本研究では, 太陽光利用型植物工場で長期多段栽培されているトマト群落内の光合成機能の空間分布を詳細に解析した. その結果, 通路側の下層および個体群内側の中・下層の葉群の光合成能力が低い (通路側の上・中層および個体群内側の上層の最大光合成速度の1/2程度) ことがわかった. さらに, これらの葉群のChl
a/
b比が低いことから, この光合成能力の低下の主な原因が弱光順化であると考えられた. 特に, 葉齢が同じである中層の通路側と個体群内側とで光合成能力とChl
a/
b比に大きな違いが認められたことから, 両者の光合成能力の違いが老化によって生じたものではなく, 弱光順化が主たる原因となっていることが強く示唆された. また, 光合成能力の低い葉群 (通路側の下層および個体群内側の中・下層) においても, Chl含量や光合成電子伝達効率 (F
v/F
m) は, 光合成能力の高い葉群 (通路側の上・中層および個体群内側の上層) と同程度であることから, 前者の葉群が高い光合成能力を発揮するための潜在能力を有しており, 光環境を改善することによって, これらの葉群の光合成能力を向上させられる可能性がある. 具体的な光環境改善策としては, 作業通路での栽培管理作業が行われていない間は, 通常0.6 mの誘引用ワイヤー (Hanging wire in Fig. 1) 間の距離を広げて栽培するなどの方法が考えられる.
本研究は, わが国の商業的大規模太陽光利用型植物工場で栽培されているトマト群落内の光合成能力の空間分布を詳細に解析した初めての例であり, 前報
7)では触れられていなかった個体群内側の中層の光合成能力の著しい低下を明らかにした. 本研究で得られた知見は, トマト群落における効果的な光環境制御を考えるうえで有用であるとともに, 群落光合成量をシミュレーションによって求める際に有効な情報を提供する.
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