ゲムシタビン (GEM) およびテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム (S-1) は代謝拮抗薬であり, 非小細胞肺癌, 膵癌, 胆道癌に対して投与される. 手術不能の進行膵癌に対して, GEMとS-1併用による化学療法が行われているが, 急性心筋梗塞の合併は稀である. 今回われわれは, GEMとS-1併用療法中に急性心筋梗塞を発症した症例を経験したので報告する. 症例は68歳, 女性, 多発性肝転移を伴う手術不能の進行膵癌に対して外来で, GEM点滴静注とS-1内服による併用化学療法中であった. 8回目のGEMを投与した1週間後に, 突然の激しい胸痛で救急外来を受診した. 心電図で, V
1~V
4でST上昇を認め, 亜硝酸剤の舌下スプレーを噴霧するも, 胸部症状は持続し, 心電図でのST上昇は改善しなかった. 急性心筋梗塞の診断で, 緊急冠動脈造影検査を行ったところ, 左前下行枝近位部に完全閉塞を認めたため, 経皮的冠動脈インターベンションを行った. 病変部の血栓吸引後に, バルーンで拡張, ベアメタルステントを留置し, 再灌流に成功した. 血栓吸引後の血管内超音波検査で, 脂質コアに富む病変を認めたが, 冠動脈プラーク破綻部位が明らかに特定できなかった. 本症例では, GEMおよびS-1により, 相乗的に血栓形成性の亢進, 冠動脈プラークびらんをきたし, 急性心筋梗塞を発症したものと考えられた.
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