背景:乳がん治療のがん薬物療法による副作用の1つに心機能障害が挙げられるが,効果的な看護支援を検討するうえで,心機能障害を発症した乳がん患者の現状と課題を明らかにすることが求められる.
目的:乳がん患者のがん薬物療法に伴う心機能障害発症の実態やリスク因子,心機能評価の現状,患者の支援に関する現状と課題を明らかにする.
方法:医学中央雑誌Web,MEDLINE,CINAHL,Embase,PsycInfoの文献データベースを用いて該当文献を抽出し,スコーピングレビューを実施した.
結果:抽出された7867本のうち,分析対象論文は36本であった.がん薬物療法の副作用による心不全はトラスツズマブ単剤でも発症し,多剤併用によって発症率はより高かった.がん薬物療法前の左室駆出率測定はガイドラインに基づく実施がされておらず,心不全発症には併存疾患も関連していた.がん薬物療法を中断・中止した患者は5年全生存期間が短く,がん特異的死亡率は高かった.がん治療関連心機能障害を発症した患者は,死や予後への恐怖や医療者のがん治療関連心機能障害の知識と認識の欠如を感じており,がん治療とがん治療関連心機能障害に対する腫瘍科と循環器科の協働によるケアを求めていた.
結論:がん薬物療法における心機能評価の実施体制の構築や,がん治療関連心機能障害でがん薬物療法が中断した際の腫瘍科,循環器科の協働が求められる.また,心機能障害発症後の乳がん患者への看護支援の検討が課題である.
背景・目的:特発性心筋症は多くの症例で遺伝子変異が関与することが明らかとなり,診療ガイドラインにおいて遺伝子診断や遺伝カウンセリングが重要視されるようになってきている.遺伝情報の利活用の必要性が進む中,本邦における医師の認識や利用体制の実態は不明であるため,全国アンケート調査を実施した.
方法:日本循環器学会医師会員25,258人を対象に,2024年1月10日~2月28日に電子メールで全国アンケート調査を実施.研究目的や概要を提示し同意後に回答を収集し,質問項目を回答者特性から検討した.
結果:調査に回答した1,103人のうち,何らかの遺伝学的検査を実施した経験は48%であり,肥大型心筋症の保険適用の認知率は42%であった.難病指定医のほうが非難病指定医よりも認知率は高く(47% vs. 39%,p=0.008),経験年数で差はなかったが(p=0.233),施設種別と病床数では差を認めた(p<0.001).肥大型心筋症の診断において患者への遺伝学的検査の説明は約73%が稀または行わず,一方で家族への検査の勧奨は76%が実施していると回答した.遺伝学的検査は他施設への検査依頼が最多で,自施設で対応可能な医師は13%と少数であった.診療課題として「ゲノム診断のコンサルトが困難」が半数以上から挙げられた.
結論:循環器医の特発性心筋症での遺伝子診断の認識や各施設の現況が明らかとなった.
背景:右室流出路再建術を施行された成人先天性心疾患患者の肺動脈弁閉鎖不全症に対して,2023年3月より本邦でもHarmonyTM TPVを使用した経カテーテル的肺動脈弁留置術(TPVI)が施行可能となったが,その治療成績に関して報告はまだ少ない.
目的:当院におけるTPVIの初期成績を検討する.
方法:2023年3月から2024年3月までに当院にてTPVIを施行した5症例の初期成績を検討した.
結果:平均年齢は57.4歳で,最高齢は80歳であった.原疾患としてはファロー四徴症術後が3例で,肺動脈狭窄症術後が2例であった.5症例全例において目的とする位置へデバイスの留置に成功し,体外へ取り出した症例はなかった.外科手術へ移行となった症例も認めず,アクセスサイトの合併症も認めなかった.HarmonyTM TPV留置後の弁周囲逆流は全例において制御できており,造影上の弁周囲逆流は認めなかった.6カ月後のフォロー検査が施行できている3例においては術後の右室容積の縮小と右室収縮能の改善を認めており,左室においても左室容積縮小と左室収縮能改善を認めた.この3例では術後6カ月時点で臨床的イベントは認めず,死亡例や感染性心内膜炎を発症した症例は認められなかった.
結語:HarmonyTM TPV導入から1年が経過したが,当院における初期5症例を安全に施行することができており,TPVI後の経過も良好である.
症例は69歳男性.食道胃接合部癌に対して化学療法予定であった.1カ月前から労作時呼吸困難があり,定期外来受診時に酸素飽和度の低下を認めた.経胸壁心臓超音波検査で肺高血圧症が疑われ,精査加療目的に緊急入院した.造影CT検査で肺動脈血栓はみられず,肺血流シンチグラフィでは両肺野末梢に散在する淡い欠損像がみられた.右心カテーテル検査では平均肺動脈圧が48 mmHg,肺血管抵抗が10.3 WUであり,肺動脈から吸引した血液の細胞診で腺癌が認められたため,肺動脈腫瘍塞栓微小血管症(PTTM)による肺高血圧症であることが確定診断された.ドブタミンの経静脈投与とマシテンタンの内服投与を開始した.経過中に肺炎を併発し,全身状態が不良になったため,化学療法は開始できなかった.呼吸状態は徐々に悪化し,第11病日に死亡した.PTTMは,呼吸困難が出現してからの生存期間は4-12週と,きわめて進行が早く,生前の診断が困難とされる.今回,吸引肺動脈血の細胞診によりPTTMと確定診断した症例を経験したので報告する.
適正用量の抗凝固療法中に4年間で5度脳梗塞を発症した永続性非弁膜症性心房細動の72歳男性.適正用量の抗凝固薬内服下に心原性脳塞栓を繰り返しており外科的左心耳閉鎖術も検討されたが,過去に大出血の既往はなく,抗凝固療法に対する忍容性があると考えられたために,経皮的左心耳閉鎖術後に抗凝固薬を継続する方針とした.左心耳内には高度モヤモヤエコーが認められたが,経皮的左心耳閉鎖術により有効な左心耳閉鎖が得られ,抗凝固薬継続下に9カ月間血栓塞栓症の再発なく経過している.
抗凝固療法中に心原性塞栓症を発症した例は,血栓塞栓症の再発リスクが非常に高いことが報告されている.経皮的左心耳閉鎖術は,非弁膜症性心房細動の症例において血栓が生じやすい左心耳を閉鎖する新たな抗血栓療法であり,有効な左心耳閉鎖が得られた後に抗凝固療法を中止することにより,出血イベントが減少することが示されている.しかしながら,抗凝固薬内服下に心原性脳塞栓を発症した症例においては,抗凝固薬中止後に左心耳閉鎖デバイス上に血栓が生じる可能性が高いと報告されており,従来の術後抗血栓プロトコールを用いた場合の経皮的左心耳閉鎖術の有用性は確立されていない.抗凝固薬内服下に心原性脳塞栓を発症した症例において,抗凝固療法に忍容性があると判断できる場合には,経皮的左心耳閉鎖術後に抗凝固薬を継続する方法は,治療選択肢の1つと考えられた.
症例は80歳代,女性.主訴は呼吸困難感と両上肢痛.既往歴にはうつ病があり,これまで心疾患の既往はなかった.X年Y月下旬に両下肢の浮腫および疼痛のため近医にて利尿薬および芍薬甘草湯の内服が開始された.しかし,その後も症状改善せずY+1月下旬には両上肢痛も出現し体動困難となり,当院に救急搬送となった.来院時血圧171/99 mmHgと高値であり,体重は1カ月で7 kg増加していた.診察では頸静脈怒張および著明な四肢浮腫がみられた.胸部X線写真では心陰影拡大と左胸水を認め,心電図ではT波の平低化とU波を認めた.血液検査ではK1.6 mEq/Lと低カリウム血症を認め,BNP 254 pg/dLと高値であった.血液ガス分析では代謝性アルカローシスを呈していた.入院後,低カリウム血症の原因と考えられた内服薬の中止を行い,カリウム補正と心不全治療を開始した.併せて低カリウム血症の原因精査を行ったところ尿中カリウム排泄量の増加と血漿レニン活性低下,血漿アルドステロン低値を認め,内服内容と併せて偽性アルドステロン症と診断した.入院後,カリウム値は正常範囲内まで改善し浮腫も改善,入院17日目独歩退院となった.通常,偽性アルドステロン症による体液過剰では,Na利尿ペプチドの増加や腎でのNa再吸収抑制といったエスケープ現象による代償機転が働くため著明な浮腫や心不全をきたさないとされる.本症例では,うつ病の既往があり,長期間食事摂取不良であったため,低栄養状態となっていた.体液貯留傾向が強く,十分な代償機転が働かず,体液過剰となり肺うっ血をきたしたと考えられる.偽性アルドステロン症でも体液過剰となる基礎疾患を持つ症例では,肺うっ血にも十分な注意が必要である.