症例は72歳の男性.II,III,aVFのST上昇と房室接合部調律を伴う徐脈性不整脈にて発症し,緊急冠動脈造影では右冠動脈segment(以下#)1の完全閉塞を認めた.血栓溶解療法により90%までの再開通が得られたが,V3R~V6RのST上昇とPCWP 10mmHg,RAP 14mmHgを認め,右室梗塞を合併した急性下壁梗塞と診断し,徐脈性不整脈に対しては体外式心室ペーシングを行った.1日数分間のペーシング作動にもかかわらず,ペーシング時には血圧は70mmHgにまで低下し,また右心不全症状も徐々に悪化し,トランスアミナーゼは持続高値を示し,総ビリルビン値は8.5mg/dlまで上昇,重篤な肝うっ血所見を認めた.房室順次ペーシングに変更後,ペーシング作動時の体血圧の低下は軽減し,肝うっ血の所見も漸次軽快した.
慢性期冠動脈造影にて右冠動脈#1の完全閉塞と,左右心室造影にて左室下壁ならびに右室下壁から中隔にわたる広範囲の壁運動低下を認めた.
本例は短時間の一過性心室ペーシング作動にもかかわらず右心不全は悪化したが,房室順次ペーシングに変更後右心不全の回復が得られ救命し得た.右室梗塞合併症例では,たとえ一過性の伝導路障害でも右心不全が重篤化する例が見られ,治療に際しては特に注意が必要であると考えられた.
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