症例は65歳,女性.1999年3月,某病院にて精査を受けて洞不全症候群と診断されたが自覚症状はなく,当院外来に紹介された.同年6月の当科初診時心電図は心拍数42/分の洞性徐脈で,ホルター心電図では24時間総心拍数(THB)74391拍,2秒以上のR-R間隔は43回で最長値は2.70秒であった.胸部X線による心胸郭比は57%と拡大していたが,心エコーでは左室拡張末期径50mm,左室駆出率71%であった.
同年9月よりシロスタゾール100mg/日の投与を開始した.直後より外来時の心拍数は65から80台/分,THBは86000から97000拍台の範囲へと増加した.しかし,投与開始後1年目頃より外来時の心拍数は次第に50から60台/分が主となり,2002年4月のTHBは77462拍と投与開始前の値近くまで低下した.
薬効の再評価目的でシロスタゾールを一時中止したところ,洞性徐脈が増悪し心不全が出現したため,シロスタゾール200mg/日の投与を再開した.心拍数増加とともに心不全はすみやかに軽快したが,この心不全はシロスタゾールの中止や開始で再現性をもって増悪・改善を繰り返しており,徐脈依存性であると考えられた.最終的にはシロスタゾールを中止し,AAI型ペースメーカー植込みを施行した.その後心不全の再発は認められていない.
シロスタゾールは長期使用により心拍数増加作用の効果減弱が認められる可能性がある.また,洞不全症候群例では徐脈に伴う潜在的な心不全を合併している可能性があり,シロスタゾール長期使用後の中止時には,高度徐脈に伴う心不全の出現あるいは顕性化に留意すべきであると考えられた.
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