症例は46歳,男性.30歳代から糖尿病,感音性難聴が指摘され,それぞれの専門科にて加療を受けていた.労作時息切れと下腿,陰嚢浮腫を主訴に循環器内科を受診し,うっ血性心不全の診断となり精査加療目的に入院となった.心臓超音波検査で左室肥大と左室駆出率22%の低心機能を認めた.心筋生検での電子顕微鏡像では空胞変性や大小不同などのミトコンドリア形態異常を認め,また血液検体におけるミトコンドリア遺伝子検査でA3243G変異が確認されミトコンドリア病と診断された.神経症状は認めず,ミトコンドリア病を示唆する家族歴も確認されていない.薬物的に心不全コントロールを行い,心臓突然死一次予防として皮下植込み型除細動器植込み術を施行した.初発症状から10年以上経過の後に診断に至った症例であり,ミトコンドリア病臨床像の多様性と長期的な病像進行を考慮に入れた診療の重要性が再確認された.
症例は80歳男性.6年前に大動脈弁狭窄症に対し外科的大動脈弁置換術が行われ,外巻き弁であるCrown 21 mmが留置された.呼吸困難を主訴に近医を受診し,急性心不全の診断で当院へ搬送となった.経胸壁心臓超音波で重症大動脈弁閉鎖不全症を認め,経食道心臓超音波でtrans-valvular leakageによる人工弁機能不全と診断した.カテコラミンや利尿薬投与で心不全は改善せず,準緊急で外科的大動脈弁置換術後の人工弁機能不全に対する経カテーテル的大動脈弁留置術(Trans-catheter Aortic Valve in Surgical Aortic Valve;TAV in SAV)を行いEvolutTM FX 23 mmを留置した.TAV in SAV直後より劇的に血行動態が改善し,カテコラミンは速やかに中止可能となった.外巻き弁は内巻き弁に比べて早期の生体弁機能不全に陥る症例や急性大動脈弁閉鎖不全症をきたす症例が報告されている.外巻き弁の人工弁機能不全による慢性心不全の急性増悪に対してTAV in SAVが著効した人工弁機能不全の症例を経験したため報告する.
81歳男性.高血圧,脂質異常症,M蛋白血症で近医内科へ,末梢神経障害で近医整形外科へ通院中であった.労作時呼吸困難感と下腿浮腫,血液検査でBNP高値,胸部X線で心拡大と胸水貯留,心電図で心房細動と肢誘導低電位を認めた.心不全の診断で内服加療後も胸水は改善せず,精査・加療目的に紹介入院した.心エコー図検査では特異的な所見は認めなかったが,心臓MRI検査では側壁に遅延造影を,血清免疫電気泳動検査ではIgG-λ型M蛋白血症を認めた.心内膜心筋生検を施行し,コンゴーレッド染色陽性部位にトランスサイレチン(TTR)が最も一致,AL-λは間質に一部陽性であった.骨髄検査では形質細胞の増加を認め,ALとATTRの併発例として他院血液内科にてALに対し化学療法を施行した.心不全の改善を認めず,腹壁脂肪生検と心筋生検の再評価を行い,単クローン性免疫グロブリン血症を併発したATTRアミロイドーシスと診断した.またTyr114Hisの遺伝子変異を検出し,遺伝性ATTR心アミロイドーシスで再度循環器内科を受診した.両下肢優位の末梢神経障害と手根管症候群を認め,99mTcピロリン酸シンチグラフィではGrade2の集積を認め,ともに心アミロイドーシスに矛盾しない所見であった.遺伝性ATTR心アミロイドーシスに対してタファミジスと心臓リハビリテーションを導入し,30カ月以上心不全および末梢神経障害の増悪なく経過している.ATTRの遠隔期にALを発症した報告例もあり,今後も他科連携のもと注意深いフォローが必要である.
経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)は高齢・開胸手術高リスクの重症大動脈弁狭窄症(AS)に対する低侵襲治療として有効であり,経大腿動脈アプローチ(TF)が最も多く施行されているが,血管狭窄や大動脈瘤がある場合にはアクセス困難となる.症例は91歳女性.5年前から心不全入院を反復し3年前からASを指摘された.本入院1カ月前から心不全入院したが薬物療法に抵抗性であり,心臓超音波検査では重症ASの所見で,手術適応であった.高齢のため開胸手術リスクが高くTAVIの方針とした.CTにて58 mmの囊状下行大動脈瘤を認め代替アプローチも検討したが解剖学的に不適であり,TFアプローチでTEVARとTAVIを同時に施行する方針とした.腹腔動脈直上からZenith® TX2®を先行留置後,EvolutTM Pro+ 29 mmを留置した.合併症なく術後7日目に転院した.胸部大動脈瘤を合併するTFアプローチ困難な重症AS症例に対しTEVAR施行後一期的にTF-TAVIを完遂することができた.
症例は67歳女性.数カ月前から労作時に息切れを自覚していた.心雑音を指摘され,経胸壁心エコー図検査を行ったところ,左室流出路狭窄,大動脈弁狭窄症,大動脈四尖弁疑いを指摘され,当院を紹介された.心エコー図検査では大動脈弁は石灰化を伴い,弁口面積はトレース法で0.86 cm2,平均圧較差56 mmHg,最高通過血流速は5.1 m/sと高度大動脈弁狭窄症を認めた.また,大動脈弁下部に膜様構造物を認め,同部で血流は加速し,65 mmHgの圧較差を認めた.大動脈弁,大動脈弁下狭窄,両方への介入が必要と考えたが,大動脈弁の弁輪短径は約17 mmと小さく,体表面積からは19 mm生体弁では人工弁患者不適合のリスクが高いと考えた.本人が機械弁を希望したため,機械弁による人工弁置換術に加えて流出路狭窄解除目的で弁輪拡大術も考慮した.しかし術中の所見では流出路の膜様構造ははっきりしなかったため,弁輪拡大は行わず人工弁患者不適合の懸念がない16 mmの機械弁を用いての大動脈弁置換術のみにとどめた.術後50日目に退院し,外来通院を継続している.術後4カ月後に施行した経胸壁心エコー図検査では人工弁機能不全や左室流出路狭窄の所見を認めなかった.本症例は先天的な大動脈弁下狭窄に,経年的な大動脈弁狭窄が合併したと考えられた.高齢期に指摘される大動脈弁下狭窄の症例は稀であり,報告する.