[目的および対象]低左心機能の冠動脈バイパス術(CABG)の安全性および術後遠隔期の心機能の様態につき調べるため,1990年6月~1995年5月までに当院にて施行した単独CABG 284例中,左室駆出率(LVEF)≦35%であった38例(男女比29:9;47~82(平均63.9)歳;LVEF16.6-35.0(30.4±5.3)%)を対象としてretrospectiveに検討した.病変枝数2.6±0.6,NYHA 2.5±0.6度,Canadian class 2.6±0.5度,バイパス枝数は2.1±0.7本であった.[結果]全例で10μg/kg/min以上のcatecholamlneを必要とし,予防的使用も含めて30例(78.9%)でIABPを使用した.手術死亡は低心拍出量症候群による1例(2.6%)であり,病院死亡は脳幹梗塞と肺炎の2例(5.3%)であった.12~68(31.8±18.1)カ月の経過観察中,心筋梗塞発症による死亡1,突然死1,心不金死1,脳出血死1,肺癌死1を認め,Kaplan-Meier法によって算出された実測生存率(1,3,5年目)はそれぞれ81.6%,76.1%,76.1%であり,心臓死回避率はそれぞれ89.3% ,83.4%,83.4% であった. 術後NYHA1.7±0.8度(P<0.0001),Canadian class1.O±0.2度(P<0.0001)と術前に比較し有意に改善した.術後3~20(12.7±4.3)カ月目に施行した心カテーテル検査データではLVEFが17.8~642(39.7±10.8)%と有意(p<0.0001)に改善,術後LVEFと術前左室容積係数との間に有意(p<0.001)の明瞭な相関が得られた.術後遠隔心臓死に有意に関連する術前因子としても術前左室容積係数が選定された.[結果](1) 低左心機能症例に対してもacceptableなリスクでCABGを行い得た.(2) 5年までの遠隔期経過観察でNYHA,Canadian classともに良好であった.(3) 術後遠隔期心臓死および術後心機能の改善と関連する術前因子として左室容積が挙げられた.収縮末期容積係数11Oml/m2,拡張末期容積係数140ml/m2以上では左室収縮性の有意の改善が得られなかった.
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