心臓
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24 巻, 7 号
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  • 長尾 伊知朗, 小川 研一, 大井田 史継, 西谷 一晃, 伊藤 譲治
    1992 年 24 巻 7 号 p. 775-783
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    実験的右室梗塞における容積負荷とカテコールアミンの併用の奏効機序について検討した.雑種成犬20頭で右室梗塞を作製.色素希釈法により大腿静脈-肺動脈間(RBV)と肺動脈-大動脈間(LBV)の血液量とRBV/LBV(R/L)を測定算出した.また各心腔内圧測定と断層エコーを施行した.上記指標を(1)control,(2)梗塞後,(3)容積負荷後,(4)ドブタミン(DOB)投与後で測定し,さらにTTC染色で梗塞範囲を測定した.以上を容積負荷で一回拍出量が増加した群(R群)としなかった群(NR群)に分けて比較検討した.梗塞後にNR群の右室拡張終期圧とR/Lは高値で,拡張期両心室圧較差は負値を示した.梗塞範囲はNR群が大であった.容積負荷後に両群の%LBVは増加したがNR群で拡張期左室形状指数(心室中隔に平行する径とそれに直行する径の比:EI)とR/Lの増加を見た.DOB投与後はNR群の心拍出量も増加してEIとR/Lは低下した.以上から実験的右室梗塞における容積負荷奏効の有無は梗塞範囲に依存し,予測可能であることが示唆された.無効例のカテコールアミン併用は血行動態を改善するが,これは左室機能の改善に負うところが大きいと考えられた.
  • 石川 欽司, 金政 健, 浜 純吉, 小川 巌, 山下 圭造, 竹中 俊彦, 内藤 武夫, 宮崎 俊夫, 鎌田 勲昭, 山本 忠彦, 中井 ...
    1992 年 24 巻 7 号 p. 784-790
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心筋梗塞1,634件を1986年から58ヵ月間観察し,Ca拮抗薬,硝酸塩,抗血小板薬,β遮断薬,ワーファリン,脱コレステロール薬につき,再梗塞予防効果を判定した.Ca拮抗薬,硝酸塩,抗血小板薬は無作為に服用,非服用群にわけprospectiveに効果を判定し,他の3薬についてはretrospectiveに調査した.服用,非服用群間の患者背景に大きな差はなかった.再梗塞は91件(5.6%)にみられた.各薬剤別にこれをみると,抗血小板薬服用群908件では38件(4.2%)に再梗塞がみられたが,非服用群715件では53件(7.4%)にみられ,服用群の再梗塞発生率は有意(p<0.01)に低値であった.Odds比は0.55,95%信頼限界は0.36と0.84であり,服用群の再梗塞が有意に低値であることを示した.他薬の再梗塞はワーファリン服用群412件中22件(5.3%),非服用群1,218件中69件(5.7%),β遮断薬948中51(5.4%)と682中40(5.9%),脱コレステロール薬425中24(5.7%)と1,205中67(5.6%),Ca拮抗薬1,043中66(6.3%)と587中25(4.3%),硝酸塩1,091中73(6.7%)と539中18(3.3%)であり,服用群の再梗塞発生率が有意に低いものは抗血小板薬以外なかった.本研究での抗血小板薬はアスピリンにチクロピジンかジピリダモールを併用したものであり, これらの薬剤による血栓形成の阻止が再梗塞防止に有効であると結論された.
  • 松田 保
    1992 年 24 巻 7 号 p. 791-792
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 藤岡 達雄, 不藤 哲郎, 中江 出, 須澤 俊, 田巻 俊一, 荻野 均, 山里 有男, 久保 茂, 神原 啓文
    1992 年 24 巻 7 号 p. 793-798
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    解離性大動脈瘤の中に早期に偽腔内血栓を認め,大動脈解離のみで瘤の拡大をきたさない群を認める.これらの症例は,他の病型と比較して急性期予後は非常に良好であり,また慢性期の予後も良好である.
    1980年4月から1991年5月までの間に当院に入院した急性大動脈解離症例121例のうち早期偽腔内血栓閉塞を43例(35.5%)に認めた.40例に内科的治療を行い,急性期死亡例は1例のみであった.退院後の慢性期予後も平均49.2カ月(3~108カ月)の観察期間において,全例生存している.この43例のうち経食道エコー検査ならびにCT検査を反復して行い,経過観察し得た14例についてその血管像の経時的変化について検討した.
    14例の病型はStanford分類A型3例,B型11例であった.
    血管像の経時的変化については,平均18.6カ月の経過観察期間において14例中10例に偽腔内血栓像のほぼ完全な消退化を認めた.残り4例の偽腔内血栓像は不変で,血管径の拡大,偽腔への血流再開などは認めなかった.
    以上より早期閉塞型大動脈解離症例は,その偽腔内血栓像の経時的変化からみても長期予後は良好と考えられた.
  • 山本 真, 松尾 準雄, 佐地 勉, 松裏 裕行, 石北 隆, 高梨 吉則, 八巻 重雄, 福田 睦夫, 石原 啓志, 渡部 誠一
    1992 年 24 巻 7 号 p. 799-804
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    剖検により肺内肺静脈狭窄または閉塞性病変によることが示唆された,肺高血圧症の4歳女児例を報告した.症例は生後2カ月頃よりチアノーゼが出現,1歳時の心臓カテーテルにて2次孔心房中隔および心室中隔欠損症を確認した.ほぼ等圧の肺高血圧を認めたが年齢などから根治手術の適応と考え心内修復術を1歳1カ月時に施行した.しかし,術後7カ月に行った心臓カテーテルでは肺高血圧はむしろ進行していた.右心不全症状は徐々に進行し,4歳時突然死した.剖検肺のthe index of pulmonary vascular disease(IPVD)は1.2,Heath-Edwards分類でも3度と肺細小動脈の内膜病変は軽度であった.しかし,全肺葉において中膜の肥厚は著しく,これによる内腔閉塞が死因と考えられた.肺静脈病変は左上葉で強く,内膜の線維性肥厚を伴って内腔を狭窄または閉塞する所見を認め,脈動脈病変の原因と予想された.左右短絡を伴う先天性心疾患において,乳児期早期より明らかな肺高血圧所見を認めた場合,肺内肺静脈閉塞性病変も考慮しなければならないと考えられた.
  • 小西 宏明, 布施 勝生, 渡辺 泰徳, 小林 俊也, 石綿 清雄, 中西 成元, 関 顕, 河合 竜子, 原 満
    1992 年 24 巻 7 号 p. 805-809
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    急性期に診断された冠動脈病変合併の大動脈炎症候群の1例を報告する.症例は24歳女性で労作性狭心症を主訴に精査の結果,冠動脈入口部狭窄を伴った急性期大動脈炎症候群(CRP9+)と診断された.経過中不安定狭心症を呈したが,大動脈への手術操作上の問題から,プレドニン(PSL)投与にて炎症の鎮静化を待って,4カ月後冠動脈バイパス術を施行した.術前検査にて,弓部分枝ならびに腹部の血管に変化を認めたため静脈グラフトにてD1,LCX,RCAに3本バイパスを行った.術当日からPSLを再開したが,縦隔炎を合併し,一時イソジンによる持続灌流を行い治癒した.術後造影検査ではグラフトは良好に開存しており,現在,PSL30mgの隔日投与にて炎症,狭心症の再発もなく経過している.本症例においては手術時期の決定,術式,特にグラフトの選択,および術後のステロイド療法について示唆の多い症例であると思われた.
  • 伊藤 巌
    1992 年 24 巻 7 号 p. 810-811
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • DDDペーシング中不安定狭心症,胆嚢炎から急性心筋梗塞に至った1剖検例
    岩瀬 さちえ, 高柳 寛, 藤戸 恒生, 酒井 良彦, 諸岡 成徳, 高畠 豊, 大川 真一郎
    1992 年 24 巻 7 号 p. 812-816
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心臓ペーシング中の心筋虚血の診断は心電図上容易ではない.我々は,DDDペースメーカー植え込み後不安定狭心症と胆嚢炎を併発し,急性心筋梗塞に移行し死亡した例を経験した.症例は69歳男性で昭和62年7月高度房室ブロックによる失神発作のため,DDDペースメーカーを植え込んだ.同年12月胸痛と右季肋部痛のため再入院した.狭心症発作時の心電図はV3からV6で最大3.5mmのSTのdown slope型下降を示し,腹部エコーでは胆石症の併発を認めた.入院後狭心症は内科的治療に反応したが,翌1月11日再び季肋部痛を訴え熱発し,治療で一時緩解したが,2月4日に再び発熱,翌日STは持続的に下降し,血圧が急に下がり死亡した.剖検では急性および陳旧性の前側壁心筋梗塞と胆嚢炎を認め心臓刺激伝導系にも広範な両脚の高度線維症を見た.本例では症状とペーシング中の心電図では急性心筋梗塞の診断が困難であったためその対応について考察を加えた.
  • 野田 寛, 宮本 正樹, 壷井 英敏, 藤村 嘉彦, 加藤 智栄, 郷良 秀典, 古永 晃彦, 森 文樹, 江里 健輔, 西村 裕子, 古谷 ...
    1992 年 24 巻 7 号 p. 817-821
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    交連切開術後に左房内球状血栓(以下ball thrombus)をきたした僧帽弁狭窄症を2例経験したので報告する.症例1は66歳女性で9年前,当科で直視下交連切開術を受け,今回,一過性脳虚血発作をきたし,心エコー検査で左房内ball thrombusおよび僧帽弁再狭窄を指摘された.症例2は56歳男性で,23年前,閉鎖式交連切開術を受け,今回,偶然,心エコー検査で,左房内ball thrombusおよび僧帽弁再狭窄を指摘された.ともに準緊急的に血栓除去術と僧帽弁置換術( 症例1 ) および直視下交連切開術(症例2)がなされ,軽快退院した.経食道心断層エコー検査は左房内血栓の検出およびその性状の認識にきわめて優れており,遊離状ないし有茎性の左房内ball thrombusは急死をきたす危険があるため可及的速やかな外科的治療が必須であり,あわせて,血栓再発防止のため,抗凝固療法を含め慎重な術後管理が必要である.
  • 桑野 和則, 松山 公明, 宮崎 義隆, 古田 陽一郎, 本間 友基, 古賀 義則, 戸嶋 裕徳
    1992 年 24 巻 7 号 p. 822-827
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    肥大型心筋症(HCM)の肥大様式は極めて多彩であるが,今回心基部に限局した心室中隔肥大を認めた閉塞性HCMの1家系を報告する.発端者(症例1)は,胸痛のため当科入院し,症例2(娘)はその家系調査中発見され,症例3は心不全にて某院に入院していたことが判明し,また発端者の次女はApicalASHを示した.3例共第4肋間胸骨左縁を中心に収縮中期雑音を聴取し,心電図では症例1,2はT波平低化を,症例3では左室肥大,陰性T波を認めた.断層心エコー図では3例とも大動脈弁直下の心基部に限局する中隔肥厚を認めたが,他の部位の肥厚はなかった.Mモードでは,症例1,3は中隔に接する大きなSAMを,症例2も小さなSAMを認めた.心臓カテーテルでは3例とも安静時左室内圧較差と左室拡張末期圧の上昇が見られ,左室造影第1斜位像では,kidney型の左室変形が見られた.以上の3例は,Maronら,Wigleらが記載した心基部中隔に限局性肥厚を有するHCMに相当し,本邦での初報告例と思われた.
  • 平井 淳一, 青山 隆彦, 若杉 隆伸, 嵯峨 孝, 明石 宜博, 山崎 義亀與, 斉藤 和哉, 杉原 範彦, 清水 賢巳
    1992 年 24 巻 7 号 p. 828-833
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    64歳,女性.1987年1月頃から新聞配達時に胸部圧迫感を認め,健診にて心拡大と心電図異常を指摘され,翌年5月精査のため入院した.身体所見:脈拍68/分整,血圧128/60mmHg.心濁音界左界は左鎖骨中線1横指外方で,心尖部にLevine II度の収縮期雑音を聴く.検査成績:軽度の貧血を認める.呼吸機能,動脈血ガス分析値は正常.心胸郭比59%.心電図:V4R~1のR波は0.9~1.3mV,S波は0.1~O.2mV,R/S比6~9であった.I,aVL,V4~6にq波を認めたが,巨大陰性T波はなかった.ベクトル心電図:水平面図QRS環起始部は右前方に向かい,その後,前方に突出し,反時針式に回転した.心エコー図:後壁厚11mmで,心室中隔は乳頭筋レベルで20mmと肥厚していた.心音図:心尖部に高調な収縮早期雑音を認めた.CT,MRI:心室中隔中部が肥厚して左室に突出し,心尖部に及んでいた.心臓カテーテル検査:左室収縮能は良好であったが,kidney型の左室下壁の膨隆を認めた.冠動脈に狭窄はなく,右心系内圧も正常であった.心筋生検:心筋細胞の錯綜配列や核の変形はないが,中等度の心筋肥大と大きさのバラツキを認めた.
    以上,右側胸部誘導での著明なR波増大は,心室中隔中部から心尖部にかけて肥厚した心筋症によると考えられ,臨床上遭遇する機会が少ない例と思われた.
  • 徳部 浩司, 外村 洋一, 木村 義博, 木村 忠司, 師岡 公彦, 松永 敏郎, 宮山 東彦, 石原 明, 渡辺 進
    1992 年 24 巻 7 号 p. 834-839
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は41歳,男性.微熱,夜間呼吸困難,全身倦怠感および著しい下腿浮腫を訴え入院となった.両下肺野に湿性ラ音を,心音ではIII音,IV音と収縮期駆出性雑音を聴取した.両大腿に軽度の圧痛はあったが明らかな筋力低下は認められなかった.白血球12,700/mm3,血沈1時時間値32mm,CRP33.5mg/dlと炎症所見を認め,CPKは2,144IU/lと上昇していた.心胸郭比64%,心電図は洞性頻脈で肢誘導の低電位,I,aVL,V4~V6でST低下を認めた.心臓超音波検査,左心室造影でび漫性の壁運動の低下があり,左室心筋生検では炎症細胞浸潤と心内膜の軽度線維化がみられた.これらの所見より急性心筋炎とそれに伴う心不全と判断した.心筋炎の原因として当初ウイルス感染を最も疑ったが,入院後,咀嚼時筋痛と両大腿の脱力感が出現,CPKもMM型優位と判明し,さらに大腿四頭筋生検で炎症細胞の浸潤と局所的な筋線維の壊死を確認,以上から本症例は多発性筋炎で心筋炎はその一合併症であると診断した.ステロイド剤投与により臨床症状および諸検査はすみやかに改善し良好な経過を呈した.心電図も正常化し心筋の収縮不全も消失した.
    多彩な臨床症状を呈する多発性筋炎が急性心不全で発症することを示した貴重な症例である.
  • 池田 隆徳, 杉 薫, 円城寺 由久, 山下 一弘, 西脇 博一, 安部 良治, 二宮 健次, 矢吹 壮, 町井 潔, 高橋 啓, 直江 史 ...
    1992 年 24 巻 7 号 p. 840-846
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は82歳男性で,主訴は動悸.持続性心室頻拍(VT)と診断され,過去2回の心臓電気生理学的検査で,disopyramide 400mg/日とaprindine 40mg/日の併用投与が有効とされ,投与を受けていた.その後症状なく経過していたが,再びVTによる動悸発作が出現するようになり,入院となった.これまでの頻拍中の12誘導心電図のQRS形態を比較したところ,4種類のVTが認められ,その起源は左室側壁,前側壁,側壁基部および右室中隔と推定された.心エコー図では左室の軽度のび漫性壁運動障害が認められたが,左室駆出分画は58%と比較的良好であり,明らかな器質的心疾患を疑わせる所見は認められなかった.これまでVTはいずれもdisopyramide 100mgの静注で停止されていたが,入院後しだいにdisopyramideに抵抗性を示すようになり,また直流通電に対しても抵抗性を示すようになったため,VTを抑制する目的で右室からの一時ペーシングを試みた.しかし,閾値が異常に高くペーシングに対して心筋が反応しなくなり,VTによる血行動態の悪化で死亡した.剖検では心筋層と肺門部リンパ節内にラングハンス型巨細胞を混ずる肉芽腫の形成が認められ,サルコイドーシスと診断された.本症例のごとく,高齢者で明らかにQRS形態の異なる4種類の持続性VTを呈し,心サルコイドーシスと診断された症例はまれと考えられ報告した.
  • 大野 安彦, 羽里 信種, 宮内 克巳, 中里 祐二, 入江 嘉仁, 山田 崇之
    1992 年 24 巻 7 号 p. 847-851
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は54歳男性.生来健康であり無症状で経過していたが,平成2年5月の検診にて心拡大および心臓超音波検査上大量の心膜液貯留を認め,精査目的にて当科紹介入院となった.入院後採取した心膜液の分析では,外観が乳白色であり,鏡検上コレステロール結晶を認めない事.これに加えて心膜液内にSudanIIIに赤染する脂肪球を認め,かつ心膜液内トリグリセライドが血清中に比し有意に高値であった事より,原発性乳び心膜症と診断した.診断確後,胸管切除ならびに心膜開窓術を施行.術後経は順調であり,再発を認めていない.本疾患において,胸管と心膜腔との交通を直接または間接的に明する事は,比較的困難を伴う事が多いが,本例は胸管の術中造影を試み,心尖部に造影剤の貯留を明し得た貴重な症例と考えられた.
  • 小松 博史, 林 鐘声, 東道 伸二郎, 南川 哲寛, 松下 弘二, 沢田 淳
    1992 年 24 巻 7 号 p. 852-858
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は,4歳の男児で心エコーにより僧帽弁後尖に疣贅を認め,動静脈血よりStaphylococcus aureusを検出し,黄色ブドウ球菌性感染性心内膜炎と診断した.入院後強力な抗生剤治療を開始し,炎症反応はしだいに低下し,経過は順調であったが,入院後10日目胸部X線および心エコーにより左室高位側壁に仮性心室瘤の存在を疑われた.翌入院後11日目突然心破裂をきたし,死亡した.入院経過中心電図,心筋逸脱酵素の異常は認めていない.剖検では,仮性心室瘤は左室高位側壁に位置し,僧帽弁弁輪部との連続性はなく,心室瘤外面は心外膜により構成され中央がスリット状に穿破し心タンポナーデをきたしていた.僧帽弁弁輪部と連続性がないこと,心室瘤に連続した線維化巣内に膿瘍の形成を認めたこと,心筋障害部が限局性で境界が明瞭であったこと,検索した範囲で冠動脈に異常は認められなかったことより,まず心筋内膿瘍が形成され,後に心室腔と交通し,仮性心室瘤を形成したものと考えられた.黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎では,弁輪部の破壊は強力であり,弁輪部膿瘍や大動脈弁-僧帽弁弁輪間線維性結合部に発生した仮性心室瘤の報告も多い.しかし本症例のように左室自由壁に発生した仮性心室瘤は非常にまれであり,黄色ブドウ球菌性感染性心内膜炎ではこのようなまれな合併症も念頭に置き,治療に当たる必要があると考えられた.
  • 大江 透
    1992 年 24 巻 7 号 p. 860-871
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心筋梗塞に伴う心室性不整脈のうち,early(急性虚血時)とlate(陳旧性心筋梗塞)の時期に発生する心室頻拍の特徴を調べ,虚血性心疾患以外の患者に発生する心室頻拍との類似点と相異点を検討した.急性虚血に起こる心室頻拍は多形性心室頻拍で,発作時にST上昇を認め,QT延長がなく,多形性心室頻拍の心拍数が早く,短い連結期の心室期外収縮で誘発された.特発性の多形性心室頻拍は虚血性に類似していたが,QT延長症候群で起こる多形性心室頻拍はQT延長が著明,多形性心室頻拍の心拍数が比較的遅く,長い連結期の心室期外収縮で誘発された.陳旧性心筋梗塞の持続性心室頻拍は単形性で,心室期以外収縮により誘発-停止可能,entrainment現象を認め,fractionated activityが記録された.心筋症,右室異形成の患者で起こる単形性心室頻拍は陳旧性心筋梗塞と類似の電気生理学的特徴を有し,発生機序はreentryと考えられた.一方,特発性単形性持続性心室頻拍(verapamil sensitive VT)患者も電気生理学的特徴からreentryと推定された.しかし,fractionated activityを認めないことより陳旧性心筋梗塞とは異なるタイプの伝導遅延を有している事が示唆された.
  • 多田 道彦, 葛谷 恒彦, 星田 四朗
    1992 年 24 巻 7 号 p. 872-876
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    再灌流後の心筋障害の進展においてはオキシラジカルの過剰生成が病態代謝の一重要側面を形成しうる.オキシラジカルの産生源としては,少なくとも心筋細胞,血管内皮細胞,好中球の三者が関与し,これらが複雑に連動して微小循環の恒常性を破綻させるとともに直接心筋細胞膜を攻撃し,不可逆性障害への進行を促す.ラジカル生成の主たるトリガー機構は不明の点を残すが,これに続くアラキドン酸リポキシゲナーゼ代謝は,ラジカル連鎖反応の一環として重要な役割を演じると考えられる.オキシラジカルの主標的分子(膜機能蛋白質,細胞骨格など)を究明すること,さらには,上記の実験的知見を臨床病態にフィードバックしていくことが今後の課題である.
  • 有田 眞, 清末 達人
    1992 年 24 巻 7 号 p. 877-888
    発行日: 1992/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心筋が虚血に曝されると膜のK+透過性が変化し,静止電位や活動電位持続時間(APD)が変化する.そのため伝導速度の低下や不応期のばらつきが生じ,不整脈発生の要因となる.心筋梗塞のごとき急性虚血では,虚血部間質のK+濃度が7~8分以内に数倍に増加し,K+のコンダクタンスが増加するので,内向き整流K+電流(IKI,外向き電流)が増加しAPDの短縮をきたす.また細胞内のATP濃度が減少するためATP感受性K+チャネルが活性化されIK.ATP(外向き)が増加することもAPD短縮の重要な因子である.一方,虚血ではAPDを延長させる方向に働く因子も発現する.すなわち虚血で産生される両親媒性脂質中間代謝体lysophosphatidylcholineは,IKIの単一イオンチャネルのコンダクタンスを減少させることによりIKIを減少させ,脱分極とAPDの著明な延長をきたす.さらに虚血部では,血流途絶のため局所心筋温度が0.5~1℃低下するとの報告がある.モルモット単一心室筋細胞での検討によると,APDは1℃の温度低下当り,15%(~22ms)延長したが, これは主として遅延整流K+電流(IK)の活性化の遅れにあるものであった.すなわちこのような局所の心筋温度変化による不応期の変化も考慮に入れる必要があろう.
    心筋の急性虚血では,K+電流のみでもこのように多様な変化が生じており,それがさらに部位と時間によって変化するので,伝導速度や不応期の変化も,複雑多彩なものとなる.
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