先天性チアノーゼ性心疾患に脳膿瘍が合併することは既知の事であるが,脳膿瘍発生部位は一般に天幕上に多く,天幕下のみの脳実質内に限局する症例は極めてまれである.またEbstein奇形の合併例は少なく,脳膿瘍摘出後の経過が良好に保たれ,なおかつ心奇形に対する心内修復手術まで成功した症例はさらに少ない.本報告では,自験例と共にこれまで本邦報告123例についての臨床像を検討すると共に,自験例における脳膿瘍発生機序について若干の検討を加えた.
症例は16歳男性で,昭和56年8月初旬に頭痛,全身倦怠感で発症し,次に高熱,嘔吐,意識障害,右側半身不全麻痺が出現した.CT検査,脳血管写で右側小脳腫瘍を疑い,8月24日開頭術を施行したところ,小脳膿瘍の病理診断を得た.全身状態の改善後,心臓カテーテル検査を行い,Ebstein奇形,心房中隔欠損症の臨床診断を得た.その後,心奇形に対し心内修復手術を行い,4年後の現在心身とも経過良好である.
なお,脳膿瘍発生原因について検討するために,カテーテル検査時に両心房圧を同時記録をしながら種々の負荷を行ったところ,負荷前,Valsalva法に比べてMüller法,Handgrip法において両心房の圧勾配および大動脈酸素飽和度の両値に明らかな右左シャント優位となる現象を観察した.この事は些細な機転によって逆シャントの増大が生じることを示すものであり,血行性遠隔転移性感染の誘発に関連するものと考えられた.
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