(目的)喫煙は冠危険因子の一つであるが,冠予備能への影響については十分な検討はなされていない.今回我々は,ドプラーガイドワイヤーを用いて,喫煙前後の冠予備能の変化(急性効果),および喫煙総量と冠予備能の関係(慢性効果)を検討した.
(対象と方法,および結果)冠動脈造影上,冠動脈に有意狭窄を認めず,喫煙以外に冠危険因子を有さない喫煙者を対象とした.左前下行枝に留置したドプラーガイドワイヤーで冠血流速を連続記録し,冠予備能を測定した.
1)喫煙の急性効果:ニコチン含有量1.3mgの煙草1本の喫煙前,喫煙5分後に冠予備能を,また採血にてアドレナリン,ノルアドレナリン,エンドセリンを測定した(Sm群).対照として5分の間隔をおき2回の冠予備能測定,採血を行った(Cont群).Sm群では喫煙後有意に冠予備能が低下し(2.7±0.9vs2.2±0.9,p<0.05),ノルアドレナリンは有意に増加した(257±184vs324±224pg/ml,p<0.05).Cont群ではいずれも変化を認めなかった.
2)喫煙の慢性効果:喫煙数年×1日喫煙本数を喫煙総量とし,400以上のH群と400未満のL群に分けた.また,冠危険因子を有しない16例を対照(C群)とした.各群における冠予備能はH群;2.6±0.78,L群;3.0±0.95,C群;3.2±0.72で,C群に比べH群で有意に冠予備能が低値であった(p<0.05).
(結語)喫煙総量が多い症例では冠予備能が低下しており,喫煙によって冠予備能がさらに低下した.以上より,喫煙総量が多い虚血性心疾患症例では,喫煙により虚血閾値が低下する可能性が示唆された.
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