背景:院外心停止の初期波形はショック適応波形[VF/pulseless VT]とショック非適応波形[PEA/asystole]に分類される.初期波形がショック適応波形の院外心原性心停止症例において積極的な体外循環式心肺蘇生(Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation:ECPR)の導入は転帰を改善する報告がある一方,初期波形がショック非適応波形におけるECPR適応については確立したエビデンスはない.そこで今回われわれは院外心停止におけるECPR症例についてショック非適応波形に着目し,その特徴を検討した.
方法:2011年4月から2014年3月までに東京都立多摩総合医療センターにてECPRを施行した内因性の院外心停止23例について後ろ向きに観察し特徴と転帰を検討した.
結果:対象は23例であり,22例(96%)に目撃があり,初期波形はショック適応波形16例,ショック非適応波形7例(PEA 4例,asystole 3例)であった.28日後生存例は8例(35%),神経学的転帰良好群は4例(17%)であった.神経学的転帰良好群のうち3例は目撃があり初期波形PEAで原因疾患が肺塞栓症の症例で,いずれも二次蘇生処置中に一時的な自己心拍再開を認めた症例であった.
結論:内因性の院外心停止症例において,初期波形がショック非適応波形であっても,目撃があり二次蘇生処置中に一時的に自己心拍再開が得られた症例については,心停止の原因として肺塞栓症の可能性を考慮すべきである.これらの症例にECPRがなされた場合,良好な神経学的転帰が期待できる可能性が考えられた.
FDG-PETは障害心筋にグルコースが取り込まれることを利用し,心筋の炎症を画像上に反映するモダリティである.空間分解能が高く,心サルコイドーシスの診断に対する感度,特異度は従来診断基準の1つとして用いられてきたGaシンチグラムをはるかに超えると報告されており,現在の診断基準ではGaシンチグラムと同列に記載されている.今回われわれはFDG-PET上心筋集積を認めた心サルコイドーシスに対し副腎皮質ステロイド治療を行い,集積が消失した3例を経験した.
症例1は心室頻拍で救急搬送,症例2は胃生検でサルコイドーシスと診断,症例3は心臓超音波検査で心室中隔の菲薄化を指摘され,全例PETにて心集積を指摘され副腎皮質ステロイドを開始,漸減した.治療開始後全症例において心筋集積の消失が認められた.活動性病変の鎮静化が得られたと考えられ,治療効果判定にもFDG-PETが有効であったと推察された.一方,心病変に対してはステロイドの少量継続投与が標準的治療として推奨されているが,明らかな予後改善のエビデンスはない.ステロイドは副作用も多い薬剤である.FDG-PETは心病変の診断および治療効果判定に有用であり,FDG-PETと慎重な外来フォローによりステロイドが中止できる症例が存在する可能性があるのではないかと考えられる.
症例は74歳男性.主訴は呼吸困難.既往歴には前壁梗塞のため冠動脈バイパス術,糖尿病のため薬物,インスリン治療を受けていた.現病歴はX年8月頃,近医にて下肢有痛性筋痙攣のため芍薬甘草湯の内服(6 g/日)を開始した.同年9月より下腿浮腫の増悪と血清カリウム値の低下を認めた.同年10月下旬に全身倦怠感と夜間呼吸困難を認めたため救急来院となった.来院時,低酸素血症,下腿浮腫を認め,採血ではBNP 470 pg/mLと上昇を認めた.胸部X線では肺うっ血と心拡大を認め,急性心不全と診断した.また,血清尿素窒素16 mg/dL,血清クレアチニン1.65 mg/dL,血糖値327 mg/dL,HbA1c 9.1%(NGSP),血清カリウム値2.0 mEq/L,血液ガス分析にて代謝性アルカローシスを認めた.入院2カ月前から芍薬甘草湯を内服しており,偽性アルドステロン症と考えられた.入院後,芍薬甘草湯内服中止,心不全薬物療法,カリウム製剤補充を行った.血清カリウム値の是正に難渋し,入院中に心不全再増悪を認め,芍薬甘草湯の薬効残存が考えられた.本来,偽性アルドステロン症では,体液過剰となってもエスケープ現象による代償機転が働き,浮腫や心不全状態には至らないと考えられている.本症例は,過去に心筋梗塞の既往を有する慢性心不全状態に,糖尿病性腎症による慢性腎不全を合併していたため,代償機転が作動しにくく,心不全増悪をきたしたと考えられた.
症例は43歳女性,21歳時に外傷性大動脈解離に対して左側開胸下で修復術(詳細不明)を受けていた.来院5日前に胸のつかえ感が出現し,症状増悪と低血圧のため救急搬送された.胸部単純写真上に心拡大あり,心エコー検査にて中等量の心嚢液貯留を認めた.大動脈解離の否定のため施行した造影CTにて,肋骨ワイヤーによる心膜および心臓損傷,外傷性心タンポナーデと診断し,緊急手術を施行した.術中所見では肋骨閉鎖用のワイヤーがほぼ垂直に胸壁から突出しており,心膜を貫通して心嚢内に達していた.心膜および心表面は高度の瘢痕組織を認め,長期間ワイヤーによる損傷に曝されていた所見であった.第3対角枝損傷による動脈性出血を伴っており,心タンポナーデの原因と考えられた.自己心膜プレジェットを用いた縫合止血により修復した.周術期に虚血性イベントはなく,良好な経過にて術後13日目に独歩退院した.側開胸術後22年経過し,肋骨ワイヤーによる心損傷および心タンポナーデを発症した稀な1例を経験したので報告する.
症例:77歳の女性.脳梗塞後遺症加療中に呼吸困難,嘔吐で発症.心電図は心房細動で,Ⅱ,Ⅲ,aVF誘導でST上昇を認め,心エコーでは右室拡張と右室全体から左室下壁の高度壁運動低下と,右冠動脈洞に突出する可動性のある12 mm大の構造物を認めた.心エコー所見より乳頭状線維弾性腫が疑われ,その診断目的で心臓CTを行ったところ,右冠動脈内から冠動脈洞内に連続して突出する構造物を認めた.さらに左心耳内にも巨大な索状の構造物を認め,全体像より心房細動に伴う左心耳内血栓,およびその右冠動脈内への血栓塞栓による急性下壁+右室梗塞と診断した.比較的血行動態が安定していたこと,巨大な血栓塞栓症であったことからPCIは行わず,抗凝固療法を先行して行ったところ,第11病日の心エコーでは冠動脈洞内の血栓の消失が確認され,第17病日の心臓CTでは左心耳内および右冠動脈内から冠動脈洞内に連続していた血栓の消失と右冠動脈の再開通が確認された.
結語:冠動脈洞内まで連続して突出する巨大な塞栓子による血栓塞栓症の全容評価に心臓CTが有用であった症例を経験した.
単心房,重複左側房室弁口,左上大静脈遺残を伴ったCompletely unroofed coronary sinusを合併した完全型房室中隔欠損症(ラステリA型)に対して,生後1カ月に動脈管結紮術ならびに肺動脈絞扼術を行い,1歳1カ月に心内修復術を施行した.比較的稀な複数の心内奇形を合併した症例であり文献的考察を加えて報告する.術前心エコー検査で冠静脈還流位置が確認されなかったことに加えて,単心房,左上大静脈遺残という複雑な心房形態を呈していたため,術前に心房分割線のイメージを把握するのが難しかった症例である.
症例は66歳男性.運動中に突然卒倒し心肺停止状態となった.Bystanderによる心肺蘇生が施行され,自動体外式除細動器による電気ショックが実施され当院へ搬送された.緊急冠動脈造影検査で左前下行枝に99%狭窄を認め,同部位へステント留置術を施行した.第1病日夜間に吐血し上部消化管内視鏡検査でMallory-Weiss症候群と診断した.保存的加療を行ったが第7病日に再出血からショック状態となり,輸血を行った後に出血部位へ内視鏡的止血術を施行した.以後安定し第24病日に独歩退院した.心肺蘇生が原因と考えるMallory-Weiss症候群の1症例を経験した.稀な合併症ではあるがショック状態となりうる注意すべき合併症であるため報告する.
47歳男性で維持透析中の末期腎臓病患者が,脳梗塞を発症し感染性心内膜炎を疑われたため当院に転院した.心臓超音波検査上,僧帽弁に疣贅を疑わせるエコー輝度の高い構造物を認めたが,臨床的経過および画像所見より最終的にCalcified Amorphous Tumor(CAT)と診断した.CATについての数々の症例報告はあるが前向きの調査が皆無であるため,その疫学,予後,そして外科的切除も含めた適切な治療方法についてはいまだ不明である.