ペースメーカなどの植込み型心臓電気デバイス装着遺体の火葬に関する対応は統一されていない.そこで我々は2018年9月より病院死亡,在宅・介護施設死亡にかかわらず,死亡確認後に医師はデバイス摘出は行わずに「デバイス証明」を遺族に渡すこと,行政窓口では埋火葬許可証内に追加したペースメーカ装着の有無欄をチェックするという方法で統一した.運用開始後1年間で14例すべてのデバイス植込み症例の情報が火葬場職員に確実に伝達され,トラブルなく火葬がなされた.
目的:高齢者慢性心不全における甲状腺機能異常や高ホモシステイン(Hcy)血症と心血管イベントとの関連性について検討した.
対象と方法:甲状腺ホルモン(TSH,free-T3,free-T4)と血漿総ホモシステイン(tHcy)を測定し,5年間心血管イベント(心血管死)を観察しえた1437例のうち,65歳以上でfree-T4が正常値内の1126例(平均83±9歳)を,慢性心不全の425例と非心不全の701例に分けて検討した.潜在性甲状腺機能低下症(SCH)はfree-T4が正常値内で,TSHが正常上限を超えて10 μIU/L未満のもの,low-T3症候群(LT3S)はfree-T3が正常下限値未満で,かつfree-T4とTSHが正常値内のもの,高ホモシステイン(Hcy)血症は血漿tHcyが正常上限値13.5 nmol/mLを超えるものとした.
結果:SCHは高齢者慢性心不全の24.7%に,非心不全の4.0%に出現,LT3Sはそれぞれ29.9%と11.1%に出現,高Hcy血症はそれぞれ58.8%と26.2%に出現し,いずれも慢性心不全で多かった(p<0.001).Cox比例ハザード回帰の多変量解析で高齢者慢性心不全の5年生存率の寄与因子は,年齢,男性,BMI低値,BNP高値,血漿tHcy高値,LT3Sの合併,statin非服用,利尿薬服用であった.高齢者慢性心不全の5年生存率はSCHと正常TSH群で有意差はなく,LT3Sと高Hcy血症で有意に予後不良であった(log-rank p<0.001).高Hcy血症を合併する高齢慢性心不全でLT3Sの合併は5年生存率をさらに低下させたが(log-rank p<0.001),SCHの合併は5年生存率に影響しなかった.
結語:高齢者慢性心不全にSCHやLT3S,高Hcy血症がしばしば合併する.高齢者慢性心不全でSCHの合併は予後に影響しないが,LT3Sや高Hcy血症の合併は予後を不良にした.高Hcy血症にLT3Sを合併すれば5年生存率はさらに低下した.
背景:左室心室瘤の原因疾患には,陳旧性心筋梗塞(以下OMI:old myocardial infarction)と非虚血性心疾患(非OMI)が存在するが,この2群間の心電図所見の差異についてはほとんど報告がない.
方法:心エコー図検査で左室心室瘤を認め,その原因疾患が確定診断された患者33名において,Cabrera配列で整理した心電図所見を解析した.
結果:心室瘤を認めた33名の患者のうち,OMI患者が18名,非OMI患者が15名であった.これら2群の心電図所見の比較では,異常Q波と陰性T波の出現分布に有意差が認められた.OMI群ではV1-V4誘導の異常Q波出現が有意に多く,非OMI群ではⅠ,-aVR,Ⅱ,aVF,Ⅲ誘導の陰性T波出現が有意に多く認められた.特にV3誘導における異常Q波とⅢ誘導における陰性T波において出現頻度の差が顕著であった.これらの2つの組み合わせ(V3誘導に異常Q波がある,Ⅲ誘導の陰性T波がない)によって原因疾患がOMIであることを診断する,感度は0.667,特異度は1.000,陽性的中率は1.000,陰性的中率は0.714を示した.
結論:心エコー図検査で心室瘤を認めた患者において,その心電図でV3誘導に異常Q波がみられⅢ誘導に陰性T波がみられない場合は,心室瘤の原因疾患が陳旧性心筋梗塞である可能性が高く,非虚血性心疾患の心室瘤との鑑別に有用である.
中性脂肪蓄積心筋血管症(triglyceride deposit cardiomyovasculopathy;TGCV)は,心筋や血管平滑筋に中性脂肪が蓄積し冠動脈硬化や心筋障害が進行する新規疾患である.その臨床像は多彩であり,診断プロセスにおいて鑑別すべき患者群の同定が難しいため,実診断数が推定患者数に比して少数である.
自験207症例(確診群85例,非確診群122例)の解析の結果,確診群は非確診群に比して,左室駆出率(left ventricular ejection fraction;LVEF)が低く,血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide;BNP)濃度が高く,心筋シンチグラフィにおけるiodine-123-β-methyl iodophenyl-pentadecanoic acid(123I-BMIPP)早期像平均カウント,123I-BMIPP/201Tl早期像平均カウント比が低値であり,これらがTGCV診断に役立つ可能性が示唆された.
症例は35歳男性.胸部違和感で近医受診,完全房室ブロックで,右脚ブロック型の補充調律を呈したが,発症3日目,本院来院時には左脚ブロックを伴う洞調律に変わっていた.しかし直後に洞頻脈傾向となり,Ⅱ度房室ブロックが起こったが,まもなく1:1伝導に回復した.頻脈傾向が改善するにつれ,房室解離が起こり,房室接合部調律が出現したが,そのレートは77と非発作性房室接合部頻拍であった.さらに洞調律数の低下とともに,洞調律と非発作性房室接合部頻拍が混在しながら,翌日完全な洞調律となった.この間特別な薬物治療は行わなかった.完全房室ブロックの経過と左脚ブロックが持続した事より,ぺースメーカを挿入したが,その後房室ブロックが起こることはなく,退院後は全く通常の生活に復している.発症の原因,誘因については,種々の検査を行うが,明らかにならず,現時点では特発性と言わざるを得ない.
症例は75歳男性.突然の一過性意識消失とその後の呼吸困難で救急搬送された.精査の結果,下肢深部静脈血栓症が原因の急性肺動脈塞栓症と診断された.さらに右房内に巨大浮遊血栓を指摘されたため準緊急的に開胸下での血栓摘出術を行った.右房内浮遊血症は重症の急性肺塞栓症を引き起こす原因となるため発見され次第緊急で対応する必要がある.しかしながら早期診断の技術が向上した現在においても,その管理,治療については一定の見解が得られていない.本症例は右房内の巨大浮遊血栓に加え,開存した卵円孔から右房内の血栓が左房内にも浮遊性に存在する状態であった.肺塞栓症の再発に加え,動脈塞栓症の発生も危惧されたため外科的血栓摘出術を選択し,術後合併症なく治療を行うことができた1例である.
症例は40歳代の女性.突然の前胸部痛にて救急搬送となった.胸痛精査のため,冠動脈造影検査を施行.当初,冠動脈は正常と思われ,左室造影で左室心尖部を中心として壁運動障害を認め,たこつぼ心筋症に典型的な身体的精神的ストレスのエピソードもなく,尿中薬物検査にて覚醒剤が陽性であったことから,覚醒剤によるたこつぼ心筋症を疑った.再度,退院前に冠動脈造影を施行したところ,入院時に同定できなかった有意狭窄病変のない左前下行枝が描出された.心筋シンチ所見でも左前下行枝領域に一致した灌流欠損を認めたことから,本例はたこつぼ心筋症ではなく覚醒剤による急性前壁心筋梗塞と診断した.本人に確認したところ,胸痛発作の前に覚醒剤を静脈注射したことを認めた.本例は,本邦では稀有な覚醒剤使用後の心筋梗塞症例で,冠動脈造影判読の重要性をことさら認識した症例であったため報告する.
Valsalva洞動脈瘤は稀な疾患であり,無症状または軽微な症状で経過することが多い.未破裂の場合,瘤化部は盲端であるため付近の血液乱流により内部に血栓形成をきたし,潜在的脳梗塞源の一つとなり得る.脳梗塞を契機に偶発的に診断されたValsalva洞動脈瘤の症例を経験したので報告する.症例は44歳,男性.幼少期から心室中隔欠損症を指摘されていたが,自己判断で成人期以降は通院を中断していた.反復性の脳梗塞のため入院され,全身の塞栓源の検索が行われた.経食道心エコーで小さな漏斗部心室中隔欠損と右冠洞部のValsalva洞動脈瘤を認めた.Valsalva洞動脈瘤内には血栓は認めなかったものの,smoke signがあり他に明らかな塞栓源を認めなかったことから,同部位が脳梗塞源と判断した.脳梗塞再発予防のためにDOACが開始され,以降は新規塞栓を認めなかった.4年後に右室内破裂をきたしたため当科に紹介され,外科的修復術が行われた.本症例のようなValsalva洞内に血栓形成が疑われる場合の治療法は確立していない.抗凝固療法は塞栓再発を予防する上では有効であったが,瘤破裂のリスクを考慮すると速やかな外科的修復術が行われるべきである.手術時期の判断については反省すべき点と考えられた.