経食道心エコー図による心原性塞栓症の危険予測因子を調べるため,連続136例の経食道心エコー図所見と塞栓症の合併の有無を後向きに検討した.136例中左心耳の描出が良好であったのは113例で,基礎疾患により以下の3群に分けた.すなわち,リウマチ性僧帽弁膜症29例(MV群),非リウマチ性心房細動37例(Af群),洞調律であった非リウマチ性心疾患47例(SR群)の3群である.またワーファリンによる抗凝固療法の影響を検討するため,ワーファリン投与の有無により2群に分けた.SR群の塞栓症非合併例(n=40)におけるパルスドップラー法により求めた左心耳血流速度の正常下限は,27cm/秒であった.心原性塞栓症の合併は,113例中19例(17%)にみられ,その発症率は,3群間で差はなかった.MV群における左心耳血流速度は平均17.0±12.7cm/秒と低下しており,左房内モヤモヤエコーの程度と逆相関(r=-0.69,p<0.001)していた.左房内血栓は,MV群の35%,Af群の22%にみられたが,SR群においては6%と低かった.ロジスティック回帰分析にて心原性塞栓症の危険因子を予測したところ,左房内血栓,左房内モヤモヤエコーおよび抗凝固療法の有無が重要であった.以上より,経食道心エコー図所見は,心原性塞栓症の危険因子の評価に有用であると考えられた.
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