心臓
Online ISSN : 2186-3016
Print ISSN : 0586-4488
ISSN-L : 0586-4488
26 巻, 7 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
  • 心拍数増加時の変動および心室頻拍との関連
    鼠尾 祥三, 井上 省三, 田中 淳二, 田村 敬二, 河原 洋介, 佐藤 徹, 中村 節, 斉藤 靖浩, 長谷川 浩一, 沢山 俊民
    1994 年 26 巻 7 号 p. 687-692
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    肥大型心筋症27例における右室心尖部と流出路の有効不応期(ERP)と不応期の不均一性(ΔERP)を測定し,心拍数増加時の変動,心室頻拍や心筋障害との関連などについて検討した.健常14例を対照とした.
    1.ERPは正常心拍数時には健常群よりも有意に延長し,流出路よりも心尖部でより延長した.
    2.心房ペーシングによる心拍数増加時(120/分)のERPは,両群とも正常心拍数時に比し有意に短縮し,両群間の有意差がなくなった.
    3.ΔERPは正常心拍数時(22±15msec),心房ペーシング時(18±14msec)とも健常群よりも有意に大であった.27例中9例では安静時よりもペーシングによる心拍数増加時にΔERPがより増大し(+19±12msec),その程度も健常群より有意に大であった.
    4.正常心拍数時またはペーシング時にΔERPが大であった群(ΔERP≧20msec)では,Holter心電図で56%に心室頻拍を認め,ΔERP<20msec群より有意に多かった.
    以上,肥大型心筋症では右室ERPが延長し(正常心拍数時),ΔERPの大なる例が多いことが示された.また,本症では心室頻拍発生にΔERP増大が関与しており, Δ E R P が大で致死的心室性不整脈を発生しやすい状況にある例が少なからず存在することが示された.心拍数増加時にΔERPがより増大する現象は,運動中の突然死を引き起こす因子になる可能性がうかがわれた.
  • 渡辺 直, 林 和秀, 西中 知博, 打田 俊司, 山西 秀樹, 南 勝晴, 阿部 秀樹, 青木 健郎, 河合 裕子, 木住野 晧, 太田 ...
    1994 年 26 巻 7 号 p. 693-705
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    1990年6月から93年5月までに20例(男17例,女3例;40~88[64.9±12.2]歳)の発症期の急性心筋梗塞(AMI)症例に対して緊急冠動脈バイパス術(CABG)を施行した.左冠動脈主幹部病変や2枝以上完全閉塞の5例が救命目的で手術となった例であり,15例は緊急PTCR/PTCAで不成功または急性冠閉塞を繰り返した例であった.緊急CABGを構える場合,大動脈内バルーンパンピング(IABP)を挿入駆動して循環補助とし,さらに閉塞冠動脈内にinfusion catheterまたはautoperfusion ballooncatheter(“bailout” cath.)を挿入,閉塞血管への血流を保持しつつ手術を急ぐという戦略を採ってきた.搬送またはPTCA合併症発生から体外循環確立まで120~270(189±55)分であり,大動脈遮断時間は23~132(70±31)分,graftsは1本が内胸動脈,他は大伏在静脈で42本/20人(2.1本/患者).術中出血量は250~2,080(753±444)ccであり定例CABGと有意差がなかった.術前よりCr2.8だった患者(88歳)を腎不全で,69歳女性を周術期冠spasmで失った(手術死亡2例;10.0%)が,他18例では大量のカテコールアミン補助をしつつ手術に臨んだ9例を含め生存を得た.生存例のgraft開存率は95%であり,左室駆出分画44.5±12.7%でありNYHA I~IIで経過している.IABPによる補助と“bailout” cath.による責任冠動脈枝灌流を行いつつ準備すれば血行再建まで3時間程度を要してもほぼ満足すべき成績が得られた.本戦略はAMI発症期のCABGへの方法論として有効と考えられる.
  • 心房細動例との比較
    下原 篤司, 下原 康彰, 下崎 芳里, 金久 禎秀, 伊藤 美佐男, 加地 正郎
    1994 年 26 巻 7 号 p. 706-710
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心房細動例を対照群として,VVIペースメーカー植え込み例における左房内血流動態と脳梗塞の関連について検討した.対象は心房細動32例(男24例,女8例,年齢63.5±11.7歳:A群),VVIペースメーカー植え込み21例(男13例,女8例,年齢71.7±6.4歳:V群)である.V群は,Va群:心房細動9例(男7例,女2例,年齢69.6±7.5歳)とVs群:洞不全症候群10例+房室ブロック2例(男6例,女6例,年齢73.3±5.1歳)の2群に分けた.経食道および経胸壁心エコー・ドプラー法を用いて左房内モヤモヤエコーの有無・肺静脈血流速度・左心耳内血流速度・左房径・左室拡張終期径・%FSを評価し血流動態の指標とした.ヘマトクリット・トロンボキサンB2・フィブリノーゲン・Dダイマー・フィブリノペプタイドA・トロンビン-アンチトロンビンIII複合体を測定し血液凝固活性亢進の指標とした.Va群では44%に左房内モヤモヤエコー,33%に脳梗塞の合併を認めA群の13%,6%より多かった(p<0.05).Vs群では左房内モヤモヤエコー,脳硬塞の合併を認めなかった.トロンビン・アンチトロンビンIII複合体はA群よりVa群で高かった(p<0.05).以上より,Va群ではA群より左房内モヤモヤエコーを高率に認め,かつ凝固準備状態が活性化した状態にあり脳梗塞を合併しやすいと考えられた.
  • 河村 隆, 稲田 准三, 脇 千明, 岡畠 進
    1994 年 26 巻 7 号 p. 711-715
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    単心室に主肺動脈欠損,両側動脈管開存を合併した1例を経験した.患児はoriginal Blalock-Taussigシャント手術後の同側の肺高血圧が推定された.通常のシャント手術ではあったものの,左右肺動脈が不連続であるため供給される血液が同側の肺血管床のみとなったことに起因するものと考えた.患児はまた,大動脈弓により気管が前面より圧排され気管狭窄を呈し,治療に難渋した.本症はまれな先天性心奇形であり,特にシャント手術後に同側の肺高血圧が推定された点や気道狭窄の合併については筆者らが調べ得た限りでは,これまでに報告がなく,貴重な症例と思われるので報告した.
  • 佐藤 直樹, 国見 聡宏, 安武 正弘, 富田 喜文, 滝口 芙由子, 草間 芳樹, 井野 威, 高山 守正, 宗像 一雄, 岸田 浩, 早 ...
    1994 年 26 巻 7 号 p. 716-721
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    特発性の右室の拡張および低収縮を呈する病態として,Uhl氏奇形や右室心筋症がある.一方,粘液水腫心における心機能障害の存在について論議の多いところである.今回我々は甲状腺機能低下症を契機に心不全が顕性化し,既存の右室拡張型心筋症が診断された例を経験したので報告する.症例は40歳,女性.14歳の時,甲状腺機能亢進症にて両側甲状腺切除術を受け,その後放置.平成1年3月頃より下腿浮腫,労作時息切れ出現.翌年10月精査加療のため入院.入院時,血圧104/76mmHg,脈拍96/分,整.両側下肺野に湿性ラ音,胸骨左縁第4肋間に収縮期雑音聴取.T350ng/dl以下,T44.3μg/dl,TSH59.4μg/dl.心胸比85.2%.心エコー図にて右室・右房の著明な拡張,び漫性右室壁運動低下,中等度の三尖弁閉鎖不全を認めた.心臓カテーテル検査では心内圧に異常なく,心内シャント・冠動脈病変を認めず,左室造影は正常であった.右室心筋生検では,間質の線維化が強く,軽~中等度の心筋細胞の変性像を認めたが,好塩基性退行性変化は見られなかった.通常の心不全治療により軽快するも,甲状腺ホルモン剤の補充療法を必要とした.本例は,甲状腺機能低下による変化のみでは説明しがたく,右室優位の心筋症に甲状腺機能低下症の合併が示唆された.
  • 田部井 史子, 飯田 要, 坂本 和彦, 斎藤 巧, 山内 孝義, 小関 迪, 杉下 靖郎
    1994 年 26 巻 7 号 p. 722-727
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は41歳,閉経前女性で,安静時に出現する胸痛発作の持続時間が遷延し,発作時の心電図で,II,III,aVF,V3~6に陰性Tを記録した.CPK(MB)とミオシン軽鎖の上昇を認めたことより心内膜下梗塞と診断し,心臓カテーテル検査を施行した.左室造影で後下壁の高度の運動低下を,安静時タリウム心筋SPECTで下壁に取り込みの低下を認めた.冠動脈造影で左冠動脈主幹部に実測60%の狭窄を認めたが,後下壁を灌流する回旋枝は正常であったことより,心筋梗塞の原因として冠攣縮が示唆された.閉経前女性に心筋梗塞を合併することはまれで,欧米では経口避妊薬との関連が,本邦では大動脈炎症候群による冠動脈狭窄の関与が一般に報告されているが,本例ではそれらとの関連はない.冠攣縮の危険因子の1つに喫煙があり,本例も1~5本/日であったが,その関与は不明であった.一方,本例のような主幹部狭窄形態は閉経前女性には極めてまれで,先天性か,動脈硬化性かの鑑別は困難であった.
  • 加納 達二
    1994 年 26 巻 7 号 p. 728-731
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 藤野 尚子, 松崎 益徳, 小川 宏, 藤井 崇史, 矢野 雅文, 田村 朗, 楠川 禮造
    1994 年 26 巻 7 号 p. 732-736
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は55歳の男性で,肺結核・糖尿病のためリファンピシン450mg,イソニアジド400mg,エタンブトール塩酸塩750mg,ラスチノン1,500mgを内服治療中,安静時胸痛発作が生じるようになった.冠動脈造影検査にて有意狭窄のない左前下行枝近位部の冠攣縮性狭心症と診断され,カルシウム拮抗薬を中心とした抗狭心症薬の投薬を受けたが,胸痛発作は頻発し続けた.当時施行したジルチアゼム血中濃度(200mg内服中)は,3ng/mlと異常に低値であった.このためリファンピシンによる薬物相互作用を疑い,リファンピシンを中止したところ翌日より胸痛発作は消失し,中止1カ月後に測定したジルチアゼムの血中濃度(200mg内服中)は88ng/mlと上昇していた.リファンピシンによりジルチアゼム血中濃度の上昇が抑制され,胸痛発作がコントロールできなかったものと考えられた.既にリファンピシンとの薬物相互作用を報告されているベラパミル,ニフェジピン以外のカルシウム拮抗薬でもリファンピシンによって血中濃度上昇が抑制される可能性があり,併用時には薬物血中濃度に注意が必要と思われた.
  • 橋本 敬太郎, 中澤 一純
    1994 年 26 巻 7 号 p. 737-738
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
  • 両角 隆一, 八木田 佳樹, 横山 裕司, 森岡 敏一, 是恒 之宏, 星田 四朗, 堀 正二, 鎌田 武信, 山上 英利, 近藤 博史, ...
    1994 年 26 巻 7 号 p. 739-744
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    ぶどう膜炎および完全房室ブロックの既往を持つ心不全患者において,心サルコイドーシスの存在を疑って核医学的検討(タリウム心筋SPECT,ガリウムシンチ)を行った.その結果,タリウム心筋SPECTで多発性の欠損像が認められ,かかる欠損部位にほぼ一致してガリウムの集積が認められた.また,左室心筋以外の部位で右室側に認められたガリウムの高度集積部位は,X線CT像および心エコー図との対比検討によって,著明な心膜病変に集積したものと考えられた.さらに,これらの心臓部位へのガリウムの集積は,ステロイド投与後消失した.したがって,これらの画像診断法を用いた検討は,心サルコイドーシスにおける心筋・心膜病変の検出ならびに経過観察に非常に有用と考えられた.
  • 郭 文治, 清水 賢巳, 北 義人, 由雄 裕之, 井野 秀一, 土谷 武嗣, 三沢 克史, 田口 富雄, 江本 従道, 竹田 亮祐
    1994 年 26 巻 7 号 p. 745-750
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    症例は47歳男性,1992年8月31日入浴後に突然,前胸部から背部にかけて激しい痛みと絞扼感が出現,近医にて急性心筋梗塞を疑われて当院救急外来へ搬送された.入院後,トレッドミル検査にて運動中に胸痛,呼吸困難,めまいを訴え,血圧,脈圧の著明な低下を認めると同時に,心電図にてSTの低下を認めた.心臓カテーテル検査の結果,冠動脈には左右ともに有意な器質的狭窄は認められなかったが,左冠動脈が無冠尖より起始する左冠動脈起始異常症を呈していた.左室造影ではseg2,seg3に壁運動の低下がみられた.また,本症例では間歇性WPW症候群を合併していたが,WPW症候群に対する電気生理学的検査では副伝導路の有効不応期は355msecで,逆行性伝導は認められなかった.冠動脈の起始異常症では,冠動脈に器質的狭窄がない症例においても突然死したり,急性心筋梗塞を発症した症例が報告されており,本症例においても左冠動脈の起始異常症が心筋虚血に関与していると考えられた.
  • 木野 博文, 鎌田 勲昭, 内藤 武夫, 石川 欽司, 香取 瞭, 井上 剛裕, 佐賀 俊彦, 城谷 均, 廣畠 朋子, 橋本 重夫
    1994 年 26 巻 7 号 p. 751-755
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心臓原発悪性リンパ腫はきわめて少なく,浸潤が心臓と心嚢に限られたものは30例に満たないと考えられる.シェーグレン症候群の患者は経過中に悪性リンパ腫を合併することがあるが,心臓原発悪性リンパ腫を合併したという報告は著者らの調べたところ見あたらない.著者らは,シェーグレン症候群の経過中に心臓原発悪性リンパ腫を合併した症例を経験したので報告する.症例は67歳女性,約12年前にシェーグレン症候群と診断されている.平成3年9月頃よりふらつきが起こるようになり,平成4年10月7日より息苦しさ,胸部不快感が頻回に加わり,翌8日に入院,洞房ブロックを認めたので体内ペースメーカーを挿入した.しかし,上記症状は改善せず経食道心エコーで右房内に腫瘤を発見した.諸検査の結果,原発性心臓腫瘍で転移はないと判断され,上大静脈症候群もあるため右房腫瘍摘出術を行った.術後の組織診断で悪性リンパ腫と診断された.術後,抗癌剤を投与し,4カ月後の現在,再発をみていない.
  • 山崎 恭平, 西沢 守人, 上小沢 護, 五味 春人, 野原 秀公, 奥平 貞英
    1994 年 26 巻 7 号 p. 756-760
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    右室流出路を内腔から狭窄する転移性心腫瘍はきわめてまれである.我々が検索した範囲では今までに17例の報告しかない.今回我々は右室流出路狭窄をきたした大腸癌の心転移例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例は75歳女性で労作時の息切れを主訴に紹介入院となった.入院13病日右室流出路狭窄によるショック状態となり右室内腫瘍切除術と三尖弁置換術の緊急手術を施行した.ところが術後6病日死亡した.剖検にて大腸癌が原発で膵臓へ直接浸潤し,上腸間膜動脈閉塞による腸管壊死が直接の死亡原因であったことが確かめられた.転移は右室心筋ならび右室内腔と両肺に認められた.
  • 鷲尾 和則, 西村 文朗, 吉野 靖, 葉山 泰史, 前田 文昭, 外山 雅章, 田辺 大明
    1994 年 26 巻 7 号 p. 761-765
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心臓粘液腫の約20%は右房粘液腫といわれるが,初診時狭心症が疑われ,心エコー検査にて右房粘液腫が発見された極めてまれな症例を経験したので報告する.
    症例は67歳男性.半年前からの労作時の息切れ,胸部圧迫感を主訴として当科を受診した.明らかな理学所見はなく,血液検査で血沈の亢進,心電図ではV4~V6にてST低下を認め,胸部X線写真はCTR54%であった.心エコー検査で右房側壁に付着し,内部エコーほぼ均一な振り子様運動を呈する5.0×4.0cmの異常腫瘤影がみられ,粘液腫が疑われた.下大静脈造影でも右房のほぼ全体を占め揺れ動く陰影欠損像を示し,冠動脈造影ではseg7に95%,seg12に75%,seg2に75%の狭窄病変を認め,腫瘍栄養血管は造影されなかった.左前下行枝,回旋枝,右冠動脈への3枝バイパス術および腫瘍摘出術を施行し,摘出された腫瘍は右房自由壁より発生し,大きさ48×47×36mm,重さ50g,赤褐色で表面は平滑ゼリー状で,組織学的に粘液腫であった.
    右房粘液腫に狭心症が合併した症例の報告は本邦では初めてであり,腫瘍摘出術と冠動脈バイパス術を同時施行した貴重な症例を経験したので報告した.
  • 小野 克重, フォザード ハリー A.
    1994 年 26 巻 7 号 p. 771-781
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    β-アドレナジック刺激によるcAMP依存性プロテインキナーゼ系(PKA)活性化から生じるNaイオンチャネル調節のメカニズムを知るため,イヌ,家兎および,モルモット単一心室筋細胞のNaチャネルに細胞接のパッチクランプ法を用いて,膜透過性cAMP及び,イソプロテレノールの作用を検討した.膜透過性cAMP5mMは膜電位依存性のチャネル利用率曲線及びコンダクタンス曲線を共に過分極側に7.5mV±2.9mV(n=29)偏位させた.同様の結果はイヌ,家兎,モルモットの全ての細胞において見られ,種特異性はなかった.またイソプロテレノール1-10μM投与でも同様の偏位が見られた.一方,プロテインキナーゼの特異的抑制剤であるH-89を60分間前投与した細胞群では同効果は発現しなかった.また単一チャネルコンダクタンスは本実験条件では19.8-20.1pSであり,PKA活性化による影響はなかった.時間依存性のキネティックスの変化は細胞接で記録するNaチャネル電流でも観察されたが,PKAによるキネティックスの調節とは明らかに区別された.PKAのNaチャネルへの作用は,リン酸基の細胞膜内側の表面電荷への影響では説明され得ず,Naチャネル自身の持つ電位センサーに及ぼす静電相互作用の関与が示唆された.
  • 石井 邦明
    1994 年 26 巻 7 号 p. 782-792
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    ラットの心筋よりクローニングした2種類のKチャネル(Kv1.2,Kv1.4)の性質をアフリカツメガエル卵母細胞の発現系を用いて検討した.Kv1.2により活性化が速く,殆ど不活性化のみられない外向き電流が観察され,Kv1.4により一過性の外向き電流が観察されたが,Kv1.2の電流(IKv1.2),Kv1.4の電流(IKv1.4)とも代表的な第III群抗不整脈薬によって影響を受けなかった.また外液pHの低下によってIKv1.2,IKv1.4はともに抑制されたが,その程度には差が認められpHの変化に対しKv1.4の方が感受性が高かった.次に受容体のクローンとKv1.2またはKv1.4をcoexpressさせた実験より,両Kチャネルクローンともホスファチジルイノシトール(PI)代謝回転の亢進を起こす受容体の刺激により電流が抑制されること,そしてその抑制にはIP3/Ca系およびジアシルグリセロール(DG)/プロテインキナーゼC(PKC)系の両方が関与していることが明らかとなった.さらにコンセンサスな配列から推定されるKv1.2のPKCによるリン酸化部位に変異を加え,チャネル蛋白のリン酸化が修飾機構に関与しているかどうかを検討したが,現在までの所チャネル蛋白が直接リン酸化されるという結果は得られていない.また,Kv1.4とKv1.2あるいはKv1.2の変異体をタンデムにつないだ実験の結果よりホモポリマーではチャネルとして機能しない変異体でも野生型とつなぐことによりチャネルとして機能し得ることが明らかとなった.
  • 頴原 嗣尚, 松浦 博, 彌冨 郁夫
    1994 年 26 巻 7 号 p. 793-804
    発行日: 1994/07/15
    公開日: 2013/05/24
    ジャーナル フリー
    心筋細胞においてβ受容体刺激によって活性化されるクロライド電流が発見され,続いて単一クロライドチャネルが同定されたのは最近のことである.この電流は静止膜に対し脱分極性であり,活動電位に対しては短縮性であるので,不整脈との関連が注目されている.しかしチャネル電流の特性やチャネル活性化機構についてはまだ十分明らかになっていない.本稿では,これらの点について,著者らが最近行ってきた研究の結果を中心に紹介する.その要約は次のようである.
    (1)β受容体依存性心筋クロライドチャネルは,cyclic AMP-PKA系によってリン酸化を受けてはじめて開口可能な状態になる.(2)活性化されたチャネルは少なくとも1つの開状態と2つの閉状態の間を遷移し,平均開時間と遅い方の平均閉時間は約1秒という遅い開閉動力学を示す.これらの動力学に膜電位依存性はない.(3)ATPなどによるプリン受容体刺激も,とくに心房筋において,クロライド電流を誘発する.これに関与するチャネルがβ 受容体依存性チャネルと同一であるか否かは不明である.(4)β受容体依存性クロライドチャネルの活動は,α1受容体刺激により抑制される.このような抑制はフォルスコリンにより活性化されたクロライド電流ではみられないので,上記のα1効果はadenylatecyclase活性化ステップより上流で起こっているらしい.
feedback
Top