背景 : 急性期心不全におけるトルバプタンの有効性は証明されたが, トルバプタン投与開始後の臨床経過についての報告はない.
方法 : 従来の利尿薬投与が無効であったうっ血性心不全に対してトルバプタンを投与した17症例において, 投与後の経過を調査した.
結果 : 低心機能症例や低腎機能症例にもトルバプタンが有効であった. トルバプタン投与前後で, 推算糸球体濾過量・左室駆出率・ヘモグロビン値・血清アルブミン値に変化は認めなかった. 血清ナトリウム値は投与後に有意に上昇したが, 臨床的に問題となる高ナトリウム血症に陥る症例は認めなかった. 30日以上の投与を必要とする 「中止不可能群」 を17例中8例に認めた. 中止不可能群では推算糸球体濾過量が低い傾向を認めた. 副作用として, 中止不可能群8例中2例で感冒による食欲不振から血管内脱水となり一過性の腎前性腎不全を発症した. またトルバプタンの減量もしくは中止による心不全悪化を2例に認めた.
結語 : 従来の利尿薬が無効な心不全症例にトルバプタンは比較的安全に使用可能であり, 高度な低腎機能症例にも有効であった症例が存在した. 低腎機能症例ではトルバプタンの継続投与が必要となる可能性が高く, 継続投与中の副作用や減量・中止後の心不全再燃に注意が必要である.
背景および目的 : 周産期心筋症は妊娠最終月から分娩後5カ月までに発症する左心室駆出率45%未満の心筋疾患で, 本邦では約2万分娩に1例と発症は稀である. 近年, 従来の定義の周産期心筋症に加え, 左心室拡張機能障害により心不全をきたす周産期心筋症症例が報告されている. 左心室駆出率が保たれた (preserved ejection fraction ; pEF) 周産期肺水腫と従来の定義の周産期心筋症の当院における発症状況と臨床背景について比較検討した.
結果 : 当院ではこの10年 (7522分娩) で, pEF周産期肺水腫7例と周産期心筋症5例の発症を認めた. これらの臨床背景を比較すると, pEF周産期肺水腫群にのみ2例の輸血施行を認め, 一方で多胎, 妊娠高血圧腎症の合併は両群で同等であった. 発症時の心エコー指標は周産期心筋症群で左心室拡張末期径が有意に高値となっていた. pEF周産期肺水腫症例はいずれも利尿薬, 酸素投与のみにて数日で自覚症状が改善し, 周産期心筋症症例は全例標準的な心不全治療により1年以内に左心室収縮機能, 心不全症状ともに軽快した.
結論 : 近年周産期心筋症発症には切断プロラクチン, sFlt1などの関与が指摘されている. 本検討でもsFlt1高値となることが報告されている双胎, 妊娠高血圧腎症を合併した症例が多く含まれ, pEF周産期肺水腫および周産期心筋症いずれの発症にも関与している可能性が示唆された.
解剖学的基準を満たした症例に対してENDURANT®を用いてステントグラフト内挿術を行った. type Ⅰaエンドリークに対してaortic extensionを留置した際デリバリーシステムが抜去不能となり, 開腹手術で抜去した. ENDURANT®はデリバリーシステムが抜去不能となる可能性がある. メーカーの検証では, スープラリーナルステントが開ききらなかったことが考えられると報告された. 中枢ネック中枢端の血管径が留置するステントグラフトの口径に比して狭い症例やアオルタ・エクステンションはスープラリーナルステントが開ききりにくいことを想定しなければならない. またデリバリーシステムが抜去困難となった場合も, ステントを絡ませなければ, グラフト被覆部中枢端をバルーンで拡張後, プルスルーテクニックやバルーン操作でスピンドル部をスープラリーナルステントから浮かせられる可能性もある. さらに血管内操作で解除できない場合にも, 外科的に大動脈瘤の中枢ネックを露出すれば, 直接動脈壁越しにステントグラフト, デリバリーシステムを押すこともできるため, 透視下に引っかかりを解除できる可能性があったと考えた.
症例は39歳の男性. 既往歴・家族歴に特記すべきことなし. 2013年8月の朝に意識消失し救急要請となった. 救急隊による自動体外式除細動器 (AED) で心室細動を確認され, 3度の除細動で洞調律となった. 近医へ搬送され意識回復ののち精査目的に当院へ紹介となった. 心電図でⅡ・Ⅲ・aVF・V5−6誘導でJ波を認め, 冠動脈造影および心臓MRIでは異常所見は認めなかった. J波症候群による心室細動と診断し, 植込み型除細動器 (ICD) の植込みを施行し退院となった. 退院約2カ月後にICDが作動したため当院を受診となった. ICDチェックで5度のICD作動を確認し, 心電図では広範囲誘導でJ波の増高とV1−2誘導でcoved型ST上昇を認めた. 入院後はイソプロテレノール静注でBrugada型心電図変化は消失し, J波も軽減した. その後キニジンの内服で心室細動は出現することなく経過している. 経過中にBrugada型心電図変化を示したJ波症候群を経験したので報告する.
症例は47歳男性. 主訴は上腹部痛, 胸痛.
食事中に突然の上腹部痛を自覚し, その後, 胸痛も出現したため救急隊要請し, 当院に救急搬送された. 病着時, 血圧88/48mmHg, 脈拍数114回/分であり, 上腹部痛は軽度の圧痛を認める程度であったが胸痛は持続していた. 心電図でV1−4のST上昇を認め, 急性前壁心筋梗塞の診断で冠動脈造影検査を施行した.
左前下行枝に遅延造影を伴った99%狭窄を認め, エベロリムス溶出性ステントを留置し, TIMI3で終了とした.
治療後, 胸痛, 心電図は改善し, 血圧110/72mmHg, 脈拍数74回/分と血行動態も安定したが, 上腹部の違和感が残存するため, 帰室前に造影CT検査で評価した. 後腹膜血腫を伴う腹部大動脈瘤の破裂を認め, 心臓血管外科にコンサルトし, 緊急ステントグラフト内挿術を施行した. 出血の増大を認めず, 第2病日にアスピリン, クロピドグレルの内服を開始し, 合併症なく第10病日に独歩退院となった.
腹部大動脈瘤破裂に急性心筋梗塞を合併した稀な症例を経験したため報告する.
患児は8歳女児. 出生時に単心室症・心房中隔欠損症・肺動脈閉鎖症と診断されBlalock-Taussig shunt手術 (B-Tシャント術) を施行した. 2014年, 呼吸困難感とチアノーゼの増強, 酸素飽和度の低下があり, 精査の結果再手術が必要と判断され再度B-Tシャント術を施行. 術後, 離床が困難であり心臓リハビリテーション (心リハ) を開始した. 小児症例であり運動強度の決定に使用されるBorgスケールでの自覚症状の表出が困難であったことから, 独自のフェイススケールを作成し過負荷を避ける工夫を行った. また, 心リハの際には母児同伴で行うことで患児の不安感を取り除き, 同時に母親に対して日常生活における注意事項の指導を実施した. バイタルサインの変動に注意しながら最終的に段差昇降まで行い, 退院後就学することができた. 今回, 開心術後患児に対する心リハを円滑に施行し得た症例を経験した.
70歳代男性. 200X年12月に冠動脈の3枝閉塞による心肺停止に対して他院でPCI治療を行った. 急性期に左前下行枝#7の99%に金属ステントを挿入し, 右冠動脈#1のCTOに対しても退院時に金属ステントの治療を行った. 5年後の1月に急性左心不全にて当科で入院加療. 退院前の冠動脈造影でステント再狭窄は認めず, 近医にて加療継続となる. その後, 自覚症状はなかったが, その5年後の3月に労作時胸痛が再度出現したため当科に再度紹介となった. CAGでは, 左前下行枝#7のステント部に90%, 右冠動脈#1のステント部に99%の再狭窄を認めた. まず右冠動脈の再狭窄に対してバルーン拡張術を行い, さらに左前下行枝の再狭窄に対しても同様の治療を行い良好な拡張を得た. IVUSおよびOCTの所見からneoatherosclerosisが考えられた.
症例は74歳男性. 30年ほど前より数カ月に1回程度食事中の気分不快を自覚することがあった. 2014年9月に非ST上昇型急性後壁心筋梗塞のため入院加療を行った. 緊急冠動脈造影検査では左回旋枝#13に75%の有意狭窄認め, ベアメタルステントを留置した. 術後経過良好であったが, 経口摂取開始後に最長20秒間の洞停止, 失神を複数回認めたためペースメーカ植込み術を行った. その後は失神を認めず良好に経過し退院した. 病歴上, 嚥下性失神の既往が示唆されたが, 急性心筋梗塞急性期に明らかに発作頻度が上昇していた. 嚥下性失神は稀とされており, 急性心筋梗塞の急性期に嚥下性失神が顕在化した症例を経験したので文献的考察を含め報告する.