60歳女性. 意識レベル低下, 嘔吐のため, 他院に入院. 同日深夜にTorsade de pointes (TdP) を繰り返し, ショック状態となり当院に救急搬送された. 心電図で接合部調律, 巨大陰性T波, QT延長を認め, 緊急心臓カテーテル検査の結果, たこつぼ心筋症と診断し, 人工呼吸器管理, 大動脈バルーンパンピング, 右室ペーシングを開始. 高熱, 乏尿に対しては, 敗血症性ショックの合併を疑い, 持続血液濾過透析, 広域抗生物質, γグロブリンの点滴静注を行った. その後, いったんは解熱, 血行動態安定したが, 第4病日夜に再度高熱とともにショック状態となり, TdPが再燃. 低ナトリウム血症, 副腎腫瘤の存在からチェックしていた入院時血液検査で, 第5病日に急性副腎不全 (副腎クリーゼ) と判明した. ステロイド補充を開始し, 速やかに解熱, 血圧上昇, 不整脈も消失した. 後に両側副腎摘出術を施行し, 乳癌切除後の転移性副腎腫瘍による副腎皮質機能障害と診断した. 副腎クリーゼは非特異的な全身症状とともに重篤な血行動態に陥りやすく, しばしば致死的な病態であるため, 治療抵抗性のショックをきたしている場合には本疾患も念頭に置き, 早急に精査治療を開始することが重要と考えられた. たこつぼ心筋症, 致死性心室性不整脈にて発症し, その原因が孤発性の転移性両側副腎腫瘍による副腎機能低下症と判明した稀有な症例であり, 若干の文献的考察を加え報告する.
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