目的:種々の臓器に起こる特発性硬化性病変(immunoglobulinG4;IgG4)関連硬化性疾患が注目されているが,心血管領域における新しい疾患概念として,炎症性腹部大動脈瘤と診断した症例の中にもIgG4関連硬化性疾患と考える病態が存在する可能性を評価する.
方法:手術時の切除標本から,炎症性腹部大動脈瘤と診断された23例と,同時期の動脈硬化性腹部大動脈瘤40例を対象とし,基礎疾患や動脈硬化と関連した諸危険因子,IgG4血中濃度などの生化学検査を調べると同時に,免疫組織染色を中心とした病理組織学的検討を後ろ向きに行った.
結果:これまでのIgG4関連硬化性疾患の病理学的診断基準に従い,60/hpf以上のIgG陽性形質細胞浸潤と60%以上のIgG4/IgG陽性細胞比を認めた場合をIgG4関連腹部大動脈瘤と診断した.23例の炎症性腹部大動脈瘤のうち,13例が診断基準を満たした.自己免疫性疾患を併存し,生化学所見では,高力価の抗核抗体陽性例が多くIgG4とIgEが有意に高値を示した.病理所見では著明な外膜肥厚を認め,動脈周囲炎の所見であった.IgG4免疫染色では外膜にIgG4陽性形質細胞のび漫性浸潤とともに,IgG4/IgG陽性細胞比高値を示した(80.2%:p< 0.001).
結論:炎症性腹部大動脈瘤の病因の1つにIgG4関連硬化性疾患の病態の存在が示された.本臨床病理学的検討から,IgG4関連動脈周囲炎という従来の血管炎とは異なる炎症性疾患の存在が明らかになり,さらに冠動脈や末梢動脈にも病変が確認されたことで,今後血清IgG4高値の病態と深く関係する慢性動脈周囲炎は,全身の血管疾患として,さらに広がりをみせるものと期待される.
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