1990年1月から2000年8月までの開心術1033例のうち,9カ月以上の慢性血液透析症例18例(1.7%)を対象とした.その病態を明らかにするため,冠状動脈バイパス術を施行した11例(CABG群)と弁置換術を施行した7例(弁置換術群)に分け比較検討した.CABG群は男性8例・女性3例,平均年齢60.8歳,平均透析歴6年2カ月で,弁置換術群は男性3例・女性4例,平均年齢58.5歳,平均透析歴11年6カ月であった.周術期管理は手術前日に血液透析,術中に限外濾過(ECUM)and/or血液透析,および術後第1病日の血液透析を原則とし,症例に応じ持続血液透析濾過(CHDF)を用いた.患者背景では喫煙率がCABG群において有意に高率であった(CABG群:弁置換術群=8/11例:1/7例,p<0.05).また,脳出血の既往はCABG群で2例に認められた.手術死亡は両群で各1例ずつであった.上行大動脈高度石灰化のため,心室細動下にCABG4枝を施行した72歳男性を,術後第7病日に脳梗塞のため失った.もう1例は,大動脈弁置換術を施行した関節リウマチ(ステロイド内服中)合併例の71歳の女性で,術後第17病日に壊疽性胆嚢炎で死亡した.遠隔死亡もすべて70歳以上で,CABG群に2例(術後1年・肺炎,術後8カ月・急性硬膜下血腫)と弁置換術群に1例(術後6カ月・脳内出血)であった.最長生存例はCABG群が9年10カ月,弁置換術群が8年9カ月で,ともに現在生存中である.慢性血液透析症例における開心術では70歳以上は予後不良で,CABG群では弁置換術群に比し喫煙率が有意に高率であった.さらに,CABG群では周術期に脳合併症に留意する必要があると思われた.
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