症例は62歳,女性.1997年9月17日に呼吸困難を主訴に来院,うっ血性心不全と診断され利尿薬を内服したが改善なく9月24日に入院した.利尿薬,カテコラミン,ホスホジエステラーゼIII(phosphodiesterase; PDEIII)阻害薬,ステロイドパルス療法などを試みたが,心不全は進行した.第16病日の心臓カテーテル検査(coronary angiography;CAG)では,冠動脈に有意狭窄病変はなく,右室圧波形は右房圧波形と同じ波形を示した.第22病日以降, 非持続性心室頻拍(ventricular tachycardia; VT)が断続的にみられ,病態は急速に増悪し第38病日に両心不全により死亡した.剖検所見で右心室自由壁の全層性に脂肪変性がみられた.左心室では心外膜側から外・中層にかけて,心筋の脱落と著明な線維化をみた.内層には心筋が残存しており,リンパ球浸潤と線維脂肪変性を認めた.
本例では先行感染やCRP(C-reactive protein),白血球の増加はみられなかったが,剖検による病理所見は心筋炎であった.加えて右心室拡大,心室壁運動異常,心室頻拍,心筋の脂肪変性と線維化がみられ,末期の病態は不整脈源性右室心筋症(arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathies; ARVC)と考えられた.ARVCの原因として心筋炎の関与が考えられる興味深い症例として報告する.
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