胸痛出現後7.1±3.5分で,この時の諸値は,74±9/分,185±39mmHg,88±15mmHg,13,538±2,695であり,動脈圧とRPPは胸痛出現時よりさらに増加した.すなわち,血圧の上昇は,胸痛出現より前のみならず出現後にも有意にみられた.
(2)同一例で,安静での胸痛出現時と運動負荷での胸痛出現時(1例のみ運動では胸痛出現せず負荷中止時)を比較すると,HRは,68±12/分vs114±15/分,SAPは153±29mmHg vs 183±39mmHg,RPPは10,453±3,018 vs 21,186±6,411であり,いずれの値も前者より後者の方で統計的に高値を示した.
以上より安静時の胸痛発作時にみられる血圧の上昇は,心筋虚血の原因というより結果であり,同一症例であっても運動負荷時の胸痛出現機序とは異なると考えられた.
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