動悸を主訴に外来を受診する患者は多く, それらの中で病的な動悸として心臓の調律異常 (不整脈) を表現している場合があり, その適切な診断および治療は患者の心事故を防ぐために極めて重要である. しかし, 胸苦しさや息切れを含めて動悸として訴えることも多く, 西洋医学的に病的意義を持たないことも多い. 一方, 漢方医学は疾患の有無にかかわらず, 患者の体質 (虚実) に合わせて治療することができる. 動悸を主訴として外来を受診した50名を対象に, 西洋医学的検査を中心とした初期診断を行う. 西洋医学的疾患の治療が必要とされたときはそれを優先する (西洋薬単独, W群 : 7名). 西洋医学的疾患が明らかでないときは患者と相談し, 漢方薬単独 (K群 : 25名), 漢方・西洋薬併用 (KW群 : 18名) による治療を行い, その症状改善効果を検討した. 治療の有効性としては, 西洋薬単独群 (有効率 : 100%), 漢方薬単独群 (有効率 : 96%), 漢方・西洋薬併用群 (有効率 : 100%) のいずれの群においても高い有効率を示した. 動悸/不整脈に対して, 西洋医学および漢方医学的治療を併用することで, 予後および症状の改善に大きな効果が期待できる.
背景および目的 : 急性冠症候群患者の短期予後予測因子として, 古典的危険因子だけでなく初回乳酸値の有用性が散見されている. 今回初回乳酸値だけでなく, 乳酸値クリアランスの短期予後予測因子としての有用性について検討を行った.
方法 : 2007年1月から2014年3月までの緊急カテーテル治療が行われ, 集中治療室への入室を要した急性冠症候群患者を対象とした. 初療室および集中治療室へ入室後6時間から24時間内に乳酸値の測定が行われた連続297例を対象とし, 後ろ向きに検討した. 乳酸値クリアランスは, (初回乳酸値-6時間から24時間内に測定した乳酸値) ÷初回乳酸値×100 (%) で計測した.
結果 : 短期死亡 (30日死亡) は37例 (12.5%) に認められた. ROC曲線からのCut-off pointは初回乳酸値が3.9mmol/L, 乳酸値クリアランスは25%であった. ロジスティック回帰分析による多変量解析では乳酸値クリアランス<25% (OR, 111.2 ; 95%CI, 12.5-2534.1 ; p<0.0001) は独立した予後予測因子となった. 初回乳酸値3.9mmol/Lおよび乳酸値クリアランス25%で4群に分けて生存率の検討を行った. 短期死亡は初回乳酸値≦3.9mmol/L+乳酸値クリアランス≧25%の群では4.1%, 初回乳酸値≦3.9mmol/L+乳酸値クリアランス<25%の群では9.6%, 初回乳酸値>3.9mmol/L+乳酸値クリアランス≧25%で12.5%, 初回乳酸値>3.9mmol/L+乳酸値クリアランス<25%で100%であった (log-rank p<0.0001).
結論 : 乳酸値クリアランスの計測は急性冠症候群患者の短期予後予測因子として有用であり, 特に初回乳酸値が高い群では有用であると考えられた.
症例は75歳男性. 顔面浮腫を主訴に近医受診. 造影CTで上大静脈内に腫瘤を認め, PETで上大静脈内のみに限局した集積像を認めた. このため, 上大静脈内腫瘤による上大静脈症候群と診断され, 精査目的で当院入院となった. 胸部CTで縦隔に多発リンパ節腫大と上大静脈内に腫瘤を認めた. 縦隔鏡検査による縦隔リンパ節生検を含めた様々な検査を行ったが確定診断つかず. 確定診断をつけることと症状を改善させる目的で外科手術を施行した. 腫瘤は上大静脈内膜からの発生を疑われた. 上大静脈の再建はリング付きGore-Texグラフト16mmを使用した. 術後経過は良好であった. 病理診断では, 心嚢液, 胸腺および縦隔リンパ節に悪性所見は認めなかったが, 上大静脈内腫瘤はB型悪性リンパ腫と診断され, 上大静脈原発悪性リンパ腫と診断された.
僧帽弁置換術, 冠動脈バイパス術後に感染性心内膜炎による僧帽弁位人工弁周囲逆流を生じた症例に対して, 右開胸アプローチ, 中等度低体温心室細動下で僧帽弁再置換術を施行した症例を経験したので報告する. 症例は65歳, 女性. 糖尿病性腎症のため12年前より血液透析中であった. 9カ月前, 他院にて虚血性心疾患, 僧帽弁閉鎖不全症に対し, 僧帽弁置換術 (MVR) と冠動脈バイパス術3枝を施行された. 術後半年を経過し, 発熱を認めたため精査したところ感染性心内膜炎と診断され抗生剤による治療を開始した. 弁周囲逆流が著明で心不全を併発し, 再手術が必要と判断された. 当院転院後3日目に, 右開胸にてre-do MVRを施行した. 術後, 気管切開術の施行など呼吸管理に難渋したが, 第52病日にリハビリ目的で前医に転院となった. 胸骨正中切開の既往のある症例に対する右開胸アプローチはグラフト損傷回避と, 僧帽弁位の良好な視野確保の観点から, 冠動脈バイパス術後の僧帽弁再置換術において有用と考えられた.
症例は48歳, 男性. 数カ月前より, 労作に関係のない胸部違和感の出現を認めた. 7月○日, シャワーを浴びていたところ突然気分不良, 嘔吐が出現し, その後, 意識消失を認め救急搬送となった. 心電図にて心拍数46/分, Ⅱ誘導にST低下, Ⅲ, aVF誘導に陰性T波, 血液検査にてトロポニンT陽性を認めたため, 急性冠症候群を疑い緊急冠動脈造影検査を施行した. 左冠動脈造影にて左前下行枝より右冠動脈#2まで造影される発達した側副血行路 (Grade 3) を認めた. 時間の経過とともに側副血行路の消失, 冠動脈の拡張を認めた. 右冠動脈狭窄を疑い造影を行うも#1 : 75% TIMI3であった. 血管内超音波検査にて病変部の確認を行うも有意狭窄を認めず, 次第に#1の狭窄の改善 (75%→0%) を認めた. 薬剤誘発負荷試験による確定診断はできなかったが, 冠攣縮性狭心症による間歇的な冠血流の遮断により側副血行路の発達が促進され非貫壁性心筋虚血を発症した症例と考えられる.
症例は73歳, 男性. 進行直腸癌の手術予定であり, CTで下大静脈内に粗大な血栓を指摘された. 下大静脈フィルターを挿入し, ヘパリンによる抗凝固療法を開始後, 血小板減少と下大静脈内血栓の増大傾向を認めた. ヘパリン起因性血小板減少症 (HIT) を疑い, ヘパリンを中止し, アルガトロバンの投与を開始した. のちに, HIT抗体陽性が確認された. アルガトロバン投与開始後も, 血栓はさらに増大傾向となり, 両総腸骨静脈から下大静脈へ連続する血栓となった. 抗凝固療法で, 直腸癌からの出血により貧血が進行したため, 直腸切断術を行った. 術後, アルガトロバンに加えてウロキナーゼによる血栓溶解療法を行ったが, 血栓は下大静脈~両側腎静脈~両側外腸骨静脈内に充満し, 腎機能障害, 腹部・両下腿の浮腫が進行した. 血栓吸引・破砕を目的に, 2回の経皮的カテーテルを施行し, t-PAを使用した. 徐々に血栓の縮小を認め, 浮腫, 腎機能の改善を認めた. 血小板数の回復後, ワルファリンへ切り替えた. 本症例では, 悪性腫瘍を背景とし, HITによる治療抵抗性の血栓形成をきたしたことが推測された. HITによる血栓症に対して, 薬物治療とカテーテル治療の併用が奏功した1例を経験したので報告する.
症例は75歳女性. 胸痛を主訴に救急要請, 救急車内で心肺停止となり当院へ搬送. 広範型肺血栓塞栓症の診断で経皮的心肺補助装置 (percutaneous cardiopulmonary support ; PCPS) を導入し, 血栓溶解療法を行った. 治療開始後, 自己心拍再開により循環動態は改善したが, 肺梗塞, 血胸を合併したため自己肺による酸素化が不良となり, 頭部を含む臓器への酸素供給が不十分となった. そこで, PCPSを静脈脱血-静脈送血膜型人工肺 (extracorporeal membrance oxygenation ; V-V ECMO) へ切り替えることで酸素供給は改善され, ECMOから離脱することができた. 高度な循環不全を伴う肺血栓塞栓症に対しては, 積極的なPCPSの導入が推奨される. 血栓溶解療法等で自己心拍出が改善された後, 酸素供給は自己肺に依存し, 重篤な肺疾患を合併するとPCPSでも十分な酸素供給が困難となる. 今回PCPSからV-V ECMOへ変更することで救命できた急性肺血栓塞栓症の1例を経験したので報告する.
症例は70歳代女性. 2008年急性下壁心筋梗塞を発症し, 急性期に右冠動脈責任部位へベアメタルステントを留置された. このとき回旋枝に90%狭窄を指摘され, 慢性期にpaclitaxel溶出ステント (Taxus® Express2TM) 2個が留置された. いずれも再狭窄なく経過し, aspirinとclopidogrelが継続された. 2013年大腸癌に罹患し結腸切除術を受けた. 非治癒切除であり, 手術後はaspirinのみ継続された. 2014年腸閉塞と多発肺転移が判明し, bevacizumabを含む癌化学療法が施行された. 20日後に急性心筋梗塞を発症し, 冠動脈造影では回旋枝Taxusステント留置部位に血栓性の閉塞が認められた. 血栓発症にbevacizumabが関与した可能性があり, 示唆に富むと考え報告する.