背景 : 胸骨正中切開後の胸骨閉鎖固定法として, 金属ワイヤーによる固定が一般的であるが, 胸骨接合面のずれやワイヤーによる胸骨のカッティングなどで胸骨固定の安定性に問題が生じることがある. 以前より整形外科領域や肋骨の固定などに用いられてきた, 生体内分解吸収性骨接合剤のメッシュ型プレートであるSuper FIXSORB® MX40が胸骨固定に使用できるようになり, 当科での使用方法ならびに疼痛軽減効果を報告する.
対象と方法 : 2014年9月~2015年5月に当科で施行した成人開心術症例42例 (平均年齢72.5歳, 男女比25 : 17) を対象とし, 金属ワイヤーのみで胸骨閉鎖した21症例をA群, Super FIXSORB® MX40を使用した21症例をB群とした.
術前因子として年齢, 性別, BMI, 糖尿病の有無, 人工透析の有無, 術中因子として人工心肺の使用, 内胸動脈の使用, 術後因子としてSurgical Site Infection (SSI) の有無, 術後7日目における疼痛の主観的評価 (5段階, 1~5) を2群間で検討した. 術後CT検査を施行した症例では, 胸骨体部 (第3肋間) での胸骨接合面の前後のずれの程度を検討した.
結果 : 両群間で術前因子・術中因子に有意差を認めなかった. 術後のSSIは両群ともに認めなかった. 術後疼痛に関してはB群でA群と比較し, 疼痛の程度は有意に軽度であった. 胸骨のずれに関しては, B群で有意に胸骨接合面のずれが少なかった.
結語 : Super FIXSORB® MX40を使用することで, 胸骨の安定性が増し術後疼痛の軽減に寄与すること, また胸骨ワイヤーによる胸骨閉鎖時に本法を行うことで, 術後の早期離床ならびにリハビリテーションの促進が期待できることが考えられた.
背景 : 心臓血管外科術後の最大の合併症は医療関連感染 (HAI) であり, 周術期における適切な感染制御が生命予後改善に不可欠である. 本研究の目的は, 心臓血管外科術後患者における医療関連感染のリスク因子を解析することである.
方法 : 対象は2007年1月から2011年12月まで, 山形大学医学部附属病院で心臓血管外科手術を行われた成人連続644例. 術後に発症した医療関連感染をCDCのサーベイランス基準に基づき診断し, リスク因子の解析を行った.
結果 : 644例中159例 (24.6%) において何らかの医療関連感染を合併した. 主たる内訳は手術部位感染32例 (4.9%), 肺炎80例 (12.4%), 尿路感染34例 (5.2%) であった. 感染群の在院死亡率は有意に高かった (12.6%対2.8%, OR 4.8, 95%信頼区間2.4-9.8, p=0.0001). 多変量解析により80歳以上 (OR 2.96, p=0.0011), 術前の心不全 (OR 1.84, p=0.024), 維持透析 (OR 3.66, p=0.0051), 長時間手術 (>440分 (75%ile値), OR1.79, p=0.0286) 胸部大動脈手術 (オッズ比3.64, p=0.0005) が独立したリスク因子として抽出された.
結論 : これら高リスク患者に対する積極的な介入が医療関連感染の予防に有効である可能性が示唆された.
冠動脈の高度石灰化病変に対してロータブレーターは有効とされるが, 機械的故障が生じることも報告されている. 今回われわれは, ロータブレーターのバーとドライブシャフトが離断した症例を経験した. 症例は68歳男性. 狭心症と診断され, 右冠動脈の高度石灰化病変に対してロータブレーターによるアテレクトミーを施行した. 繰り返すアブレーション中に一度は病変を通過したものの, その後のアブレーションでバーとドライブシャフトが離断した. 取り残されたバーはスネアを使用して回収できた. バーとドライブシャフトの離断については, これまで報告は少ない. また, 今回はスタックした状態でアブレーションを施行していないにもかかわらず離断した. ロータブレーター施行時には離断の可能性を考えて, 術者が回収方法を習得しておくことが重要と考えられた.
27歳男性. 褐色細胞腫とカテコラミン心筋症によるうっ血性心不全に対し内科的加療を行ったところ, 血中カテコラミン濃度およびうっ血所見は経時的に改善した. 第46病日に副腎腫瘍摘出術を施行したところ血中カテコラミンは正常化した. しかしながら退院後, 約1年経過するも低左心機能は遷延した. 通常カテコラミン心筋症に伴う心筋障害は可逆的で, カテコラミン暴露解除後に左心機能は改善することが知られているが, 本例のように低左心機能が遷延したという報告も少数存在する. 入院中の心臓MRIでは心筋の線維化を示唆する貫壁性のガドリニウム遅延造影を認め, また退院後も同所見は残存した. このことから, 心筋リモデリングの指標としての心筋線維化に着目し, 血清心筋線維化マーカー (プロコラーゲンⅢ型ペプチド) と, 心筋の炎症マーカー (CRP, インターロイキン6) を経時的に測定した. 結果, 炎症マーカーは周術期に高値を呈した後に退院後は低値で推移したが, 心筋線維化マーカーは退院後に持続的な上昇を示した. 以上から低左心機能が遷延するカテコラミン心筋症が存在し, MRIのガドリウム遅延造影がその予測因子となり得ること, また低左心機能の例では心筋線維化が持続的に上昇している可能性があり, 長期においてリモデリング予防が必要となることが示唆された.
症例は92歳, 男性. 虚血性心疾患による急性心不全の改善後に, 左前下行枝近位部75%狭窄に対して, 経皮的冠動脈インターベンション (percutaneous coronary intervention ; PCI) を行った. 血管内超音波 (intravascular ultrasound ; IVUS) では, 病変部に表在性, 全周性の高度石灰化を認め, 3.0mm径の耐圧性バルーンによる前拡張を行い, 3.5mm径の薬剤溶出性ステントを高圧で留置した. しかし, ステントは高度石灰化病変により重度の拡張不良となったため, 耐圧性バルーンにより高圧拡張を繰り返し行ったが, ステントは依然として拡張不良であった. ステント再狭窄やステント血栓症等の重篤な合併症をきたす危険性が高く, エキシマレーザー血管形成術を行った. 通常のエキシマレーザーの使用法では得られる内腔が限られ, ステント拡張不良の主な原因となっているステント外の高度石灰化病変を蒸散することが難しいため, 生理食塩液の灌流を行わずにエキシマレーザーの照射を行うことで, ステント外の高度石灰化病変を破壊することに成功し, 耐圧性バルーンによる後拡張でステントも最終的に良好な拡張が得られた. 高度石灰化病変に留置されたステントが拡張不良であった場合, 従来のバルーンによる高圧拡張では十分な拡張を得ることは難しく, エキシマレーザーはステント外の高度石灰化病変にも介入できる有効な治療法となりうるため, 文献的考察を加え報告する.
Carney複合 (Carney complex ; CNC) は, 皮膚色素沈着, 副腎皮質腫瘍や下垂体腫瘍などの内分泌機能亢進で特徴づけられる症候群で常染色体優性遺伝疾患である. 心臓腫瘍を高率に合併し, 孤発性心臓腫瘍と比較し多発性で再発率が高い. 遺伝子検査でtype 1α regulatory subunit of cAMP-dependent protein kinaseのc. 597del C (p. Phe200LeufsX6) 変異が確認され, CNCと診断された一家系3症例を報告する.
症例1は65歳女性. 耳下腺腫瘍摘出術および成長ホルモン産生下垂体腺腫 (GHoma) に対する下垂体腫瘍摘出術の既往がある. 2011年の経胸壁心エコー (transthoracic echocardiography ; TTE) で22×14mm大の左房内腫瘍を認めたが手術を拒否した. 2015年のTTEで同腫瘍の増大34×17mmを認めた. またその時点で新たに13×11mm大の右房内腫瘍を認めた. 多発性心腔内腫瘍に対して手術を承諾し, 摘出術を施行された.
症例2は症例1の三女35歳. GHomaおよび原発性色素沈着性結節性副腎皮質病変 (primary pigmented nodular adrenocortical disease ; PPNAD) 既往がある. 2011年のTTEで50×30mm大の左房内腫瘍を認め, 摘出術を施行された. また術前経食道心エコーでは指摘されなかった5mm大の別の左房内腫瘍を術中直視下に認め, 摘出された.
症例3は症例1の次女37歳. GHomaに対する下垂体腫瘍摘出術の既往およびPPNADがある. 今のところ心臓腫瘍は認めていない.
2症例の4腫瘍はいずれも病理学的には粘液腫であった. CNCは遺伝性疾患であり家族内発症し, 高率に心臓腫瘍を合併する. またCNCに合併する心臓腫瘍は再発率が高い. 心臓腫瘍未発症の家族も含め, 永年の注意深い経過観察が必要である.
症例は63歳, 女性. 61歳時に後腹膜腫瘍に対し後腹膜腫瘍摘出術および右腎合併切除が施行された. 病理組織学的に脱分化型脂肪肉腫と診断された. 以後, 外来で経過観察されていた. その後局所再発は認めなかったが, 術16カ月後のCT検査で多発肺転移を認めた. 腫瘍の一部は心房へ浸潤し左房内腫瘤を形成していた. 右肺下葉切除および左房部分切除による腫瘍摘除術を行ったが, 術7カ月後に死亡した. 肺転移巣が左房内進展をきたした稀な後腹膜脂肪肉腫の1例を経験したので報告する.
症例は53歳, 女性, EF 20%台と拡張型心筋症様の心機能低下による心不全にて入院加療となり, 心筋生検にて多核巨細胞を伴う炎症細胞の浸潤を認めていたが, 全身にてサルコイドーシスを疑う所見を認めず, ステロイド加療はなされていなかった. その後, 心室頻拍にて再入院となり, 造影MRIを施行したところ, 遅延造影にて心尖部下壁に貫壁性の強い造影効果とその周囲に心内膜下優位の淡い造影効果を認め, T2-STIR像では心基部寄りの前壁と下壁に高信号領域を認めた. FDG-PETでは心尖部下壁に集積は認めないが, 遅延造影部位の淡い造影部位とT2-STIR像での高信号領域と一致して集積を認め, 活動性のある孤発性心サルコイドーシスの診断にてステロイド治療を開始した. その後, 心不全症状は改善し, 1カ月後の造影MRIでは淡い遅延造影部位の造影効果は消失していた. 1年後の時点で心不全増悪なく, 著明な心収縮の改善は認めないが, LVEDVは有意に縮小している.
拡張型心筋症様の心機能低下を認める心サルコイドーシスは特発性拡張型心筋症に比較して予後不良といわれ, 拡張型心筋症における心サルコイドーシスの鑑別は重要である. 本症例は心以外にサルコイドーシスを示唆する所見は明らかではないが, 心臓において組織学的に診断され, 孤発性の可能性が考えられた心サルコイドーシス症例であり, 造影MRI, FDG-PETを活用することでその診断や活動性, 治療効果判定において有用であった.