拡張型心筋症(DCM)では血栓塞栓症を合併しやすいとされるが,本邦での検討成績は少ない.本症剖検50例について心腔内血栓および梗塞の有無を調べ,塞栓症の既往例については臨床像も検討した.
対象は,1972年1月から1990年5月までに当科で剖検を行った50例で,男性39例,女性11例,死亡時年齢は15歳から73歳,平均44.3歳であった.塞栓症既往例は10例で,男性7例,女性3例,死亡時年齢は17歳から65歳,平均40.9歳,観察期間は6カ月から8.1年,平均3.3年であった.
その結果,剖検上,心腔内血栓は50例中35例(70%)で認められた.部位は左室25例(50%),右房6例(12%),右心耳5例(10%),左房4例(8%),左心耳2例(4%),右室9例(18%)であった.他臓器の梗塞像は腎20例(39%),肺12例(24%),脾5例(10),脳3例(13%),腸間膜2例(4%)であった.塞栓症10例の部位は,脳5例,肺3例,上肢1例,下肢1例であった.発症時の心機能はNYHA分類上IV度5例,IV度から改善直後3例,II度2例と80%に明らかな心不全を認めた.心電図では3例に心房細動,1例に上室性頻拍を認めた.塞栓合併例では8例(80%)に剖検上心腔内血栓が認められた.塞栓発症例に対してはwarfarin, ticlopidineが投与され,再発は認めなかった.
塞栓症はDCMの予後悪化要因であり,warfarinなどによる抗血栓療法が必要と考えられた.
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