心臓
Online ISSN : 2186-3016
Print ISSN : 0586-4488
ISSN-L : 0586-4488
25 巻, 7 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
  • 山室 真澄, 高沢 賢次, 細田 泰之
    1993 年 25 巻 7 号 p. 747-752
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    20人の冠動脈バイパス手術後の患者について血清ミオシン軽鎖I(MLC I)を測定したところ,その流出曲線は3種類の異なる変化を示した.4人の患者でのMLC Iは,術後3日目でピーク値16.8±6.2ng/mlとなり,その後第7病日までに速やかに減少した.他の12人の患者では,第3日目にピーク値16.3±4.5ng/mlとなり,第7病日までも高値が遷延した.残りの4人では,MLC Iのピーク値は5.6±2.2ng/mlと,極めて軽度の上昇を示したのみであった.術前後の心拍出量の差ΔCOは第2群でやや低値を示したものの,各群間に有意差はなかった.CK-MBならびにGOTに関しては第1群と第2群間で変化様式に違いはなかったが,第3群ではこれらも極めて低値を示したに留まった.大動脈遮断時間とMLC Iのピーク値との間には相関関係はなかった.従来より用いられていたCK-MB,GOTより鋭敏に心筋障害を反映するMLC Iの測定は,心臓外科領域において周術期心筋梗塞の診断および心筋保護法の研究に極めて有用であると思われる.
  • 鰺坂 隆一, 外山 昌弘, 渡辺 重行, 杉下 靖郎, 斉藤 巧, 山内 孝義, 増岡 健志
    1993 年 25 巻 7 号 p. 753-758
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    運動負荷試験における分時換気量(VE)/酸素摂取量(VO2),肺胞換気量(VA)/VO2,死腔換気量(VD)/VO2および動脈血乳酸濃度(L)の推移を観察し,換気閾値と乳酸閾値の関係について検討した.対象は呼吸器疾患を合併していない各種心疾患男性患者35例(年齢57±13歳)である.運動負荷は坐位エルゴメーターを用い1分間に10ワットずつ漸増し,激しい疲労にて中止とした.呼気ガス分析法により,VE,VO2および炭酸ガス排泄量(VCO2)を,動脈血採血にてLおよび炭酸ガス分圧(PaCO2)を各々経時的に測定し,VA,VDは各々VA=O.863,VCO2/PaCO2,VD=VE-VAより算出した.嫌気性代謝閾値(AT)を,VE/VO2の上昇を伴わずにVE/VO2が上昇し始める点(VE-AT),VA/VO2が上昇し始める点(VA-AT),Lが急峻に増加し始める点(LT)として求め,各々対応するVO2の値(ml/体重kg/分)で表わした.結果:1)VA-AT(10.1±1.9)はLT(10.2±1.8)とほぼ一致したが,VE-AT(12.7±2.9)はLTより有意に(p<0.01)大なる値をとった.2)VE/VO2は減少-不変-増加の三相性の変化を示したが,その原因はVA/VO2とVD/VO2の推移が異なることによった.結論:VA-ATはLTとほぼ同時に出現し,運動筋の代謝変化を時間的ずれなく反映することが示唆された.一方,VE-ATはこれらより遅れて出現したが,その原因はVA/VO2の増加をVD/VO2の減少が相殺する時相が存在するためであった.換気閾値とLTの解離には死腔換気動態による修飾が関与すると考えられた.
  • 瀧島 任
    1993 年 25 巻 7 号 p. 759-760
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • アンケート調査による検討
    横山 斉, 羽根田 潔, 近江三 喜男, 佐藤 尚, 三浦 誠, 佐藤 香, 毛利 平, 村田 祐二
    1993 年 25 巻 7 号 p. 761-764
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    1971年以降に行ったDown症候群を合併した先天性心疾患患児に対する根治手術の生存例50例を対象とし,遠隔期の検討をアンケート調査等で行った.男26例,女24例で,手術時年齢は平均2.4歳であった.心疾患の主な内訳は心室中隔欠損症(VSD)が29例(58%),心内膜床欠損症が11例(22%)であった.術後の追跡期間は平均7.4年であった.NYHA分類で82%はI度であり,18%はII度であった.就学者のうち65.5%は学校で運動制限のない生活を送っており,全く運動をしていない症例は2例(6.9%)のみであった.18歳以上の症例中4例は精神薄弱者養護施設に入所中であり,他の2例は両親と共に生活しており無職であった.6歳以上の35例における日常生活の様相の検討では,90%以上の症例は1人でトイレに行き,箸を使い,歯を磨き,衣服の着脱も可能であったが,他人の言葉を理解できるのは85%,身の回りの清潔を保てるのは61%,理解をもって会話できるのは28%であった.ペースメーカー植え込み以外の再手術例はなかった.1例が急性白血病のために入院加療中である.遠隔死は1例あり,4カ月時にVSDおよびASDの閉鎖術が行われた女児が9カ月後に上気道閉塞による無呼吸発作のため死亡した.術後20年の累積生存率は98%であった.
    Down疾患児の先天性心疾患根治術後の遠隔期における生活様式および就業状況に関してはDown症自体に起因する理由で不十分ではあるものの,多くの症例が自覚症状もなく運動制限のない生活を送っており,術後の生命予後は良好と思われた.
  • Arterial switch術とatrial switch術との比較検討
    南沢 享, 中沢 誠, 門間 和夫
    1993 年 25 巻 7 号 p. 765-769
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    Jatene手術後の完全大血管転換症(d-TGA)患者(J群)26例(男17,女9,平均年齢6.2±1.2歳,術後4.9±1.4年)と,年齢を対応させたSenning手術後のd-TGA患者(S群)13例(男10,女3,平均年齢6.6±1.6歳,術後5.8±1.7年)を対象に,Bruce法ないしSheffield法によるトレッドミル運動負荷試験を施行した.1)J群の1例が心房粗動,1例がST低下のため途中で負荷を中止した以外,自覚的最大負荷が可能であった.2)運動耐容時間,最高心拍数はJ群14.0±2.7分,153±24bpm,S群15.0±3.0分,157±21bpmで,両群間に差はなく,両群とも健康児童に比べ有意に低値であった.術後合併症を認めないJ群9例でも,運動耐容時間,最高心拍数は健康児童に比べ有意に低値であった(14.7±2.3分,152±17bpm).
    d-TGA術後患児の運動耐容時間,最高心拍数は,同年齢の健康児童に比べ,低値であったが,術式による相違は認めなかった.今後は経年的変化の観察や酸素摂取量の測定など,より詳細な検討が必要と考えられた.
  • 日本アイ・ビー・エム寄付による日本心臓財団研究助成「不整脈治療の適用と評価に関する研究」班調査報告
    杉本 恒明, 相沢 義房, 小川 聡, 笠 貫宏, 加世田 俊一, 外山 淳治, 中屋 豊, 橋本 敬太郎, 深谷 眞彦, 村川 裕二, 井 ...
    1993 年 25 巻 7 号 p. 770-777
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    持続性心室頻拍とWPW症候群の発作性心房細動(偽性心室頻拍)の予後を全国24施設の協力を得て調査した.平均33±44カ月の観察期間において,心室頻拍90例中4例の不整脈死と2例の心不全死がみられた.死亡例は陳旧性心筋梗塞または拡張型心筋症を基礎とし,高年齢,頻拍発作頻発,心機能低下の例に多かった.薬物治療ではIa群薬静注が停止効果にすぐれており,長期効果ではIII群薬が高い抑制率をみせた.偽性心室頻拍は78例について,49±18カ月の観察期間中に不整脈死2例と心不全死1例が経験された.ハイ・リスク例では侵襲的治療により,予後の改善があったと考えられた.I群薬静注の頻拍停止効果は高くなかったが,経口長期投与の有効性は高かった.
  • 数間 紀夫, 本間 哲, 伊藤 けい子, 李 慶英, 浅井 利夫, 村田 光範
    1993 年 25 巻 7 号 p. 778-781
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    Down症候群には,心室中隔欠損症を合併する率が高く,従来から肺高血圧症の進行については問題にされている.一方,Down症候群の心室中隔欠損症の多くは膜性部周辺型欠損であるため,大動脈弁逸脱からの大動脈弁閉鎖不全の合併については報告が少なく,あまり注目されていない.本症は,Down症候群の12歳の男児例で,膜性部周辺型欠損の心室中隔欠損症が自然閉鎖し心室中隔膜性部瘤を形成しており,同時に大動脈弁逸脱と大動脈弁閉鎖不全があった.大動脈弁逸脱は無冠尖および無冠尖側の右冠尖の一部であり,大動脈弁閉鎖不全はSellers分類のII度であった.膜性部周辺型欠損部に弁尖が逸脱し,その結果大動脈弁閉鎖不全が生じた可能性がある.Down症候群の小児期においては,本例のような報告例はきわめて少ないが,自然閉鎖の心室中隔欠損症にも大動脈弁逸脱が起き大動脈弁閉鎖不全を合併している場合がある.Down症候群の心臓管理上,肺高血圧の進行のみならず,大動脈弁閉鎖不全の合併にも注意し,長期にわたる経過観察が必要である.
  • 川口 克廣, 村松 雅人, 岩間 芳生, 土岐 幸生, 宮崎 豊, 奥村 健二, 橋本 秀和, 伊藤 隆之
    1993 年 25 巻 7 号 p. 782-786
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    20歳男性.血痰を主訴として来院.自覚症状としては階段昇降時に息切れがあるも,日常生活に特に支障はなかった.胸骨左縁第4肋間のLevine II/VI度収縮期雑音と単一II音を聴取した.動脈血ガス分析ではPO2 39mmHgと著明な低酸素血症を認めた.胸部X線写真では肺動脈陰影の増加と左第4弓の突出,左第1弓の消失を認めた.心電図は右軸偏位,右房負荷,両室肥大の所見を示した.心超音波左室長軸像では心室中隔欠損,大動脈の騎乗および左上大静脈遺残を認め,Fallot四徴症の診断にて,両心カテーテル検査を施行した.大動脈造影にて上行大動脈より分岐する主肺動脈を認め,総動脈幹症Van Praagh分類A1型と診断した.全肺血管抵抗は17.7U・m2で,100%酸素吸入後も18.7U・m2と高値を示し,根治手術の適応はないと判断した.
    総動脈幹症は先天性心疾患の0.7%から2.8%と比較的まれな疾患であり,外科的治療を加えなければ,そのほとんどが乳幼児期に死亡している.今回,我々は自然歴での20歳男性の総動脈幹症成人例を経験したので,本邦報告例を含め若干の検討を加えて報告する.
  • 坪川 明義, 近藤 真言, 安部 美輝, 村山 敏典, 後藤 昌久, 川端 浩, 谷尾 仁志, 霜野 幸雄
    1993 年 25 巻 7 号 p. 787-791
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    アセチルコリン負荷試験にて冠動脈攣縮を認めた部位に冠動脈閉塞をきたした急性心筋梗塞の症例を報告する.
    症例は50歳,男性.1985年頃より胸部圧迫感を自覚するも放置していた.1988年に健康診断時の心電図にて異常を指摘され精査目的入院となった.心臓カテーテル検査を施行し,右冠動脈内へのアセチルコリン負荷試験により下壁誘導のST上昇とともに#2以下の部位にdiffuse spasmを認めた.この変化はニトログリセリンの冠動脈内注入により改善した.諸検査により前壁陳旧性心筋梗塞,冠動脈攣縮性狭心症と診断し内服治療を開始した.初回入院から2年後の1990年,急性心筋梗塞を発症し再入院となった.緊急冠動脈造影にて前回冠動脈攣縮を認めた#2が完全閉塞しており,ウロキナーゼを用いた冠動脈内血栓溶解療法を施行することにより残余狭窄を残して改善した.本症例では,冠動脈攣縮を認めた部位に冠動脈硬化が進展し完全閉塞を起こし急性心筋梗塞を発症したことが冠動脈造影にて証明され,冠動脈攣縮の冠動脈硬化進展との関連性および,梗塞発症への関与を示唆する興味ある症例と考えられる.
  • 種市 麻衣子, 石井 良直, 松橋 浩伸, 小川 裕二, 川嶋 栄司, 羽根田 俊, 山下 裕久, 飛世 克之, 小野寺 壮吉, 木原 一
    1993 年 25 巻 7 号 p. 792-797
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,男性.早朝の軽労作時の胸痛を主訴に当科に入院した.トレッドミル運動負荷試験では,胸痛とII,III,aVFでST上昇を認めた.冠動脈造影では,右冠動脈seg.2がアセチルコリンの冠注で完全閉塞となったが,硝酸イソソルビド冠注で55%狭窄に改善した.その後Ca拮抗薬による治療を開始したが,発作は緩解せず,硝酸薬等を追加し,発作は減少した.しかしトレッドミル運動負荷試験では,胸痛とST下降がみられ,また201T1運動負荷心筋シンチグラムでは,下壁に再分布のあるlow perfusionを認めた.そのため初回の冠動脈造影から約1カ月後に再度冠動脈造影を施行したところ,seg.2の狭窄は90%へ進行していた.以上より本症例は頻回の冠攣縮が狭窄進行の誘因となったことが推測される.1カ月という短期間に著明な狭窄の進行をみた例はまれであり,報告する.
  • 黒岩 昭夫
    1993 年 25 巻 7 号 p. 798-799
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 奥野 隆久, 正津 晃
    1993 年 25 巻 7 号 p. 800-803
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    等頻度房室解離の際,P波とQRSが重なった状態では,房室弁閉鎖時に心房収縮が起こるため,心房内血液は後方に逆流し,このため心房圧上昇(cannona wave),血圧低下をきたす.しかし通常は生理的フィードバック機構が働くので,その変化は一時的で,P波は前方に移動しはじめ,臨床上問題とならない.しかしA-Cバイパス直後,あるいはPTCR直後のような心臓危機の際にこれが起こると,フィードバック機購が働きにくいため,P波とQRSが重なった状態が持続し,血圧低下,心房圧上昇をきたすことを,2症例の心電図,動脈圧,右房圧同時記録により提示した.この際,右房ペーシングあるいはIABPが有効であった.
  • 小菅 雅美, 石川 利之, 瀧 晋一, 久慈 直光, 落合 久夫, 木村 一雄, 宮崎 直道, 二瓶 東洋, 栃久 保修, 石井 當男
    1993 年 25 巻 7 号 p. 804-808
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は18歳の男性で,頻拍の精査目的で当科に入院した. 心電図上, 毎分130のnarrow QRS 型(RP<PR)の頻拍が洞調律から起こっており,この時のPQ時間はO.28秒と延長していた.また,頻拍は心房波を認めたのち停止していた.長時間記録心電図では,narrow QRS型の頻拍が頻回に間欠的に出現し,いわゆるincessant型を呈していた.電気生理学的検査の所見では,頻拍中の心房内興奮順序は右房前中隔が最早期興奮部位であり,またatrial preexcitationphenomenonが認められた.以上より本症例は,右房前中隔に逆行性伝導のみ可能の副伝導路を有するconcealed Wolff-Parkinson - White 症候群と診断.頻拍は,房室結節・ヒス束を順行性に,副伝導路を逆行性に回旋する房室回帰性頻拍と考えられた.頻拍は,洞調律から起こっており,この時のAH時間は190msecと延長していた.
    房室回帰性頻拍が,いわゆるincessant型を呈する場合,頻拍の多くは心房性期外収縮から起こる.本症例のように頻拍を洞調律より繰り返し起こすことはまれであり,これにはAH時間の延長の関与が考えられた.
  • 堀本 和志, 佐藤 文彦, 五十嵐 慶一, 竹中 孝, 藤原 正文, 高橋 亘
    1993 年 25 巻 7 号 p. 809-814
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    縦隔への放射線照射後に発現した肺動脈漏斗部狭窄症はまれであり,これまで5例の報告がある.我々は,乳癌術後に縦隔に放射線照射を受けたのち冠動脈疾患に陥り,その精査時に肺動脈漏斗部狭窄症と弁膜逆流を認めた2例を経験したので報告する.
    1例は57歳女性で,放射線照射4年後(47歳時)から労作狭心症に陥り,慢性心外膜炎による心膜液貯留を示した.精査にてmoderateな大動脈弁逆流とmildな僧帽弁逆流,左冠動脈前下行枝起始部の99%狭窄,第1対角枝起始部の75%狭窄,右室流入路と流出路間に21mmHgの収縮期圧較差を認め,右室造影にて軽度の漏斗部狭窄をみた.治療として大動脈弁置換術と大動脈冠動脈バイパス手術を行った.2例目は61歳女性で,放射線照射27年後に急性下壁心筋梗塞に陥り,精査にてmildな大動脈弁逆流,右冠動脈近位部の完全閉塞,右室流入路と流出路間に23mmHgの収縮期圧較差を認め,右室造影にて漏斗部狭窄をみた.いずれの例でも冠疾患発症までの冠危険因子の関与が弱く,しかも放射線照射部位に相当する胸骨あるいは肋軟骨が壊死しており,漏斗部狭窄を含む諸病変は放射線照射が原因と考えられた.放射線照射後の肺動脈漏斗部狭窄の機序として,照射部位の線維性肥厚と収縮が推察され,検出した冠動脈病変部位が主たる冠動脈の起始部あるいは近位部に限局していたことは,放射線照射による冠動脈疾患部位についての過去の報告とも合致した.
  • 佐々木 建志, 原田 厚, 加治 正弘, 榊原 重泰, 笹井 巧, 朽方 規喜, 野見 山哲, 田中 茂夫, 池下 正敏, 庄司 佑
    1993 年 25 巻 7 号 p. 815-820
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    左鎖骨下動脈起始異常,食道後方大動脈分節を伴う右大動脈弓にStanford B型急性大動脈離を発症したまれな1例を経験した.
    症例は65歳,男性,高血圧の既往はない.夜勤勤務中に突発する背部痛で発症し,胸部X線写真,ECG,超音波検査などから大動脈解離が疑われた.CTにて食道後方大動脈分節と左鎖骨下動脈起始異常を伴う右大動脈弓,そして弓部遠位より横隔膜レベルまでの下行大動脈に,血栓閉塞した解離腔を認めた.急性期合併症はなく,B型で解離腔血栓閉塞症例のため保存的治療を選択した.経過は良好で,CT,および大動脈造影上,内膜亀裂部に嚢状の解離腔を認めるが拡大傾向はなく,他の解離腔は消失しているため,現在外来にて慎重に経過観察中である.
    右大動脈弓に大動脈解離を発症した報告は少なく,現在までに9例を数えるのみであり,自験例を加え本症の発症機序,手術術式について若干の考察を加え報告した.
  • 和泉 徹, 小玉 誠, 佐伯 牧彦, 張 少松, 塙 晴雄, 柴田 昭
    1993 年 25 巻 7 号 p. 821-832
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心筋ミオシンの抗原性と,その自己免疫的心筋細胞障害が今日的課題である.既に,抗心筋ミオシン抗体の存在は,マウスでの自然抗体や,サイトメガロウイルス心筋炎の発症因子として注目されてきた.また,マウスの感作実験で心筋炎が惹起されている.我々は,ヒト心筋ミオシン分画をLewisラットに感作して,心不全を伴う重症心筋炎モデルを作成できた.しかも,この心筋炎はレクチンで活性化されたリンパ球によって受け身トランスファーされた.この実験的心筋炎の特徴は,(1)致死的である,(2) 右室や心外膜心筋が侵されやすい, (3) マクロファージの浸潤が顕著,(4)多核巨細胞を伴う,(5)T細胞依存性心筋細胞障害を示す,の5点にまとめられる.この新しい動物モデルは,自己免疫性心筋炎,巨細胞性心筋炎,過敏性心筋炎,心筋炎後心筋症の病因解明や治療法の確立に貢献すると期待される.
  • 加藤 光敏, 武田 信彬
    1993 年 25 巻 7 号 p. 833-845
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    特発性心筋症の病因はいまだ明らかにされていないが,実験動物を用いた基礎的な研究より様々な研究成果が報告されつつある.今回,J-2-N心筋症ハムスターを用いて以下のような検討を行った.
    心筋症ハムスターJ-2-Nの心筋より作製した心筋形質膜小胞における検討では,Na+K+ATPase,Ca2+ATPase,Na+/Ca2+exchangeの低下が,対照群に比しJ-2-Nにおいて認められ,これらは心筋症ハムスターにおけるCa2+overloadをきたす方向への障害であった.またミトコンドリア内膜に存在するADP/ATP担体蛋白質(AAC)はATPを細胞質に,またADPをミトコンドリア内に輸送する重要な蛋白質である.AACのミトコンドリア膜蛋白質に対する含有率を測定することができたが,その結果J-2-NハムスターのAACは対照ゴールデンハムスターより有意に低く,またJ-2-Nの中でも,早期に心筋障害が惹起されたものほどAACは低い傾向にあった.これより心筋症ハムスターにおいてATP,ADPの輸送異常の存在する可能性が示唆された.左室乳頭筋を用いた心筋収縮力の測定では,心電図変化の著しいJ-2-Nでは心筋の収縮力は低下し,心筋収縮エナジェティクスに関与する心筋ミオシンアイソザイムも, ATPase 活性が低くエネルギー効率の良いV3優位に変化していた.これらの変化は心筋収縮エネルギー効率を良くして収縮力を保持しようとするための適応と考えられた.
    この心筋症ハムスターを用いて数種の薬剤投与を行ったが,血管拡張作用を持つβ遮断薬であるニプラジロール(10mg/kg)を10週間投与し,対照群に比し心筋形質膜Na+K+ATPase等の指標にて有意の改善をみた.
  • 臨床的ならびに実験的研究
    田中 弘允, 中尾 正一郎, 前田 雅人, 宮里 浩高, 瀬戸口 学, 枇榔 貞利, 阿南 隆一郎, 樋口 逸郎, 納 光弘, 吉田 愛知
    1993 年 25 巻 7 号 p. 846-858
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    Duchenne型進行性筋ジストロフィー症で欠損する細胞骨格蛋白であるジストロフィンが最近発見された.しかし心筋疾患におけるジストロフィンについては明らかでないため,臨床例ならびに実験的心筋障害モデルで検討した.心筋ジストロフィンはモノクローナル抗ジストロフィン抗体を用いた免疫組織染色により評価した.
    Becker型筋ジストロフィーでは高率に心不全を含む心異常がみられた.また心筋にも骨格筋と同様のジストロフィンの異常(一部欠損あるいは欠損)が認められたが,その他の各種心疾患80例(肥大型心筋症30,拡張型心筋症14,心筋炎9,弁膜症10,その他17)ではジストロフィンの異常は見いだせなかった.
    Wistar ratを用いたイソプロテレノールによる心筋障害では,強く障害された心筋細胞の大部分でジストロフィンは染色されなかった.一方障害の強くない心筋細胞では,投与後24時間,48時間でジストロフィンが染色されない細胞が観察された.新生児ラット培養心筋では,ジストロフィンは培養2日目に主に核の周囲に認められ,培養4,7日目では核周囲以外にもひろがってみられ,14日目では細胞全体に認められた.
  • 杉山 理, 小澤 高将
    1993 年 25 巻 7 号 p. 859-871
    発行日: 1993/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    エネルギー代謝の要であるミトコンドリアは,それ自身DNAを有する.そして,ミトコンドリアDNAは,そのエネルギー産生系の約60あるサブユニットの内,13のサブユニットの情報を納めている.ミトコンドリアDNAは核DNAよりはるかに変異を起こしやすい.またほとんどの情報が発現されるため,ミトコンドリアDNA変異はエネルギー産生系の障害に直結すると考えられている.ミトコンドリアDNAは16,569塩基対と核DNAよりはるかに小さいが,その全塩基配列の決定には,かなりの労力を要する.我々は,全塩基配列決定のための最適のプライマー対と,これを用いた蛍光色素シークエンス法を開発し肥大型心筋症患者のミトコンドリアDNA変異を検討した.肥大型心筋症の患者間で共通の点変異は認められなかったが,いずれの症例にも,各種族間で保存されているアミノ酸変異を引き起こす点変異を含めいくつかの点変異が認められた.またtRNA,rRNA遺伝子に変異を認める症例も含まれていた.さらにミトコンドリア遺伝子欠失も認められた.ミトコンドリアDNAは母系遺伝するところから常染色体優性遺伝による肥大型心筋症以外の心筋症にはミトコンドリアDNAの点変異と欠失がその原因となっているものがあると考えられる.
feedback
Top