特異な心電図を呈した心筋症の1剖検例を経験した.症例は37歳,女性.35歳時,起坐呼吸が出現し入院した.心胸郭比60%.心電図は,PR時間0.13秒,QRSに早期興奮波があり,QRS幅は0.11秒,右軸偏位がみられ一見右室肥大,左室起電力の低下を思わせた.心エコー図では左室の拡大と壁運動低下を認めた.心不全の末死亡した.
剖検では心重量570g,両心室の拡大,右室壁肥厚,左室乳頭筋,肉柱の肥大がみられた.病理組織所見では,心筋の錯綜配列が強く,脂肪浸潤を伴う線維症,残存心筋の肥大,空胞変性等が認められた.刺激伝導系では,右脚の前,後放線とも線維性に途絶し,さらにHisの中間部より分岐部に複数の束・心室線維,すなわちMahaim束の存在が証明され,その分布は心室中隔のほぼ中央から左側にかけて左脚のすぐ裏側まで及んでいた.
本例の興奮伝導は,途絶した左脚とMahaim線維の存在によりまず中隔の右側に,ついで左脚をバイパスして左室前壁のPurkinje線維網に,最後に左室後壁のPurkinle線維網に伝えられると推察される.結果的に左脚ブロックの所見は隠蔽され,さらに心筋症としての病態が加味されてこの特異な心電図が形成されたものと判断された.
心筋症において,脚の途絶性病変とMahaim束の合併を病理組織学的に確認し得た例はまれであり,またMahaim束が左脚ブロックを隠蔽した例はほとんど知られておらず,貴重と考え報告した.
抄録全体を表示