本分析では,脳卒中後の深部静脈血栓症(deep vein thrombosis;DVT)および肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism;PTE)の発生と予後に関するモデルを構築し,弾性ストッキングによるDVT予防と,今後登場すると思われる新しいDVT予防法に対する医療経済分析を行った.
弾性ストッキングのDVT予防の評価では,「予防なし群」と「弾性ストッキング予防群」の比較,新規DVT予防法の評価では,「弾性ストッキング予防群」と「新規予防群」の比較とした.
費用項目は直接医療費,効果の指標は期待余命とし,増分費用対効果(incremental cost-effectiveness ratioICER)により費用対効果の評価を行った.費用は,DVT予防費用,DVT検査費用,PTE検査費用,DVT治療費用,PTE治療費用の5種類を対象とし,出来高による医療費計算とDPCによる一日定額支払い方式による医療費計算の2つの場合についてそれぞれ検討した.新規DVT予防法の評価では,新規DVT予防法の価格と効果の2つの変数を変化させた場合の,新規予防群の弾性ストッキング予防群に対するICERを計算した.
予防なし群に対する弾性ストッキング予防群のICERは,出来高による医療費計算の場合は男性,女性でそれぞれ,36,257円,28,608円であった.DPCによる一日定額支払い方式の場合は男性,女性でそれぞれ費用削減となる結果であった.
脳卒中後の患者に対する弾性ストッキングによるDVT予防は医療経済的な視点から妥当なものであると考えられた.
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