心臓
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22 巻, 5 号
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  • 経皮的冠動脈形成術施行時の検討
    岩永 史郎, 半田 俊之介, 阿部 純久, 和井内 由充子, 楠原 正俊, 佐藤 吉弘, 大西 祥平, 中村 芳郎
    1990 年 22 巻 5 号 p. 483-490
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    側副血行循環が心筋虚血の防止に果たす役割は十分には解明されていない.経皮的冠動脈形成術(PTCA)中の人為的な冠閉塞時の側副血行循環の役割を検討した.PTCA中に狭窄末檜圧を計測できた29症例33病変を対象とした.冠動脈造影で側副血行循環の程度を0~3度の4段階に評価した.PTCA中に冠動脈狭窄末槍圧,冠動脈閉塞末梢圧(CWP),標準12誘導心電図,冠動脈内心電図(ic-ECG)を経時的に記録した.IcECGは対象とした33病変中26病変で記録できた.1.冠閉塞中に心電図変化を認めた20例を虚血群とし,心電図変化を生じなかった12例を非虚血群とした.虚血群20例中18例では冠閉塞中に胸痛を認めたが,2例では胸痛を生じなかった.非虚血群では全例に側副血行を認めたが,虚血群では3例(15%)のみに認めた.非虚血群のCWPは29±2rnmHgであり,虚血群15±1mmHgに比べ高値であった.2.側副血行循環を認めない0度の症例のCWPは15±1mmHgであった.側副血行循環が1,2,3度の症例は各々24±5,28±3,23±3mmHgであり,0度の症例よりも高値であったが,3群間には差を認めなかった.高度の側副血行循環が認められた症例は,狭窄が高度であり,PTCA前の狭窄末檎圧も低値であった.
    側副血行循環が認められた狭窄病変でのCWPは20mmHg以上あり,一過性の冠閉塞時に胸痛や心電変化を生じなかった.造影による側副血行循環の評価は,側副血行循環の程度よりも狭窄病変の重症度を反映していた.
  • 池ノ内 浩, 佐藤 廣, 飯塚 昌彦, 芹澤 剛, 平田 恭信, 松岡 博昭, 杉本 恒明
    1990 年 22 巻 5 号 p. 491-498
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    うっ血性心不全患者の静脈拡張特性に対するヒト心房性利尿ホルモンの作用をプレチスモグラフィを用いて,ニトログリセリンの作用と比較することで検討した.前腕の静脈圧(VP:圧トランスデュサー)および容積変化(ΔV:プレチスモグラフィ)を測定し,静脈の圧容積関係を指数曲線(VP=C・exp(K・ΔV))(r=O.98±0.01)に回帰させ静脈スティフネス定数(K)を算出した。ヒト心房性利尿ホルモン(0.1μg/kg/min)は点滴静注し,ニトログリセリン軟膏(30mg)は前胸部に塗布した.ニトログリセリンによって末梢静脈の圧容積曲線は容積軸上で右に偏位し,静脈スティフネス定数は有意に減少した(-23%,p<0.03).一方心房性利尿ホルモンは圧容積曲線をいずれの方向にも偏位させず,静脈スティフネス定数も変化させなかった.以上よリヒト心房性利尿ホルモンはうっ血性心不全患者において静脈拡張作用を持たないと結論した.
  • 山田 隆康, 半田 俊之介, 大西 祥平, 吉野 秀明, 阿部 純久, 酒井 隆, 中村 芳郎
    1990 年 22 巻 5 号 p. 499-507
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    冠動脈造影法を用いて左前下降枝を対象としニトログリセリン冠動脈内注入および冠動脈形成術が狭窄末梢側血管径に及ぼす影響を検討した.
    高度の狭窄病変があっても血流遅延を伴わない程度であれぼ,狭窄部末梢側の心表面冠動脈径は狭窄のない冠動脈と差はなかった.その機序として冠小動脈の拡張による予備能の動員ばかりでなく,造影観察することのできる心表面冠動脈自体の壁平滑筋トーヌスの低下が推測された.
    硝酸薬に対する拡張反応は狭窄部末梢側で狭窄のない冠動脈に比べ低下していた.冠動脈形成術により狭窄部を解除すると冠動脈径は正常化した.このことは狭窄部末梢側の硝酸薬に対する拡張反応の低下が末梢冠血管のびまん性硬化によるものでなく,冠灌流圧の低下により生じていることを示した.
  • 抗凝固薬,血管拡張薬併用の有効性の検討
    尾形 公彦, 大江 正敏, 白土 邦男, 滝島 任
    1990 年 22 巻 5 号 p. 508-514
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    過去24年間に当科にて原発性肺高血圧症(PPH)と診断された19例を対象に,抗凝固薬と血管拡張薬の併用療法の長期予後に対する効果をretrospectiveに検討した.診断確定後,ワーファリンおよび血管拡張薬(ニフェジピン3例,イソプロテレノール3例)を投与していた6例を併用療法群(AV群),非投与の13例をコントロール群(C群)とし,平均4±4.8(SD)年の観察期間における両群の経過を比較した.初回検査時のNYHA分類,血行動態諸量には両群間で差を認めなかった.経過中,自覚症状の改善をみた例はC群15%,AV群50%であり,診断確定後の生存期間もC群では4.2±5.4年,AV群では8.9±5.'9年とAV群で大であった(p<0.05).心臓カテーテル検査を反復施行したC群4例,AV群4例(ニフェジピン3例,、イソプロテレノール1例)においても,初回検査時の血行動態諸量に差を認めなかったが,最終検査時の各指標は,C群では不変であったのに対し,AV群ではPAP,PVRがそれぞれ初回検査時の81±14%(p<0.05),69±17%(p<0.05)へと低下し,改善がみられた.
    以上より,抗凝固薬と血管拡張薬の併用療法はPPHの長期予後を改善する可能性を有する.
  • 特にIII型解離発生要因としての弓部のヘアピン状カーブ
    吉井 新平, 松川 哲之助, 神谷 喜八郎, 橋本 良一, 秋元 滋夫, 古屋 隆俊, 保坂 茂, 鈴木 章司, 上野 明
    1990 年 22 巻 5 号 p. 515-520
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    右側大動脈弓の解離はこれまで5例の報告があり,全例IIIB型でまた左鎖骨下動脈起始異常を合併している.発生要因としてBodineらは右側大動脈弓の弓部の急激な湾曲を推定した.最近同様例を経験したことから,これを定量的に評価し,右側大動脈弓に伴う固有の問題点と解離発生との関連につき検討した.対象は本例と左鎖骨下動脈起始異常を伴う右側大動脈弓計5例で,方法はCT像を透明シート上に実物大に投影し,臓器別に色分けしてトレースし,スライス幅に応じ積層することにより臓器相互の立体関係をみた。実物大モデルは密度の濃いスポンジラバーを大動脈弓の各スライス像にあわせて切り,正確な位置で重ねて作成した.このモデルの弓部を正側面で捉えるよう投影し,得られた弓部の中心を通る曲線のうち最も急な回転半径を測定した.その結果全例で大動脈弓と周囲器官との立体関係を明らかにしえた.上行大動脈は直線的に上方へ向かい高い位置で右総頸,鎖骨下動脈を出し,急角度で下行する.その最小臨半径は20~31mm,平均24.2±4.8mmで左側大動脈弓例6例の34~49mm,平均39.7±5.8mmに比し有意に小さい(p<0.01).IIIB型解離例は右総頸動脈分岐後に解離が起こり,偽腔は右後方へ大きくカーブし,流れも多く,あたかもカーブを曲がり切れなくなったために解離したように見えた.以上,右側大動脈弓例では弓部頂上が急角度で,解離発生要因のiつとなりうると考えられた.
  • 千田 宏司, 貞刈 暢代, 甲田 隆, 勝谷 雅昭, 頼高 朝子, 吉田 広海
    1990 年 22 巻 5 号 p. 521-526
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    成人の先天性心疾患の中では,心房中隔欠損症が最も多いが,高齢者の静脈洞型心房中隔欠損症(SVASD)の報告はまれである.我々は75歳まで生存し,部分的肺静脈還流異常と左上大静脈遺残(PLSVC)を合併したSVASD例を経験した.症例は75歳,女性.65歳頃,息切れ,68歳頃,動悸を自覚.70歳時,さらに,浮腫出現し入院.聴診にて,駆出性収縮期雑音(Levine IV/VI)とII音の固定性分裂を認めた.心電図では,右軸偏位と不完全右脚ブロック,胸部X線では,心胸郭比は76%で,肺血管陰影の増強を認めた.両側の肘静脈造影でPLS・VCの存在と冠静脈洞への還流を認めた.心臓カテーテル所見では,高位右房でO2Step upを認め,肺体血流比1.95,肺動脈圧45/15mmHgで,高位右房から,直接,右中肺静脈へのカテーテルの挿入が可能であった.その後,心房粗細動を繰り返し,心不全にて死亡(75歳11カ月)した.剖検所見:右上肺静脈が右上大静脈,右中肺静脈が右上大静脈と右房の接合部に還流し,PLSVCの還流する冠静脈洞の著明な拡張と卵円窩の上方に静脈洞型心房中隔欠損孔(13×15mm)を認めた.
  • 鈴木 幸園, 徳永 慎吾, 田巻 俊一, 中江 出, 山里 有男, 青嶋 實, 村上 知行, 三木 真司, 岩瀬 知行, 河合 忠一
    1990 年 22 巻 5 号 p. 527-532
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は58歳の男性.めまいを主訴に来院.入院当初,一過性脳虚血発作を疑ったが,心電図上1,II,aVF,V2~V5の陰性T波を認めるため超音波心断層図(2DE)を施行,左房内に有茎性腫瘤を認めた.肺動脈造影後期相の左房・左室造影でも腫瘤が認められ,拡張期に左室に陥入した.以上より左房内血栓または腫瘍と考え手術待機となったが,心臓カテーテル検査後5日目に両下肢の激痛が出現,両大腿動脈触知不能となった.この時点で2DE上,左房内腫瘤は消失しており,腫瘤の茎断裂による鞍状塞栓と考え塞栓除去術を行った.本症例で茎断裂を生じた誘因として,茎に負荷が加わったこと,安静が十分に保てず,高血圧・嘔吐などが認められたことが考えられた.左房内腫瘤診断後はこれらの誘因に注意し,緊急に手術を行うことが,肝要と思われた.
  • 岡田 恒弘, 後藤 敏和, 荒木 隆夫, 三浦 民夫, 斎藤 博昭, 斎藤 幹郎, 横山 紘一, 大友 尚, 岡田 嘉之, 高橋 克朗, 大 ...
    1990 年 22 巻 5 号 p. 533-538
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は39歳男性で,昭和62年6月末に足指の切創の後,腰痛と熱が出現したため入院した.入院時より高度の炎症反応異常を認め,各種検査を施行するも確定診断がつかなかった.8月24日突然胸痛発作を起こし,心電図所見,酸素の上昇より急性前壁心筋梗塞と診断し治療を開始した.心エコーにて僧帽弁に疵贅を思わせる像と僧帽弁逸脱を認めたため,血液培養検査は陰性であったが感染性心内膜炎と診断し,各種抗生物質の投与により発熱は軽快した.慢性期冠動脈造影にて,左冠動脈前下行枝,AHA分類の#8に動脈瘤状の内腔拡大を伴う閉塞を認め,左室造影にて僧帽弁閉鎖不全Sellers3度を認めた.12月3日僧帽弁置換術を施行,僧帽弁には腱索の断裂が認められ,病理学的には肉芽腫様の病変が弁論,腱索に広く認められた.感染性心内膜炎の重要な合併症に全身の血管塞栓ならびにmycotic aneurysmの形成があげられ,脳や腹部の動脈に多いとされている.冠動脈に塞栓が起こる事は剖検例の調査ではまれでないとされるが,生存中に臨床的に診断され,またmycotic aneurysmを認めたという報告は少ない.本症例は感染性心内膜炎の経過中に疵贅による冠動脈塞栓を起こし,これにより急性心筋梗塞の発症ならびに動脈瘤状の変化をきたしたものと思われた.
  • 何松 啓志, 渡邉 乾, 前田 利裕, 井上 健, 犀川 哲典, 伊東 祐信, 高木 良三郎, 濱村 義史, 堀 秀史
    1990 年 22 巻 5 号 p. 539-543
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は43歳の女性.昭和50年頃健診時高血圧を指摘された.昭和57年頃より時々めまいを自覚.昭和62年10月13日精査のため当科に入院した.入院時,血圧は,上肢190/70mmHg下肢184/72mmHgであり,左右差は認めなかった.頸部,上腹部に著明な血管雑音を聴取した.赤沈26mm/h,CRP(一).心電図では左室肥大の所見を認め,胸部および腹部単純X線写真にて大動脈の著明な石灰化の所見を認めた.胸部および腹部の大動脈造影で大動脈の辺緑不整と狭窄像を認め大動脈炎症候群と診断した.心臓超音波検査法で左冠動脈主幹部の拡張と前下行枝と回旋枝の分岐部および分岐部以下の前下行枝の血管壁のエコー輝度の増強の所見を認めたため,冠動脈造影検査を施行し左冠動脈入口部狭窄と狭窄後拡張の所見が認められた.大動脈炎症候群の冠動脈病変の合併は最近注目されているが,心臓超音波検査法は本症のような冠動脈病変の検出に有用であると思われた.
  • 安井 清, 佐川 浩一, 岩本 真理, 南沢 亨, 戸塚 武和, 牧 隆敏, 新村 一郎
    1990 年 22 巻 5 号 p. 544-549
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は15歳女子.心電図異常(QV1)にて当科紹介となった.安静時心電図ではPQ時間は正常であったがΔ波を認め,運動負荷にて上室性頻拍が誘発された.この頻拍はΔ波の有無にかかわらず開始あるいは持続すること,PQ/QP比約0.5であり,停止時のPPおよびPQ時間の態度などより心房性の頻拍症と考えた.
    臨床電気生理学的検査では,高位右房期外刺激法にてAH時間は延長するがHV時間は短縮したまま一定であり,fasciculoventricular fiberの存在が考えられた.またdual A-V nodal pathwaysの合併も認めた.しかし,頻拍はそれらとは関係なく誘発されることなどよりatrial reentrant tachycardiaと診断した.多彩な体表面心電図所見をとり,それらより頻拍の発生機序が推測可能な興味ある症例であった.
  • 小幡 明博, 相沢 義房, 庭野 慎一, 佐藤 政仁, 柴田 昭
    1990 年 22 巻 5 号 p. 550-556
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    難治性の持続型心室頻拍を呈した拡張型心筋症の1例においてelectricalablationを施行した.心室頻拍(VT)は,各種抗不整脈剤に対し難治性であり,心内膜マッピングでVTの体表面QRS波形に先行する電位は認められなかった.VT中左室後側壁の刺激によってのみentrainment現象を認めた.ペーシング中VTのQRS波形は不変で,刺激中止からVT再開までのreturncycleは各ペーシング周期と一致し,刺激スパイクはVTのQRSの開始後に認めた.これらの所見を呈するペーシング部位は2cm以上に渡っており,slow conduction zoneと考えられたが,同部位への100Jまでのelectrical ablationは不成功であった.術中のマッピング所見では最早期興奮部位は後壁中央部の心外膜側に認められ,同部位の全層にわたる心筋切除後VTは誘発不能となった.本症例はelectrical ablationにおける通電部位とリエントリー回路との関係で示唆に富む症例として報告した.
  • 検出法と臨床的評価
    小沢 友紀雄, 谷川 直, 渡辺 一郎, 児島 隆介, 陣野 和彦, 生沢 澄江, 牧 晴美, 矢久保 修嗣, 笠巻 祐二, 島田 浩子, ...
    1990 年 22 巻 5 号 p. 558-571
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    Late potentialの検討には,機器側と生体側の問題点がある.検出機器はいまだ規格の統一がなされておらず,平均加算,フィルター,誘導法,などが当面の検討課題である,洞調律時の心内fragtnentationは比較的再現性があり,平均加算による劣化は避けられないものの,臨床的検討には十分利用可能であると思われる.Band-pass filterは40-300Hz付近がよいとされ,我々の検討でも,VTとLPの関連が明確な例は,high pass filterを25-100Hzに可変してもVTのない例を明確に区別可能であり,特に40Hz以上で良好であった.市販の3機種の同一患者の検討では,規格や判定基準に差が見られても,latepotentialの評価においては75.2%の一致率が見られた.誘導法についても,従来のvector magnitude法が最良とはいえず,単極の多誘導でのlate potentialのmappingは,FFT解析や三次元表示などの新しい試みとともに,従来の方法の弱点をある程度カバーすることが可能と思われたる
    臨床的には特に急性期を過ぎた心筋梗塞患者のVTや突然死の予知に有用であるが,疑陽性に相当するものが多いので,negative predictive valueを評価したほうが臨床的価値がある.心室性不整脈の重症度とlate potentialの関連は,背景の疾患により異なり,同じ疾患でも病期により差が見られる.例えば心筋梗塞では急性期よりも慢性期に両者の関連が深い.late potentialによる治療効果の判定は,薬物効果判定には有用とはいえず,心室瘤切除術後のVTに対する効果判定には有用と思われた.
  • 心筋梗塞モデルでの検討
    小川 聡, 楊 志成, 中村 芳郎
    1990 年 22 巻 5 号 p. 572-577
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    プログラム電気刺激法により再現性よく持続性心室頻拍を誘発しうる7日目心筋梗塞犬モデルを用い,signalaveraging法による体表面からのLP記録を行い,直後に開胸後,その電気生理学的意義と病理組織学的背景を検討した.
    (1)体表面からのfiltered(f)QRSの幅,および終末部15msecのvector magnitude(V15)は,梗塞作製前には全例で各々60msec以下,10μV以上で,梗塞作製後には有意に変化した(53.5±4.7→62.4±9.6msec,40.3±30.4→18.4±16.0μV).
    (2)持続性心室頻拍誘発例13頭中12頭がfQRS 60 msec以上でかつ,V15が10μV以下の基準を満たすLP陽性例であった.
    (3)fQRS幅による心外膜心筋での遅延電位(epi LP)検出精度は,epi LP≧50 msecに対するsensitivity 81%,specificity 60%であった.一方,60 msec以上のepi LPに対しては各々,100%, 53%であった.V15によるepi LP検出精度は,epi LP≧50msecと≧60msecに対するsensitivityは,各々63%, 91%で,specificityは55%, 68%であった.
    (4)epi LPの記録された119点中93点が心外膜面の残存心筋が1mm以下の梗塞中心部にあり,心筋厚が薄くなるほどepi LPの遅延程度は増大した.
  • 下村 克朗
    1990 年 22 巻 5 号 p. 578-596
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    体表面心電図の加算平均からQRSのあとに記録される1atepotentia1(LP)は心腔内または心表面で記録されるdelayed potential(DP)を表現するものとして注目されている.このLPは心室不整脈,殊に持続性心室頻拍の症例に高頻度に記録されるが,基礎心疾患として陳旧性心筋梗塞,右室異形成症,心筋症に多く,特発性心室頻拍では記録されない.また手術前後での記録では陳旧性心筋梗塞例で心室瘤の切除または摘出を受けた例では改善する例はあるが,右室異形成症では有意差がみられなかった.
    心室内でのDPの発生部位を体表面から同定し得るかを検討した.MACほによる記録からは右室,左室の電位を表現する誘導でそれぞれのLPの最大振幅を比較することによって右室起源,左室起源を推定することができた.さらに胸部単極誘導を用いて体表面の多数の誘導点における心電図を加算平均しLPの最大部位を求めると,電気生理学的検査から得た心室内DPの記録部位を反映して体表面の一定領域に出現し,また多くの例においてLP最大部位はQRS末期の極大の位置と一致した.DPは心腔内の伝導遅延の部位を表現するものと考えられ,不整脈外科やcatheter ablationが発展途上にある今日,非侵襲的にその部位を知り得ることに本法の意義がある.
  • 遠藤 實
    1990 年 22 巻 5 号 p. 597-601
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心筋細胞の生理的収縮は,活動電位発生の結果細胞質中にカルシウムイオン(Ca2+)が動員され,そのCa2+が収縮蛋白系を活性化することにより生ずる.動員されるCa2+は,少なくとも哺乳動物の心筋においては,主として小胞体に由来することが,リアノジンにより小胞体機能を特異的に抑制したMitchelIらの実験から明らかである.小胞体からのCa2+放出には細胞外からのCa2+流入が必要である.Ca2+流入の経路には(1)膜電位依存性Ca2+チャンネルと(2)Na+-Ca2+交換機構の2つがあるが,L型の膜電位依存性Ca2+チャンネルを通じる経路が最も主要なものである.心筋小胞体にはCa2+自身がCa2+放出を惹き起こすCa-induced Ca release(CICR)機構が存在する.しかし,(A)生理的条件下でCICR機構の活性は弱いこと,(B)CICR機構をプロカインやアデニンで抑制しても生理的なCa2+放出は通常抑制されないこと,(C)脱分極はCa2+流入とは別の影響をCa2+放出機構に及ぼす可能性がCannelらにより示唆されていること,などの事実があるので,流入Ca2+は狭義のCICR機構を活性化してCa2+放出を起こすのではなく,Ca2+感受性を持ってはいるがCICRとは全く異なる骨格筋類似の機構(おそらく,細胞膜またはT管膜の膜電位センサーと小胞体Ca2+放出チャンネルとの直接または間接の蛋白問相互作用)を促進して,Ca2+放出を惹き起こしているのではないかと考えられる.
  • 羽渕 義純, 古川 泰司, 西村 昌雄, 渡部 良夫
    1990 年 22 巻 5 号 p. 602-608
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    ウサギ洞結節の遅延K電流(Ik)の動態に及ぼすCaの影響を微小標本における二重微小電極法を用いて検討した.灌流液中のCaをCoまたはMnで置換すると,Ikの遅い成分(Ik,sliw)は著しく減少し,その時定数は電位依存性に短縮,活性化領域は約10mV過分極側へ変位した.それに対し,Ikの速い成分(Ik,fast)はCa置換によりほとんど変化せず,そのカイネティックスも影響されなかった.Ca存在下ではIkの脱活性化の遅延と活性化の促進が観察されたが,差し引き法によりCa依存性Ik成分を求めると,以上の変化は,Ik,slow成分がCa置換前後で変化することにより生ずるものと考えられた.Ca非存在下でのIkを3-statemodelもしくは二次以上のH-Hカイネティックスによるmode1でsimula・tionを試みたが,洞結節Ikの速い活性化は再現し得なかった.Ik,fastとIk,sliwを独立した電流とすると,それぞれの最大活性化電流は内向き整流を持つことが判り,その活性化のsimulationも可能であった.以上より洞結節のIkには2種類のIkが存在し,両者はその時定数に加えCaに対する感受性によっても異なること,さらにそのうちのIk,sliwはCa存在下で活動電位再分極や膜電位の維持に貢献することが示唆された.
  • 野間 昭典
    1990 年 22 巻 5 号 p. 609-611
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    NaCa交換機転は細胞膜を介するNaイオンの濃度勾配を使い,細胞内から外へ濃度勾配に逆らってCaイオンを運び出す機転で,一種の交換輸送の機構である.ATPの化学エネルギーは使われないので,各イオンについての電気化学エネルギーから平衡電位を考えることができる.NaとCaの交換比率について,イオンフラックスの測定,細胞内のイオン濃度の測定,膜電位とフラックスの関係等が調べられ,その交換比率は3Na:1Caとする考え方が最も有力である。視細胞では最近4Na:1Ca,1Kの交換比率が示唆されている.いずれにしても,その交換は起電性であり,交換される電荷の差が膜電流として記録できている.Na-Ca交換は直接的に,また細胞内のCa濃度変化を介して間接的に,心筋の興奮性に影響する。
  • 1990 年 22 巻 5 号 p. 612-623
    発行日: 1990/05/15
    公開日: 2013/05/24
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