症例は65歳, 男性, 約 2カ月前から労作時呼吸困難, 下腿浮腫, 食欲低下あり, 2週間前から, 夜間起座呼吸となり, 近医受診した. 胸部X線写真で, 右肺に腫瘤影, 胸水貯留, 心拡大あり, 当院呼吸器科を紹介受診し, 精査, 加療目的に入院した. 入院時の心臓超音波検査では, 左室拡張末期径61.7mm, 左室駆出率17%と著明な心機能障害, 肺高血圧症を認め, 酸素投与, フロセミド, スピロノラクトン, カルベジロール, トルバプタン, ピモベンダンの投与を開始した. 薬物療法開始後も十分な尿量が得られず, adaptive servo ventilation (ASV) を導入した. ASV導入後は十分な尿量が得られるようになり, 心不全症状も速やかに改善した. 右肺の腫瘤影の精査目的で, 胸腹部造影CT検査を行ったところ, 左上肺静脈に血栓像を指摘され, うっ血性心不全の精査, 加療目的で第15病日に当科に転科した. 経気管支肺生検も予定されていたため, 抗凝固療法を行わず, 心不全治療を継続した. 第36病日に再度, 胸部造影CT検査を行ったところ, 左上肺静脈の血栓は消失し, 右肺の腫瘤影も著明に縮小していた. うっ血性心不全を合併した肺静脈血栓症において画像上明瞭にその合併が確認され, 抗凝固療法を行うことなく, 心不全治療のみで肺静脈血栓の消失を認めた非常に興味深い症例を経験したので報告する.
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