肺静脈起源の期外収縮を契機に心房細動が発症することから,肺静脈内には通常の心房筋とは異なった電気生理学的特性を有する細胞が存在すると考えられる.そこで,ラット肺静脈を用いて心筋イオンチャネルの分子生物学的背景をmRNA分布の視点から検討した.ラット心房筋を洞結節分界稜周囲,右心耳,左心耳,左肺静脈に切り出し,RNase protection assayによりerg, KvLQT1, Kv4.3, Kv4.2, Kv2.1, Kv1.5, Kv1.4, SUR2A/B, Kir6.2, Kir3.4, Kir2.2, Kir2.1,α1G,α1C, HCN4のmRNA定量を行った.HCN4は洞結節周囲で最も多く,左心耳と比較して8倍多く発現していた.肺静脈では左心耳と比較して,Kv1.5およびHCN4がそれぞれ3.5倍および2.6倍多く発現していた.さらに肺静脈内におけるmRNA分布を検討するため,HCN4とKv1.5についてinsitu hybridizationによりその遺伝子発現分布を検討した.HCN4は,右心房の洞結節領域近傍に多く発現していると同時に,肺静脈遠位端より肺静脈入口部で多く発現していることが確認され,肺静脈内でもその分布様式が不均一であった.Kv1.5の発現様式は全体的に不均一であった.肺静脈で洞結節近傍組織と同様にHCN4mRNAが増加していたことは,洞結節と類似した背景を有する細胞が存在する可能性を示唆する.
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