通常のトレッドミル運動負荷試験において,1mm以上の有意なST低下を認めた37例について,心電図上のST変化と酸素摂取量(VO2)動態との関係について検討した.全例において自転車エルゴメータを用いた10watts/minのrampプロトコールでの症候限界性運動負荷試験を施行した.運動負荷中呼気ガス分析を行い,peakVO2およびATを決定するとともに,運動中のST低下1mmが出現した前と後の2分間の仕事率増加に対するVO2増加量(△VO2/△WR)を決定,さらにその比を算出した.その後冠動脈造影を行い,冠動脈造影所見より,有意狭窄を認めない群(0VD群;8例),有意狭窄が1枝の群(SVD群;7例),有意狭窄が多枝の群(MVD群;8例)の3群に分類した.
PeakVO2はMVD群(19.6±3.1ml/min/kg)とSVD群(19.62.9ml/min/kg)が0VD群(25.3±5.4ml/min/kg)に比べ低値であり,一方,嫌気性代謝閾値は3群間に差はなかった.また,△VO2/△WRのST低下前に対する後2分間の比はMVD群(0.75±0.17)とSVD群(0,93±0.09)が0VD群(1.21±0.09)に比べ有意に低値であった.以上より,ST1mm低下前後の△VO2/△WRの変化は運動負荷試験での偽陽性の鑑別や冠動脈疾患の重症度を予測するためのパラメータとして有用と考えられた.
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