【目的】心肥大形成に伴うL型カルシウムチャネルの変化が電気生理学的に検討され様々な報告がなされているが,いまだ一定の結論に至っていない.そこで,心肥大形成過程におけるL型カルシウムチャネルの変化をmRNA発現レベルの動態より生化学的に検討した.
【方法】ラットを対象としたモノクロタリン皮下注射による右室肥大モデルを作製し,肥大形成に伴うL型カルシウムチャネルを構成するα1c,α2δ,β2,β3の各サブユニットのmRNA発現レベルをNorthern blot hybridization法を用いて検討した.
【結果】(1)モノクロタリン投与後週齢に伴い右室選択的な心肥大を認めた.投与3週目には胸腹水の貯留を認め,4週目に生存例はなかった.(2)Northern blot hybridizationでは,中隔を含めた左室筋で各サブユニットmRNA発現レベルに有意な変化を認めなかった.(3)対照的に右室心筋ではモノクロタリン投与により各サブユニットごとに,また,モノクロタリン投与後の経過に伴い異なる発現レベルの動態を示した.主サブユニットであるα1cのmRNAはモノクロタリン投与後14日目(M2)に一旦減少したが,21日目(M3)にはコントロールに対して約1.8倍の増加を示した.副サブユニットのうち,α2δ とβ3サブユニットは投与後mRNAレベルは漸増し,21日目(M3)にはコントロールに対してともに約4倍に増加した.一方,β2サブユニットのmRNAレベルに変化は認められなかった.
【まとめ】心肥大の形成過程に伴いL型カルシウムチャネルのmRNA発現レベルは,各サブユニットごとに,また経時的に異なる動態を示した.心肥大におけるL型カルシウム電流密度の変化について従来の報告が一致しない点に関しては,本研究結果に示された,サブユニット間,時間経過による異なる遺伝子発現の変化が関与している可能性があり,今後十分に考慮すべき点と考えられた.
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