植物環境工学
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24 巻, 4 号
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総説
  • 中野 明正, 東出 忠桐, 安場 健一郎, 大森 弘美, 金子 壮, 鈴木 克己
    2012 年 24 巻 4 号 p. 219-223
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/01
    ジャーナル フリー
    農研機構植物工場つくば実証拠点の技術開発の特徴は3つの主要ターゲットにある.(1)養液栽培に適した品種の評価:トマト,キュウリ,パプリカの養液栽培における多収性の検証,(2)低炭素型の高度環境制御システムの開発:次世代型のユビキタス環境制御システム(UECS)を全面的に導入し統合環境制御の効果を実証,(3)作業環境の快適・自動化と高度情報利用:作業者の快適性の確保や自動搬送システム等による作業の合理化を追求し,作物情報,作業者情報の利用技術を開発.
    これらを開発ターゲットとして,具体的には4つのコンソーシアムが運営されている.養液栽培適応品種によるトマト中長期栽培(コンソーシアム1)および,極早生品種を利用したトマト低段密植周年多回転栽培(コンソーシアム2)は,タキイ種苗(株)をリーダー機関として運営されている.パプリカの多収・減農薬生産(コンソーシアム3),キュウリ多回転栽培における環境に優しい低コスト多収生産(コンソーシアム4)は,カネコ種苗(株)をリーダー機関として運営されている.これらのターゲットと実施体制により,植物工場を含めた日本のグリンハウスイノベーションに取り組んでいる.
  • 高山 真策, 米良 信昭, 秋田 求
    2012 年 24 巻 4 号 p. 224-232
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/01
    ジャーナル フリー
    本論文では,工業生産のための植物バイオテクノロジーを課題として,マイクロプロパゲーションによるクローン植物の苗生産,二次代謝産物および異種タンパク質の生産への応用について述べた.クローン植物の生産のための生産システムは,組織培養施設を含む工業的規模の生産施設であり,最近ではバイオリアクターを使用する効率の高い生産施設へのスケールアップの実用化も始まっている.二次代謝産物や異種タンパク質の生産への植物バイオテクノロジーの応用は,様々な発現制御の手段を駆使して生産条件の最適化が検討されており,すでに,大規模なバイオリアクターによる二次代謝産物の生産が実用化されている.さらに,真核生物を起源とする様々な異種タンパク質を植物で発現できるようになり,商業的にも興味深い代謝物質の生産研究が進展している.
論文
  • 伊藤 博通, 友田 小百合, 八田 朋子, 白石 斉聖, 宇野 雄一
    2012 年 24 巻 4 号 p. 233-243
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/01
    ジャーナル フリー
    継代してから2週間から3週間培養したカルスを培地から取り出し,スペクトルの取得前に黒色ろ紙の上に置いた状態で5秒間の吸引ろ過,10秒間の吸引ろ過をしながらの洗浄処理,最後に20秒間の吸引ろ過を施すことで,培地の硝酸イオン濃度に依存せず,カルス本来の硝酸イオン濃度に近い値を測定できた.洗浄および吸引ろ過の処理を施した後のサンプルをハイパースペクトルカメラで撮影し,撮影後に硝酸イオン濃度実測値を測定した.得られた吸光スペクトルと硝酸イオン濃度から硝酸イオン濃度推定の検量線を作成した.検量線作成に用いたサンプルの硝酸イオン濃度範囲は126.0 mg L-1から2697 mg L-1であった.ビニング処理を施して取得された,526 nmから877 nmの波長の吸光スペクトルに対し,前処理としてMSCを適用し,PLS回帰分析を行って導出された検量線の硝酸イオン濃度推定精度は評価用データ相関係数が0.7363となった.
    検量線作成において問題となった点は,カルスの撮影期日が同じサンプルで作成した検量線の精度は非常に高いが,異なる撮影期日のサンプルを混合すると推定精度が低下することであった.撮影期日が異なるとカルス培養の継代期日も異なるが,異なる継代期日のカルスで同様な濃度のサンプルスペクトル間に明らかなオフセットが生じていることがわかり,この現象が推定精度の低下を招いていると考えられた.そこでMSC法をスペクトルの前処理法に選択したが,推定精度の大きな向上は見られなかった.この結果から継代期日の異なるカルスは異なる性質を持った物質であると考えられた.全く同じ遺伝子を持ったカルスサンプルであるが,培養環境や撮影環境の微少な変化により細胞の状態が大きく異なっていると予想された.カルスは未分化の細胞であるため環境の変化に非常に敏感であり,温度や湿度,継代日からの経過日数,培地の状態など様々な要因の微妙な変化の影響を少しずつ受け,最終的にはカルス毎に性質が異なるサンプルとなってしまったと考えられる.
    以上の考察から本研究で開発したハイパースペクトルイメージングシステムを適用する場合はカルスの培養環境や撮影環境を厳密に定め,一定に保つ必要があると考えられる.
    本研究で使用したカルスは野生株であるが,組換えカルスにも本研究の成果を適用できると考える.導入予定の遺伝子はNR遺伝子のみである.薬剤耐性マーカー遺伝子などは使用しない.このため野生株の形質にNRの生産性が向上する形質が加わるだけである.従って生産量が増えるタンパク質はNRのみである.NR生産量の増減は培地の硝酸濃度や光強度などの外的環境によっても起こりえることである.NR遺伝子導入が今回作成の検量線の推定精度に影響するとは考えにくい.
  • 石倉 聡, 後藤 丹十郎, 平間 淳司, 山下 真一, 野村 昌史, 尹 丁梵
    2012 年 24 巻 4 号 p. 244-251
    発行日: 2012/12/01
    公開日: 2012/12/01
    ジャーナル フリー
    黄色LEDパルス光を用いたキクの害虫防除光源装置を開発するために,実際栽培において適用可能な放射照度の範囲を求めた.明期20 ms/暗期80 msの時間構造を有する黄色パルス光をオオタバコガとハスモンヨトウの複眼に照射し,放射照度1~1000 mW m-2の範囲においてERG信号波形を解析した.その結果,少なくとも1~100 mW m-2であれば,両種ともに点滅光として常時安定的,かつ持続的に視認していることが明らかとなった.続いて,黄色パルス光の放射照度(0,20,35,50 mW m-2)が秋ギク‘神馬’の開花および切り花形質に及ぼす影響を調査した.35 mW m-2までの放射照度は,発蕾までの日数,開花までの日数および切り花形質に有意な影響を及ぼさなかった.しかし,50 mW m-2の放射照度で育てたキクは,他の処理区と比較して,開花までの日数が3日間増加し,切り花長が9 cm大きくなった.以上の結果から,適用できる放射照度の上限値は,放射照度が35~50 mW m-2の範囲に存在し,少なくとも35 mW m-2であれば,開花遅延させることなく適用可能であることが明らかとなった
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