背景と目的:歯科治療時における感染性心内膜炎発症予防のための抗生剤使用状況についてはあまり報告がない.本研究の目的は,歯科医の実臨床における予防的抗生剤投与の適応とその内容についての現状を調査し,ガイドラインの影響を検討することである.
方法:昭和大学関連歯科病院,地域連携歯科医院を対象に,以下の5つの設問につきアンケート調査を行った.1)所属(a.歯科病院,b.歯科医院),2)経験年数,3)どのような歯科治療時に予防的抗生剤を投与するか(a.非侵襲性治療,b.侵襲性治療),4)患者背景(a.人工弁使用患者,b.心臓弁膜症患者),5)抗生剤の内容.
結果:70名に配布し,回答者は43名(回答率61%)で,歯科病院は20名,歯科医院は23名であった.平均経験年数は20.7±12.5年(1-19年:30%,20-29年:33%,30年以上:37%)であった.93%(38/41)が侵襲性治療時に,非侵襲性治療時では7%(3/41)が予防的抗生剤投与を行うと回答した.予防対象患者が人工弁使用だけである歯科医は71%(27/38)で,人工弁使用に加え心臓弁膜症患者も対象としている歯科医は29%(11/38)であった.また,アモキシリンを第一選択としていた歯科医が77%(30/39),セフェム系である歯科医が18%(7/39)であった.
結論:今回の調査において,ガイドラインでは推奨されていない非侵襲性歯科治療における抗生剤使用は7%に過ぎず,また,高度リスク群とされる人工弁患者に対しては100%の歯科医が予防的抗生剤投与を行っており,ガイドラインの趣旨が日常歯科診療に反映されていることがわかった.また,ガイドライン上推奨されているアモキシリンの使用頻度は77%であったが,歯科医院における使用頻度は61%といまだ十分とはいえず,今後とも関連学会や研究会を通じて啓蒙活動を推し進める必要がある.
症例は80歳女性.13年前に心エコーで中隔肥大を指摘されていた.今回,検診で心電図異常を指摘され,無症状であったが当院を受診し,心エコーで心室中隔に異常構造を認めた.5年前に運転中に自動車同士の交通事故に遭い,多発肋骨骨折や小腸穿孔等を受傷しており,受傷急性期の心電図ではST-T変化がみられていた.当初は腫瘤性病変も念頭に精査したが,受傷時の心電図経過やCTおよびMRI検査所見から,交通外傷の際に心室中隔に非貫壁性心筋解離が発生したものと診断した.鈍的胸部外傷の8~76%に鈍的心臓外傷を生じるとされるが,無症状に経過した非貫壁性心筋解離は稀な病態と思われ,文献的考察を含めて報告する.
症例は60歳代男性で,特発性血小板減少症に対してステロイド内服されていた.左前胸部痛,背部痛を主訴に来院.血液検査でWBC 12300 /μL,CRP 35.0 mg/dLと上昇があり,心電図で広範なST上昇および胸部CTで全周性の心膜液貯留,肺炎像を認め,血液培養で肺炎球菌が検出されたことから肺炎球菌性肺炎および心膜炎の診断となった.心膜液貯留が軽度であったこと,血小板が低値であったことから心膜穿刺は施行しなかったが,抗菌薬での加療中に急速な心膜液の貯留および心タンポナーデを発症し緊急で心膜穿刺を施行,膿性の心膜液だったことから化膿性心膜炎と診断とした.内科的加療での反応性は乏しく,膿胸の合併も認めたため,第17病日に心膜開窓術および左肺上葉切除術を施行した.術後経過は順調だったが,右肺に肺炎を合併し第45病日に死亡退院となった.今回ステロイド内服患者に発症した化膿性心膜炎の1例を経験したので報告する.
症例はブラジルから移住した64歳男性.20XX年秋に心窩部不快感が出現し,持続性心室頻拍とうっ血性心不全症状を呈し,同日前医へ入院となった.著明な左心機能低下を認めるが,病因は不明であった.入院による心不全への加療により心室頻拍の再燃もなく退院したが,20XX年冬にうっ血性心不全の再燃で再入院となった.心不全は代償したが,心室頻拍と洞停止を繰り返すため当院に転院となり,薬物治療と除細動機能付き両心室ペースメーカ植込み術を施行した.ブラジルでの生活歴が長いためシャーガス病を疑い,イムノクロマト法,ELISA法による原虫の抗体確認をし,診断に至った.その後著明な心機能低下の原因としてシャーガス病の確定診断が得られた.当院への入院後は心不全や不整脈の再燃なく退院となった.
学校心臓検診の目的の一つは器質的疾患の早期発見である.今回我々は,学校心臓検診で指摘された心室性期外収縮(PVC)を契機にHypokinetic non-dilated cardiomyopathy(HNDC)の診断に至った症例を経験した.
症例は15歳男児,学校検診でPVCを指摘され精査目的に近医を受診した.近医で再検された12誘導心電図においてV1-V3でT波の陰転化を指摘された.心臓超音波検査(心エコー)で壁運動の低下と左室壁の軽度の菲薄化を認め,心筋症を疑われたため精査目的に当院紹介受診した.PVCは右室流出路起源で運動負荷にて消失した.心筋症精査のため行われた心筋生検で中等度の心筋の線維化を認め,左室腔の拡大を伴わないHNDCの診断に至った.診断後はβブロッカーの投与を開始し,PVCは減少し心機能はおおむね横ばいで推移している.また原因検索のため患児,家族の73種の心筋症関連遺伝子について次世代シーケンサを用いて解析したが,有意な遺伝子変異を認めなかった.日常診療や検診の場面でPVCを発見した際は適切なフォローアップや介入の必要があると考えられた.
症例は39歳,女性.深夜に突然の腹痛と右背部痛を主訴に当院循環器内科へ緊急搬送された.CTでは,右腎動脈瘤と後腹膜出血の他に複数の血管病変の合併が認められ,血管脆弱性が示唆された.母親が出産後に大動脈破裂で死亡している.そのため,血管病変治療と並行し,遺伝性結合組織疾患を疑い次世代シークエンサー(NGS)を用いた遺伝子解析を行った.後腹膜出血を伴う腎動脈瘤に対してコイル塞栓を施行し,成功した.同時に中心静脈路確保のため右内頸静脈から挿入を試みた際に動脈穿刺が疑われたため,抜去し直ちに圧迫止血を施行したが,仮性動脈瘤および右椎骨静脈と鎖骨下動脈シャント形成を合併した.経過観察中にNGSを用いた遺伝子解析の結果から血管型エーラス・ダンロス症候群(vEDS)と確定診断した.仮性動脈瘤は増大傾向であり,塞栓術によるシャント閉塞術を行った.術後合併症なく退院に至っている.vEDSは極端な血管脆弱性から,血管合併症の治療には細心の注意を払う必要があることが報告されている.本例はNGSを用いたvEDSの迅速な確定診断が,追加の血管内治療の選択に有用であった症例であり,報告する.
機能性三尖弁閉鎖不全症(TR)やEbstein病に対する三尖弁形成術(TVP)は様々な術式が報告されており,その一つにAugmentation法がある.我々は成人三尖弁異形成(TVD)の高度TRに対して,自己心膜を用いたAugmentation法によるTVPを行い,良好な結果を得たので報告する.症例は66歳の女性.主訴は労作時息切れ.心エコーでは三尖弁中隔尖の付着位置が右室側に軽度偏位しており,心房粗動と高度TRを伴うTVDと診断された.手術はTVPとメイズ手術を行った.三尖弁は後尖寄りの中隔尖弁輪が右室側に最大10 mm落ち込んでおり,さらに中隔尖と後尖に間隙を認めた.前尖から後尖は自己心膜を用いて拡大(Augmentation法)し,中隔尖と後尖の間隙は自己心膜を補填した.術後,洞調律を維持し,心エコーではTRの改善を認めた.中隔尖の偏位が比較的小さい症例や著明な弁輪拡大のため自己三尖弁組織のみでの形成が困難な症例に対しては,Augmentation法を用いたTVPは簡便で有用な術式である.
症例は30代男性.主訴は左上肢腫脹.既往歴,家族歴に特記事項なし.職業は工場の機械作業.現病歴は2017年6月初旬に左上肢の腫脹,発赤が出現したため2日後に当院を受診,造影CTで左鎖骨下静脈内血栓を認めたため入院となった.血栓性素因はなくPaget-Schroetter症候群と診断,入院1日目からヘパリン持続点滴(15,000単位/日)および入院2日目からウロキナーゼ静注(240,000単位/日)を行うも改善を認めなかった.入院8日目に経皮的血管形成術(PTA)を施行,左鎖骨下静脈は肋鎖間隙部で閉塞しており,豊富な側副血行路を認めた.肺塞栓症の予防のため,上大静脈に一時的静脈フィルターを留置して,カテーテルによる血栓吸引およびバルーン拡張により血流は良好となり自覚症状は改善した.血栓の病理所見は血小板凝集,フィブリン網に一部線維芽細胞がみられ器質化血栓であった.仕事時の機械作業に伴う慢性的な鎖骨下静脈への機械的圧迫や静脈内皮障害が発症の誘因と考えられた.術後にリバーロキサバン15 mg/日を投与して症状の再発なく退院した.6カ月後の造影CTで左鎖骨下静脈内血栓は認めなかった.Paget-Schroetter症候群に対して急性期の血栓吸引に続くPTAと直接経口抗凝固薬(DOAC)が有効であった.