ナトリウム利尿ペプチド系は,心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP),脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)の3種類のリガンドと膜型グアニル酸シクラーゼ(GC)そのものであるNP-A受容GC-A,NP-B受容体/GC-Bおよびナトリウム利尿ペプチドのクリアランスに関係しているとされるC受容体(NP-C受容体/クリアランス受容体)から構成されている.さらに最近までに,cGMP依存型プロテインキナーゼ経路を介した細胞内情報伝達系などが明らかにされている. 健康成人の心臓の血漿BNP濃度は血漿ANP濃度の数分の1であるが,不全心では重症度に比例した著明な上昇が認められることから,ANPおよびBNPの血管中濃度測定は,心不全の重症度診断,治療経過や予後判定などに臨床応用されている.
ANPとBNPでは,その産生部位,分泌様式,受容体との親和性,代謝速度などに差異はみられるが,薬理作用としては両者ともNP-A受容体/GC-Aを介して働き,利尿作用,ナトリウム利尿作用,撫管拡張作用,およびレニン-アンジオテンシン( R A ) 系に対する分泌抑制作用などを示す. その循環器系に対する作用は, わが国で詳細な検討が進められ, ANPは発見以来10年という短期間で世界に先駆けて日本で心不全治療薬として上市されるに至った. 今日,ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP:カルペリチド)は急性心不全治療薬として最も汎用されている薬剤の一つとなっている. 今後, ナトリウム利尿ペプチド系の発生工学的研究などの成果をふまえた, トランスレーショナルリサーチの展開により心不全以外の疾患への臨床応用の可能性が期待されている.
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