心臓
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25 巻, 12 号
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  • 野田 俊之, 荒川 迪生, 高屋 忠丈, 長野 俊彦, 加川 憲作, 三輪 啓志, 西垣 和彦, 平川 千里
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1369-1376
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    [目的]右房・左房造影像より心房容積を計測し,“正常”心および心筋梗塞心の右房・左房機能を研究した.[方法]シリコンラバーを用いて右房16個・左房10個の鋳型を屍体心より作製し,正・側2方向X線撮影を行い,Simpsonの公式を用いた方法で容積を計測した.心臓カテーテル検査法にて“正常”心機能を有する7例(“正常”心群)と左室駆出分画が0.55未満に低下した陳旧性心筋梗塞患者8例(心筋梗塞心群)に右房・左房造影を施行した.心房容積を20-40msecごとに計測し,右房・左房容積-時間曲線を描いた.[結果]Simpsonの公式を用いた方法で計測した鋳型容積は,水置換法により測定した容積とよく相関した(右房;r=0.992,p<0.01,左房;r=0.995,p<0.01).“正常”心群においては,心房最大容積および心房収縮開始直前の心房容積は右房・左房問で有意差を認めなかったが,右房駆出量は左房駆出量より有意に大きかった.“正常”心群と心筋梗塞心群とを比較すると,心房最大容積および心房収縮開始直前の心房容積には右房・左房ともに有意差を認めなかったが,右房駆出量,左房駆出量,左室1回拍出量に対する右房・左房駆出量の割合は心筋梗塞心群が“正常”心群より有意に増大していた.[結論]“正常”心群では右房駆出量は左房駆出量よりも大きく,また,陳旧性心筋梗塞心群では右房・左房ともに心房駆出量が増加している,という事実関係を認めた.
  • 大和 眞史, 勝木 孝明, 大村 延博, 安 隆則, 仲田 郁子, 藤井 幹久, 児玉 和久, 岩村 文彦, 斎藤 宗靖
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1377-1383
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    [背景]不安定狭心症の冠動脈病変や短期予後の予測に関し,治療反応性,緊急冠動脈造影所見,発作時や運動負荷心電図が有用であるが,それらは初期診断に用いることはできない.そこで,初診時安静心電図の診断的意義を検討した.[方法と結果]Braunwald分類(1989年)に該当する不安定狭心症61例を対象とし,入院時安静心電図所見から,STT変化を示した41例(変化群)とST-T変化のない20例(変化なし群)に分類した.最終発作から平均4.2±4.3日目に施行した冠動脈造影所見を検討した.変化群は変化なし群に比べて,やや高齢で,最終発作から心電図記録までの日数は短く,入院前に遷延発作を有した患者が多かった.また多枝病変,複雑病変または血栓を多く認めた.冠スパズムは変化なし群に多い傾向であった.安静心電図において陰性T波かST変化を示した場合,多枝病変診断の感度60%・特異度84%,複雑病変または血栓に関して感度51%・特異度85%であった.変化群は左室壁運動異常を多く認め,最終的な治療として冠動脈形成術(32例)を選択する頻度に差はなかったが,冠動脈バイパス術(13例)を選択することが多かった.変化群で陰性T波のみを示した13例とST低下の28例との間には差がなかった.[要約]安静心電図でST-T変化を有する不安定狭心症は,多枝病変や複雑病変を有する可能性が高く,血行再建を要する症例が多い.
  • 門間 和夫, 今井 康晴
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1384-1390
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    28例の肺高血圧を合併する心室中隔欠損の心内修復手術後に心臓カテーテル検査を行い手術後17年以上の遠隔期まで追跡した.28例中の18例に手術後肺動脈収縮期圧50mmHg以上の肺高血圧が残遺し,手術後1ないし15年で肺高血圧により9例が死亡した.残り19例中の1例は手術後19年で高度の肺高血圧と右心不全を残している.残り18例は手術後17年以上の遠隔期に肺高血圧の症状なく通常の生活をしていた.手術後の肺動脈収縮期圧と予後の関係は,手術終了時に40mmHg以下なら良好,45mmHg以上なら要注意,ないし不良,手術後2-4週時に60mmHg以下なら良好,70mmHg以上なら要注意,手術後1-5年に60mmHg以下なら良好,60-80mmHgなら要注意,80mmHg以上なら絶対に不良であった.手術前,および手術後のカテーテル検査における塩酸トラゾリン試験は手術後肺高血圧の予後判定にある程度有用であった.
  • 溝部 宏毅, 柴田 仁太郎, 上田 哲郎, 細田 瑳一, 宮崎 吉弘, 笠原 信弥, 中野 淳平, 小松 行雄
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1391-1396
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心筋梗塞発症後の回復期の冠状動脈造影で有意狭窄を伴わない心筋梗塞症患者16例(男13例,女3例,平均年齢52±9歳)に対し,アセチルコリンによる冠攣縮誘発試験を行った.1例が心房細動を,1例が糖尿病を,2例が高脂血症を合併していた.喫煙歴を有するものは11例であった.心筋梗塞発症前に狭心症の既往があるものは19%と極めて少なかった.75%の例で冠状動脈の攣縮が誘発され,6例で1枝,2例で2枝,4例で3枝全てに誘発された.梗塞の責任血管で攣縮を起こしたのは6例であった.4例では急性期にも冠状動脈造影を行ったが,慢性期の誘発試験では4例とも閉塞部位と全く同じ部位では攣縮はみられなかった.攣縮の誘発率は下壁梗塞に比し前壁梗塞で多く,また高齢者に高い傾向があった.また右冠状動脈に起こりやすかった.
  • 鷹津 文麿
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1397-1398
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 岡野 嘉明, 永田 正毅, 土師 一夫, 山岸 正和, 大森 文夫
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1399-1406
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心臓カテーテル検査および冠動脈造影法を施行された後天性弁膜症連続1,354例を対象として,器質的な有意冠動脈病変を合併した症例の頻度と,各症例の臨床的特徴について検討した.後天性弁膜症における有意冠動脈病変の合併頻度は,5.2%であり,その約半数が1枝病変であった.高齢者,男性,単弁疾患とくに大動脈弁疾患に多く認められた.弁膜症の成因別では,大動脈炎症候群と動脈硬化性弁膜症において有意冠動脈病変の合併を多く認め,重症例の割合も高かった.
    僧帽弁狭窄症以外のリウマチ性弁膜症では冠動脈病変の合併はまれであり,僧帽弁狭窄症においても,比較的軽症な冠動脈病変が多かった.50歳以下の若年例と,左主幹部病変または多枝病変を有する重症冠動脈病変合併例の大多数は,大動脈炎症候群か冠動脈危険因子を有する症例であった.
    重症冠動脈病変合併例,狭心症を有する症例の大多数に弁冠同時手術を適応し,その成績および短期予後はほぼ満足すべきものであった.冠動脈病変合併の診断に際しては,年齢,性別,弁膜症の病型および成因,冠動脈危険因子の有無などの要因を考慮に入れることが重要と考えられた.
  • 澤木 章二, 吉岡 二郎, 赤羽 邦夫, 戸塚 信之, 丸山 隆久, 古田 精市
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1407-1411
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,女性.11年前に軽度の肺高血圧症を伴った心房中隔欠損症の手術歴があり,今回は動悸を主訴に入院した.胸部X線上拡張した肺動脈に石灰化を認め,残存シャントに伴う肺高血圧症の存在の有無も含め精査を行ったが,残存シャントは認められず肺動脈圧も正常であった.Eisenmenger症候群において肺動脈に石灰化を生ずる症例のあることは知られているが,軽症肺高血圧症で肺動脈に石灰化をきたした症例の報告は,我々の検索した限りなされておらず,極めてまれな症例と考えられた.本例においては肺循環系の血行動態的異常に加え高コレステロール血症と加齢が肺動脈の石灰化に関与している可能性が推定された.
  • 渡辺 孝, 平手 裕市, 大原 啓示, 阿部 稔雄, 田中 稔, 保浦 賢三, 細川 秀一, 松原 達昭
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1412-1416
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    23歳,女性の大動脈縮窄症(Co/Ao)に対し血管拡張用バルーンカテーテルを用いた拡張術(BDA)を行い,良好な結果を得た.縮窄部前後の収縮期圧較差は,施行前90mmHgであったのに対し,施行後1mmHgであり,BDA後4日で患者は退院できた.BDA施行中に,短期間の胸背部痛を認めたが大動脈造影および臨床上の問題は全くなく,6カ月を経過した現在元気に日常生活を送っている.成人Co/Aoに対するBDA療法は小児例と同様,慎重な症例の選択と手技を行えば極めて有用であると考えられた.
  • 田中 俊幸, 村山 晋, 竹沢 英郎
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1417-1423
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞の心電図に関する研究は数多くあるが,心筋梗塞発症の瞬間をとらえた報告は少ない.今回我々は,ホルター心電図装着中に急性心筋梗塞を発症した1例を経験し,その前後の心電図を詳細に検討することができたので報告する.患者は59歳男性.平成4年1月初旬より週3,4回,2,3分持続する前胸部圧迫感出現.狭心症の疑いで2月12日ホルター心電図を装着した.翌13日午前9時2分に冷汗を伴う激しい前胸部痛出現30分程続いたため外来受診した.心電図上II,III,aVFでST上昇していたため下壁心筋梗塞と診断,入院となった.梗塞発症時のホルター心電図を検討した結果,ST,Tの上昇は一様なものではなく,まずhorizontalに上昇し,次いでdown slopingとなり,最後にup slopingとなることが明らかとなった.しかもこれらの変化は梗塞発症後20分以内に起こっていた.従来心筋梗塞発症直後には,まずT波の増高が起こるといわれているが,本症例ではST上昇に先行するT波の増高は認められなかった.本症例の心電図変化が典型的なものかどうかは分からないが,心筋梗塞発症時の心電図の検討には,さらに多数例での解析が必要であると思われる.
  • 竹内 弘明, 安達 由美子, 福島 和之, 田中 政, 新谷 冨士雄, 薗部 友良, 大川 澄男
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1424-1428
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は9歳時より10年間の追跡中に急性心筋梗塞を発症した巨大冠動脈瘤を有する川崎病の19歳男性.この間計4回の冠動脈造影検査(CAG)を施行し,冠動脈の歴年変化を観察し得た.9歳時の大動脈根造影にて左右冠動脈の起始部に巨大冠動脈瘤を認めた.13歳時のfollow-up CAGでは右冠動脈(RCA)の近位部(巨大,ソーセージ状),中部(小,球状),遠位部(小,球状)の3カ所に冠動脈瘤を認めた.左冠動脈は主幹部と前下行枝(LAD)の近位部に内径15mmの球状の巨大冠動脈瘤をそれぞれ2個認めた.LADの造影遅延を認め,A-Cバイパス手術の適応につき検討したが,トレッドミル負荷心電図および負荷心筋シンチグラム等にて虚血の所見がなく,抗血小板剤を中心とした保存的治療の方針とした.17歳時のfollow-up CAGではLAD近位部の冠動脈瘤の内腔の縮小と造影遅延の消失を認めた.RCAは中部の完全閉塞および末梢へのbridge collateralを認めた.約1年半の怠薬後に広範な急性前壁中隔梗塞を発症した.CAGではRCAとLADの近位部の完全閉塞と左回旋枝動脈からの側副血行を認めた.左室造影では広範な前壁中隔領域のakinesisを呈した.
    中高年の動脈硬化性冠動脈病変に比べて複雑な川崎病冠動脈病変の歴年変化を小児期より10年近くに渡り観察し得た興味ある症例と考えられ報告した.
  • 安 永徹, 古賀 まゆみ, 吉井 英樹, 近藤 修
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1429-1432
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    生後40日の女児.発熱と発疹を主訴に,敗血症を疑い翌日入院,加療した.8病日の心エコー検査は異常なかったが13病日の心エコー検査で左右に4mm程度の冠動脈瘤と軽度の僧帽弁逆流を認め,川崎病と診断した.また発熱,発疹とCRPの上昇が再出現した.24病日に僧帽弁後尖の逸脱による高度の僧帽弁逆流が原因で急性左心不全症状を呈したため人工呼吸管理し,心不全に対する治療を行った.その後徐々に僧帽弁逆流の程度は軽減し,心不全症状は改善した.生後3カ月の冠動脈造影では異常を認めず,また僧帽弁逸脱はなかった.1歳時ではごく軽度の僧帽弁逆流を認めるのみである.
  • 伊藤 一貴, 首藤 達哉, 森口 次郎, 佐藤 重人, 富岡 裕彦, 甲原 忍, 細見 泰生, 平野 伸二, 杉原 洋樹, 河野 義雄, 朝 ...
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1433-1437
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は,安静時胸部症状を認めた多発性筋炎の35歳の男性.運動負荷心電図および運動負荷T1心筋シンチグラムでは陰性であったが,過呼吸負荷T1心筋シンチグラムで陽性であったことより,心臓カテーテル検査を施行.左室造影像では,心尖部に限局性の壁運動低下を認めたが,冠動脈造影では,有意な動脈硬化病変や血管炎などの所見は認められなかった.しかしエルゴノビン負荷により,左右冠動脈に冠攣縮を誘発し得た.心筋生検では,心筋線維の大小不同,間質および小細静脈周囲への炎症細胞の浸潤そして間質の線維変性を認めたことより,多発性筋炎により惹起された心筋炎が示唆された.これらより,本例の壁運動異常の機序として,多発性筋炎を基礎とした心筋炎によるものが推察された.安静時胸部症状の機序としては,過呼吸負荷T1心筋シンチグラフィーで再分布を伴う心筋灌流障害所見を認め,エルゴノビン負荷で冠攣縮を誘発できたことより,冠攣縮の関与が示唆された.
  • 野中 健史, 小石 沢正, 大滝 章男, 林 信成, 田所 雅克, 小久保 純, 藤木 達雄, 藤倉 知子, 池田 晃治, 水野 明, 須藤 ...
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1438-1442
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    慢性腎不全のため昭和58年来血液透析を受けている64歳,腹部大動脈瘤男性例に対しYグラフト移植術を施行した.術後度重なる不穏に対してハロペリドールを大量に使用し,これにより不穏を抑制することができたがQT延長をきたしRonTによると思われるVTを頻発した.ハロペリドールの使用を中止し,また透析吸着を行ったところQT延長も正常化しVTも出現しなくなった.ハロペリドールの最高血中濃度は10.6ng/dlであり治療濃度域内にコントロールされていた.
    [総括]ハロペリドール使用時は血中濃度が正常域でも不整脈に十分注意すべきである.
  • 橋本 敬太郎, 丹澤 泉
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1443-1444
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 杉浦 清了
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1447-1453
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    近年様々な病態における心筋収縮蛋白の構造変化が示されているがその機能的意義は必ずしも明らかでない場合が多い.このうち心筋ミオシンの構造変化と収縮機能の直接の対応を調べるためin vitro運動再構成系を用いて実験を行った.この実験系は分離精製したミオシン分子のATP加水分解によるエネルギーを利用して行う能動的な滑り運動を光学顕微鏡により観察するものである.無負荷の条件下ではミオシン分子のin vitroにおける滑り運動の速度はATPase活性の高いα 重鎖の割合と正の相関を示した.さらに遠心顕微鏡と呼ばれる装置により加えた定常負荷の下での滑り運動,そしてそれから得た張カ-速度関係は異なるミオシンアイソフォーム分子間での動力学的特性の差を示唆した.これらの実験系の特徴は極めて少数のミオシン分子のみが運動に関わっていることであり,まるごとの筋肉で観察される力学的特性が分子レベルでの性質に基づくものであることを示している.
  • 杉 晴夫
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1454-1460
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    筋収縮はミオシン頭部(ミオシンサブフラグメント-1)がアクチンフィラメントと結合-変型-解離サイクルを行うことによっておこると考えられてきたが,種々のプローブやX線回折により筋肉の力発生と同期したミオシン頭部の変型をとらえようとする試みは未だ成功していない.一方,ミオシンサブフラグメント-2(S-2)は,ミオシン頭部とミオシンフィラメントを連結する単なる弾性体とみなされてきた.我々の研究によれば,筋肉の弾性はアクチンフィラメントに由来し,S-2は筋肉中でのATP加水分解と共役した張力発生に不可欠な役割を果たしている.
  • 永井 良三, 黒尾 誠, 相川 真範, 金 孝珠, 中原 賢一
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1461-1468
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    動脈硬化の進展に血管平滑筋の増殖や細胞の形質変換が重要な役割を担っている.平滑筋の細胞形質の解析には,収縮蛋白をはじめとする細胞骨格の分析が非常に有力である.血管平滑筋には3種類のミオシン重鎖アイソフォームが存在し,平滑筋の分化状態に応じて発現を変換する.とくに実験的血管障害に増殖する平滑筋は,胎児期のミオシン重鎖の発現様式を示すことが特徴的である.胎児型ミオシン重鎖は増殖平滑筋,PDGF刺激で発現が亢進し,その遺伝子転写調節機構の解析が増殖と分化の関係を解明するうえで重要と考えられる.
    一方,ヒト動脈硬化は,動物よりもはるかに長い時間を経て形成されるため,ウサギとは異なる経過で病変が形成される.とくに冠動脈では出生後早期より平滑筋増殖による内膜肥厚が進行し,20歳前後にはしばしば中膜以上の肥厚を認める.冠動脈の内膜平滑筋は中膜平滑筋とは異なる状態にあることは,ミオシンの発現パターンから明らかである.高齢者冠動脈では内膜平滑筋が減少し,線繊化したプラーク内に,新生血管が出現し,この周囲にマクロファージやリンパ球様細胞が集簇していた.また冠動脈にプラークが形成されると,内膜平滑筋だけでなく中膜平滑筋でもミオシンの発現量が減少する.高血圧症に伴う細小動脈硬化症は,腎生検標本の血管平滑筋ミオシンの発現が有用な指標になる.
  • 木村 彰方
    1993 年 25 巻 12 号 p. 1469-1478
    発行日: 1993/12/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    肥大型心筋症の原因遺伝子座の検索を行った.欧米人の一部の症例で報告されているように,日本人症例についても,約20%において心筋βミオシン重鎖遺伝子のミスセンス変異が見出された.これらのミスセンス変異は欧米人,日本人のいずれにおいても,多くは症例毎に異なっていた.一方,連鎖解析から,心筋βミオシン重鎖遺伝子に変異の存在しない症例の存在が明らかとなっており,肥大型心筋症の原因遺伝子座は単一ではない,すなわち本症は遺伝的に不均一な優性遺伝性疾患であると考えられた.
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