僧帽弁狭窄症(MS)の直視不交連切開(OMC)術後急性期における左室機能を血漿増量剤急速注入容量負荷時の左房平均圧(LAMP),左室仕事量(LVSWI)などの血行動態推移から左室機能曲線を描き,Rosssらに従い3群に分類し検討した.正群(5例)の平均年齢は3群中最も低く35.23.9歳で,術前の肺動脈(PA)収縮期圧46.4±11.8mmHg.LAMP21.8±2.4mmHgで低値であった.II群(12例),III群(8例)では平均年齢も高くなり,PA収縮期圧,LAMPも1群に比し高値をとった.容量負荷前のLAMPはI群6.8±1.5,II群10.8±0.9,III群14.5±0.8mmHgで対応するLVSWIはそれぞれ42.2±4.1,35.6±2.8,25.4±2.2gm.m/beat/M
2であり,III群が最も低値であった.500ml負荷後のLAMPはI群9.5±1.9,II群18.0±1.0,III群230±1.4mmHgで,LVSWIはそれぞれ59.9±4.6,44.5±2.3,28.7±1.8gm.m/beat/M
2であり,I群のΔLAMPは少く,ΔLVSWIは最高値をしめし,左室機能曲線の勾配は急峻であった.術前のPA収縮期圧>70mmHgの症例では容量負荷後のΔLVSWIは少なく2.8±28gm.m/beat/M
2であったが,70mmHg>PA収縮期圧>50mmHg,50mmHg>PA収縮期圧>35mmHg,35mmHg>PA収縮期圧の各群では,ΔLVSWIはそれぞれ8.2±1.9,9.9±2.7,10.3±4.6gm.m/beat/M
2であり,肺高血圧症例ほどOMC後の左室機能は低下していた.また,高齢者>50歳ではΔLVSWIが少く,2.5±3.0gm.m/beat/M
2であったが,40歳台,30歳台,20歳台では8.9±2,8,11.9±2.3,9.3±2.0gm.m/beat/M
2であり,高齢者ほど左室機能低下の傾向がみられた.高齢者で肺高血圧症を伴うMSでは,OMCによって充分な弁口が得られても左室機能低下の状態にあることがしめされた.
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