症例は,60歳代,男性.2010年9月発熱,咳嗽を主訴に近医を受診した.経胸壁心エコー検査で心嚢液貯留を認め,心膜炎と診断された.胸部造影CT検査で左房後壁に腫瘤影が認められたが,左房内血栓と考えられた.非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)の内服で症状は軽快したが,12月に息切れが出現したため前医を再診した.再検された胸部造影CT検査で腫瘤影の増大を認め,悪性腫瘍の可能性が疑われて当科へ紹介された.
18F-FDG-PET/CT検査で,心膜に全周性の集積を認めた.確定診断のため開胸心膜生検を施行し,悪性心膜中皮腫と診断された.悪性心膜中皮腫は稀な疾患であり,臨床症状は心膜炎と一致するため,診断に難渋することが多い.本症例ではCT検査やMRI検査は施行されたが,特異的所見に欠き診断にはいたらなかった.詳細な問診でのアスベスト(石綿)曝露歴の聴取や血液検査でのCYFRA・ヒアルロン酸の上昇を認めたことから悪性心膜中皮腫を強く疑い,
18F-FDG-PET/CT検査を施行して診断に結びついた.
18F-FDG-PET/CT検査は悪性腫瘍の診断や病期判定に用いられる機会が増えているが,悪性中皮腫においてもその有用性が期待される.難治性の心膜炎症例では悪性心膜中皮腫の可能性も考慮し,血中ヒアルロン酸測定や
18F-FDG-PET/CTを積極的に検査すべきと考えられた.
抄録全体を表示