日本小腸学会学術集会プログラム・抄録集
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Print ISSN : 2434-2912
第56回日本小腸学会学術集会
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シンポジウム1 治療法未確立の難治性小腸疾患に対する挑戦
  • 細江 直樹, 木村 佳代子, 高林 馨, 長沼 誠, 關 里和, 久松 理一, 緒方 晴彦, 金井 隆典
    セッションID: S1-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    chronic enteropathy associated with SLCO2A1(CEAS)の臨床兆候は、本邦から報告されており(J Gastroenterol. 2018 Aug;53(8):907-915)、我々もその疫学研究に参加した。本疾患が広く認知されるにつれて、当院でCEASと診断される症例も増加しつつあり、今回当院でCEASと診断された症例の検査所見、臨床兆候をまとめ本疾患の特徴を明らかとする。

    【方法】

    当院で2018年7月までにCEASと診断された6例の臨床兆候(性別、発症年齢、罹患期間、家族歴の有無、肥厚性皮膚骨膜症の有無)、小腸生検検体を用いた抗SLCO2A1抗体による蛋白発現検査、小腸病変の部位、内視鏡所見の特徴を収集する。

    【結果】

    6例は、男女比 4:2、平均発症年齢14.3歳、平均罹患期間29.7年であった。4例で小腸潰瘍症の家族歴を有した。男性1例で肥厚性皮膚骨膜症を認めた。5例で抗SLCO2A1抗体による蛋白発現検査を行ったが、全例で蛋白発現を認めなかった。十二指腸病変を5例、空腸病変を1例、回腸病変を6例全例で認めた。内視鏡で観察された小腸潰瘍所見は、多発(6例)、斜走(6例)、輪状、テープ状(5例)、地図状(4例)、狭窄(6例)であった。

    【結論】

    我々の症例は、既報とほぼ同様の臨床兆候であった。抗SLCO2A1抗体による蛋白発現検査がCEAS患者選別検査になりうる可能性が示唆された。

  • 梁井 俊一, 中村 昌太郎, 川崎 啓祐, 永塚 真, 上杉 憲幸, 梅野 淳嗣, 菅井 有, 松本 主之
    セッションID: S1-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    2015年に非特異性多発性小腸潰瘍症(chronic enteropathy associated with SLCO2A1 gene;以下CEAS)がSLCO2A1遺伝子のホモ・接合ヘテロ変異による遺伝性疾患であり、臨床的にCrohn病(以下CD)と診断された症例にCEASが含まれることが示された.そこで、CEASとCDの上部消化管生検組織におけるSLCO2A1蛋白発現を比較し、鑑別法としての意義を検討した.

    【方法】

    2016年6月までに上部消化管内視鏡検査を施行したCEAS4例、CD29例を対象とした.胃・十二指腸の生検組織を用い、抗CD31抗体と抗SLCO2A1ポリクローナル抗体を用いた免疫染色を行い、血管内皮におけるSLCO2A1蛋白発現の有無を検討した.CEAS例では蛋白発現と遺伝子型の関係を対比した.

    【結果】

    SLCO2A1蛋白発現率はCEASで25%、CDで100%であった.SLCO2A1蛋白発現陰性のCEAS3例の遺伝子変異は、c.1461+1G>C(exon 7)ホモ変異(1例)とc.940+1G>A(exon 10)ホモ変異(2例)であった.発現陽性例の変異はc.664G>A(Exon 5)とc.1807C>T(Exon 13)の接合ヘテロ変異であった.

    【結論】

    CEASとCDとの鑑別には、上部消化管生検組織のSLCO2A1蛋白の免疫染色が一助となる.

  • 關 里和, 林田 真理, 箕輪 慎太郎, 池崎 修, 三井 達也, 三浦 みき, 齋藤 大祐, 田中 弦, 櫻庭 彰人, 木村 徹, 櫻井 ...
    セッションID: S1-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景と目的】

    SLCO2A1関連腸症(CEAS)は難治性多発小腸潰瘍を呈する疾患であり、プロスタグランジン輸送体をコードするSLCO2A1遺伝子の変異により発生する遺伝病と考えられる。しかし、SLCO2A1蛋白の機能を含めて詳細な病態は解明されていない。我々は報告されている変異SLCO2A1遺伝子のうち11変異におけるプロスタグランジンE2(PGE2)の輸送機能を解析した。

    【方法】

    正常SLCO2A1遺伝子及び11変異(940+1GA、664GA、1807CT、421GT、1372GT、547GA、1647GT、97GC、770GA、830dupT、830delT)の蛋白を強制発現させたアフリカツメガエルの卵母細胞を用い、PGE2の取り込み実験を行った。

    1) 単一濃度での取り込み量の検討

    トリチウムラベルしたPGE2(3H-PGE2)2nM含有ND96内で卵母細胞を30分間静置した後、細胞内の3H-PGE2量を測定した。

    2)Km値・Vmax値の算出

    PGE2含有ND96(PGE2:10、30、100、300、1000nM) に卵母細胞を30分間静置した後、細胞内のPGE2の量を測定しKm値・Vmax値を算出した。

    【結果】

    1) 単一濃度での取り込み量の検討

    正常SLCO2A1蛋白では23.0 ± 6.2fmol/oocyteの取り込みが見られた。940+1GAでは0.31 ± 0.032 fmol/oocyteと取り込み能がほぼ消失していた。664GA、1807CT、547GA、421GT、770GAの5変異も同様であった。1372GTは8.2 ± 2.8fmol/oocyte、1647GTは13.8 ± 6.1fmol/oocyteと取り込みはあるが有意に低下していた。

    2)Km値・Vmax値の算出正常

    SLCO2A1蛋白はKm612.3 ± 172.2nM、Vmax4.7 ± 2.0pmol/oocyteであった。変異については1372GTではKm値1100nMと上昇しVmax値4.1pmol/oocyteと低下が見られ親和性の低下が見られた。1647GTではVmax値0.2pmol/oocyteと非常に低くKm値も81.8nMも低値であった。

    【考察】

    CEAS患者に認められたSLCO2A1遺伝子変異は蛋白レベルでのPGE2取り込み能の低下あるいは消失を認めた。今後、各々の変異の輸送能の検討を続け臨床症状との比較を行い、臨床症状や重症度との相関を行っていく。

  • 城代 康貴, 尾崎 隼人, 山田 日向, 前田 晃平, 大森 崇史, 生野 浩和, 小村 成臣, 鎌野 俊彰, 長坂 光夫, 中川 義仁, ...
    セッションID: S1-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    Clostridioides difficile感染症(CDI) でその有用性が証明されたFMTは近年では炎症性腸疾患をはじめ様々な疾患で臨床応用がなされている. 今回当院におけるFMTのクローン病に対する有効性について報告する.

    【方法】

    対象は既存治療にて寛解に至らない, または寛解維持が困難な症例とした. 2016年1月から8月にFMTを行ったクローン病4例に対してFMT前と8週後にCDAI, 内視鏡所見, 腸内細菌叢の偏移を解析し, 前向きに検討した.FMT施行後に継続してFMTを希望された場合は, 初回投与後8週目以降に複数回のFMTを施行した.

    【結果】

    FMT投与後8週において75%の症例でCDAI改善を認め,1例は臨床的寛解を達成した.CDAI改善を認めなかった1例もFMT後8週にHb値の上昇を認めた.CDAIの改善を認めた3例は最大3回のFMTを施行しており,2回目以降のFMTでは初回FMTで低下したCDAI値を維持した. 内視鏡所見において, 1例は術後吻合部および骨盤内回腸に認めた潰瘍の縮小, 治癒傾向を示した. 腸内細菌叢の解析は4例行っており, いずれの症例もFMT前は多様性の低下がみられていたが,FMT後では多様性が回復し, ドナーに近似したことが示された. 腸内細菌叢の門レベルの解析では, 有意差は認めなかったが,Actinobacteriaの増加傾向を示し (p=0.08) ,属レベルの解析ではBifidobactgeriumの増加傾向を認めた (p=0.16).

    【結語】

    FMTはクローン病に対して臨床所見,腸内細菌叢の変化においてともに高い有用性を示した.

  • 岸 昌廣, 高津 典孝, 武田 輝之, 平井 郁仁, 八尾 建史, 植木 敏晴, 別府 剛志
    セッションID: S1-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【Background and Aims】

    これまでに腸管Behcet病(BD)および単純性潰瘍(SU)に対する生物学的製剤の有用性が報告されているが、多数例での生物学的製剤の短期および長期治療成績についての報告は少ないのが現状である。当院におけるBDおよびSUに対する生物学的製剤の短期および長期治療成績を明らかにすることを目的に単施設、後ろ向き研究を行なった。

    【Methods】

    当院にて加療を行ったBDおよびSU32例のうち、生物学製剤を投与した13例(男性13例, 女性1例, 腸病変の診断時平均年齢36.2歳, 導入時平均年齢44.2歳, 病型BD5例, Suspected BD7例, SU1例, 手術歴あり5例, 生物学的製剤の種類(IFX9例, ADA4例) を対象に、1. 短期治療成績として生物学的製剤投与後2~3か月後に臨床項目(症状、CRP)を評価し、有効、無効に分類し、臨床的有効率を求めた。臨床的背景(性別、腸病変の診断時年齢、生物学的製剤導入時年齢、病型、手術歴、HLA-B51、生物学製剤の種類、併用薬剤、CRP)と形態学的所見(潰瘍の数、部位、形態)を検討項目とし、有効群と無効群で比較検討した。2. 長期治療成績として生物学的製剤投与後12か月とその後追跡調査可能な範囲(平均観察期間:20ヶ月)での、維持効果を評価し、背景因子で検討した。

    【Results】

    1. 短期治療成績は、有効例10例(76.9%), 無効例3例(23.1%)であった。有効群は無効群と比較し、統計学的有意差をもってCRPが低かった。

    2. 長期治療成績:12か月後の維持効果は100%(7/7例)、その後の追跡調査では、5例(71.4%)が維持投与可能であった。維持可能症例は、手術歴がない症例が多かった(75%)。

    【Conclusions】

    BDおよびSUにおける生物学的製剤は有用であり、特にCRPが低いものに有用であった。また、長期的にも生物学的製剤の有用性が示され、特に手術歴のない症例で有用であった。

  • 京戸 玲子, 清水 泰岳, 竹内 一朗, 新井 勝大
    セッションID: S1-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【はじめに】

    原発性腸リンパ管拡張症は先天的なリンパ管系の形成不全によりリンパ管が鬱滞し二次的に蛋白漏出性胃腸症(PLE) を引き起こす比較的稀な疾患で、長期にわたり治療を要する難治例が多い。

    【症例】

    現在10歳の女児。生後5か月から下痢が持続し、6か月時に無熱性痙攣を発症した際、低Alb血症、低Ca血症を認め、精査目的に当院へ紹介となった。便中α1-AT濃度の上昇、99mTc-HSAで核種の小腸への排泄を認め、また内視鏡検査で十二指腸に多数の白斑、組織学的に拡張したリンパ管構造を多数認め、PLEを合併した原発性腸リンパ管拡張症と診断した。治療として高蛋白低脂肪食、中鎖脂肪酸の投与、クロモグリク酸ナトリウムの内服、定期的な脂肪製剤やAlb製剤の静注を開始した。根治治療はなく10歳となった現在も同治療を継続しており、成長発達は正常だが1日に数回の下痢や全身性の浮腫は持続している。再評価のため施行した小腸カプセル内視鏡検査でも小腸全域に著明な白色絨毛を認め、病勢は持続していると考えられた。

    【結語】

    近年の遺伝子解析技術の進歩に伴い網羅的な遺伝子の解析が可能となり、遺伝子疾患の診断に役立てられている。リンパ管系の異常を来す疾患やPLEにおいても単一遺伝子疾患の報告があり、本症例においても病態の解明や新規治療の検討につながる可能性があり、今後遺伝子検査を行う意義があると考える。

  • 所 晋之助, 矢野 智則, 相良 裕一, 宮原 晶子, 平岡 友二, 小林 泰俊, 坂本 博次, 砂田 圭二郎, 山本 博徳
    セッションID: S1-7
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    小腸リンパ管拡張症に対してはステロイドの全身投与を行うことがあるが, 漸減・中止により再燃し長期投与が必要になる症例も少なくない. ブデソニド(以下BUD)は初回通過効果で多くが代謝されるため, 副作用も含めて全身作用は少ないとされている. 今回BUD腸溶性顆粒充?カプセルであるゼンタコート(ゼリア新薬工業)内服が有用であった小腸リンパ管拡張症の3例を経験したので報告する.

    【症例】

    症例1. 18歳男性で下腿浮腫と低アルブミン血症(1.1g/dl) があり, プレドニゾロン(以下PSL)内服で治療開始し改善を認めた. その後PSLを漸減し中止するも再燃したため,BUD 9mg内服を開始した. 症状は改善し, 現在3mgまで減量している.

    症例2. 21歳男性で水様便と低アルブミン血症(1.6g/dl) が増悪したため,PSL内服を開始した. その後漸減すると再燃したため,PSL 5mg内服を継続していた.PSL内服からBUD 3mg内服に変更したところ再燃はみられず, 現在3mg隔日投与まで減量している. 症例3. 38歳女性で下腿浮腫と下痢と低アルブミン血症(1.1g/dl) があり,PSL内服を開始した. 自己免疫性溶血性貧血もあるため慎重にPSLを減量したが,PSL10mgの継続内服が必要であった.BUD 3mg内服の併用を開始したところPSL減量が可能となり, 現在PSL4mgまで減量しているが症状の再燃は認めていない.

    【結論】

    ゼンタコートは下部回腸から右側大腸にかけてのクローン病に有効とされているが、空腸病変を主とする小腸リンパ管拡張症においても有用である可能性がある.

シンポジウム2 小腸に対する基礎研究からのアプローチ
  • 朝倉 謙輔, 真柳 平, 木村 慎吾, 菅井 有, 祖父江 憲治, 松本 主之
    セッションID: S2-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    蠕動運動による内容物の指向性移動や逆流防止など正常な消化管機能には, 平滑筋の収縮制御が不可欠である. 平滑筋ではCaldesmon(CaD) 蛋白質が収縮制御の中心的役割を担っている. CaDには広汎な組織に発現する低分子型(l-CaD)および分化した平滑筋特異的に発現する高分子型(h-CaD)の二つのアイソフォームが存在する. h-CaDおよびl-CaDの生化学的特性はほぼ同一であることから, 分化型平滑筋で特異的にh-CaDが高発現する生理的意義は長きにわたって未解明であった. そこで我々は平滑筋で発現するh-CaDを欠失させ, 全身性にl-CaDのみを発現するh-CaD特異的ノックアウト(h-CaD-KO) マウスを作成し, 個体レベルでの解析を可能にした. h-CaD-KOマウスでは野生型と比較して食物の消化管通過時間の有意な延長を認めた. 消化管の組織学的所見および主要な平滑筋収縮関連蛋白質の発現量に変化は認められなかったが, 大腸組織を用いた筋収縮アッセイにおいてh-CaD欠失により有意な収縮力の減弱が認められた. これらの結果から, h-CaD欠失はl-CaDによる置換では補償されず, 消化管平滑筋の収縮制御においてh-CaDは独自かつ不可欠の機能を持つことが示唆された. 今後, 機能性消化管疾患, 偽性腸閉塞など平滑筋機能の変化が関わる消化管疾患における病態との関連を見据えた研究を展開したいと考える.

  • 山野 智基, 宋 智亨, 木村 慶, 馬場谷 彰仁, 浜中 美千子, 片岡 幸三, 別府 直仁, 野田 雅史, 池田 正孝, 冨田 尚裕
    セッションID: S2-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景】

    PDX(Patient derived xenograft) は細胞株よりも、より臨床に近い状態で薬剤感受性を調べられる方法として開発された。

    【目的】

    小腸腫瘍の基礎研究・前臨床試験モデルとしてPDXが適しているかを検討する。PDX症例を集積することで「希少性」を克服出来る可能性がある。

    【方法】

    兵庫医科大学倫理審査委員会より「希少がんと難治性大腸がんの病態解明と新規治療法の開発」として審査・承認を受け、文書による承諾を得た小腸腺癌1例、小腸GIST3例の患者腫瘍の一部をヌードマウス皮下に移植した。継代可能で、腫瘍径が10㎜を超えた場合にPDXを作成出来たとした。薬剤感受性(PDXでは腫瘍増殖抑制率=1-(薬剤投与群での腫瘍増殖)/(コントロール群での腫瘍増殖で評価)で評価)、病理所見、遺伝子変異を臨床腫瘍とPDX腫瘍で比較し、前臨床試験モデルとしての妥当性を検討した。

    【結果】

    小腸腺癌は原発巣及び腹膜播種よりPDXを作成出来たが、GIST症例は2例が生着せず、1例は腫瘍が数ミリのまま大きくならなかった。小腸腺癌原発腫瘍由来PDXに対するオキサリプラチン(OHP)、5-FU、イリノテカン(CPT-11) のそれぞれ単剤での腫瘍増殖抑制率は、それぞれ0.23、0.52、0.31であり単剤では5-FUが最も有効であった。2剤併用ではOHP+5-FUで0.84、CPT+5-FUで0.46であり、OHP+5-FUが最も効果が見られた。臨床経過ではFOLFOX開始後4か月間は腫瘍マーカーの減少が見られたものの、CTで新規病変出現が見られたためPDと診断し、FOLFIRIに変更したが腫瘍マーカーは上昇し、画像上もPDが継続した。病理検査、遺伝子検査(MSI、K-RAS遺伝子変異、BRAF遺伝子変異)ではヒト腫瘍とPDX腫瘍に差異を認めなかった。

    【結論】

    小腸腺癌PDXは前臨床試験モデルとして適しており、基礎研究にも用いることが出来ると考えられた。また現在小腸癌に最も有効とされる治療法(OHP+Cape/5-FU)の有効性を他の治療法と比較することも可能であった。

  • 柿本 一城, 窪田 美紀, 光林 永子, 中沢 啓, 平田 有基, 川上 研, 竹内 利寿, 中川 孝俊, 朝日 通雄, 樋口 和秀
    セッションID: S2-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景と目的】

    オートファジーは炎症性腸疾患と関連しているが,消化管の生体バリア機構である腸上皮細胞におけるオートファジーの役割は未だ解明されていない点が多い.そこで今回我々は,腸上皮細胞におけるオートファジーが消化管の炎症に及ぼす影響を検討した.

    【方法】

    Atg5 floxマウスとvillin-Cre発現マウスを交配させ,腸上皮細胞特異的にAtg5をノックアウトしたATG5 flox/flox; villin-Creマウスを作製した.8-10週齢のwild typeマウス(WT)およびATG5 flox/flox; villin-Creマウスを用いて2.5% dextran sulfate sodium (DSS)を6日間投与してDSS腸炎を作製し,腸炎の比較評価を行った.またin vitroでの検討として,ラット小腸上皮細胞株IEC-6にshRNAを導入してAtg5をノックダウン(IEC6shAtg5)し,オートファジー不全が炎症に関わる機序を検討した.

    【結果】

    ATG5 flox/flox; villin-Creマウスを用いてDSS腸炎を作製したところ,WTと比較して有意に体重が減少し,大腸腸管長が短縮し,RT-PCR法で大腸組織の炎症性サイトカイン遺伝子の発現が上昇した.IEC6shAtg5ではIEC-6と比較してアポトーシスが亢進し,cell viabilityが有意に低下した.またIEC6shAtg5では炎症性サイトカイン遺伝子の発現が恒常的に著明に上昇しており,これらは活性酸素除去剤:N-Acetyl-L-cysteineの添加にて有意に抑制されたことから,オートファジー抑制により酸化ストレスが蓄積し,炎症性サイトカインが上昇したと考えられた.また炎症性サイトカイン遺伝子の発現はmitogen-activated protein kinase kinase阻害剤の添加にても有意に抑制され,MAPKシグナルの関与が示された.さらにIEC6shAtg5ではwestern blottingにてNF-κB p65のリン酸化が増強していた.

    【結論】

    腸上皮細胞のオートファジーは腸の恒常性を維持するために重要な役割を果たしており,オートファジー不全は酸化ストレス応答を介して炎症を惹起する.

  • 中田 晃暢, 灘谷 祐二, 大谷 恒史, 谷川 徹也, 渡辺 俊雄, 藤原 靖弘
    セッションID: S2-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景】

    NLRP3 InflammasomeはNLRP3およびpro-Caspase-1,ASCから構成され,Caspase-1を介してpro-IL-1β・pro-IL-18を活性型に変換することで炎症を惹起する.5-FUは炎症性サイトカイン上昇を伴う小腸粘膜傷害を惹起することが知られているが,NLRP3 Inflammasomeの5-FU起因性小腸粘膜傷害における役割は現在明らかではない.

    【目的】

    5-FU起因性小腸粘膜傷害におけるNLRP3 Inflammasomeの役割を明らかにする.

    【方法】

    小腸粘膜傷害は雄性C57BL/6J Wild Type,Caspase-1-/-,NLRP3-/-マウスに5-FUを腹腔内投与(500mg/kg) することによって惹起した.同モデルマウスにCaspase-1阻害薬(Ac-YVAD-CMK;1 mgまたは10 mg/kg/日)またはVehicleを,5-FU投与から3日間,腹腔内投与した.

    Recombinant IL-1β(0.1 ngまたは1 ng/kg/日)またはVehicleは5-FU投与翌日から2日間投与した.炎症性サイトカイン・Inflammasome関連分子のmRNA発現をリアルタイムRT-PCR,蛋白質発現量をウェスタンブロッティングによって評価した.

    【結果】

    下痢は1日目から発生した.体重減少は5-FU投与後4日目に最大となり,7日目にかけて回復した.組織学的に絨毛高/陰窩の比は5-FU投与により減少した.5-FU投与によってTNF-αおよびKCのmRNA発現量,Caspase-1のmRNAと活性型蛋白質の発現量は増加し,IL-1βのmRNAと活性型蛋白質の発現量も増加した.Ac-YVAD-cmkの投与,各ノックアウトマウスでは炎症性サイトカインのmRNA発現量が減少するとともに,小腸粘膜傷害は軽減した.IL-1βの投与で炎症性サイトカインのmRNA発現量が増加し,小腸粘膜傷害は増悪した.5-FU投与はNLRP3 Inflammasome下流シグナルの活性化と小腸粘膜傷害を惹起し,Caspase-1,NLRP3の阻害は小腸粘膜傷害を抑制した一方,IL-1βの投与はそれを増悪させた.

    【結語】

    NLRP3 InflammasomeはIL-1βを介して5-FU起因性小腸粘膜傷害を増悪すると考えられた.

  • 筋野 智久, 金井 隆典
    セッションID: S2-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    腸管内のT細胞には粘膜固有層T細胞と腸管上皮内T細胞が存在する。腸管上皮内T細胞にはTCRgd T細胞、CD4CD8aa T細胞を始め他臓器で認められないユニークな細胞集団が存在する。TCRgd細胞は腸管上皮内を移動(highway movemet)し、時に上皮内にはまり込む挙動(flossing movement)をする。サルモネラ感染症の際にはFlossing movementが増加することを見出した。また上皮内CD4CD8aa細胞は腸内細菌依存的に誘導され、CD4 master遺伝子であるThpok減弱に伴い、CD8 master遺伝子であるRunx3が増強し、それに伴い、TCRgd細胞と同様にstraight movementが増加することを見出した。CD4CD8aa細胞、TCRgd細胞の役割については不明な点が多いが、欠損させたマウスにおいて腸管の炎症を誘発すること、炎症性腸疾患において割合が少ないことが判明しており上皮修復、炎症抑制に働いているものと考えられる。

  • 大澤 元保, 福嶋 真弥, 勝又 諒, 石井 学, 松本 啓志, 塩谷 昭子
    セッションID: S2-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景】

    IBDの病態にはサイトカインの関与しているが、IBDと食物アレルギーの関連およびサイトカインプロファイルを検討した報告は少ない。クローン病患者の食物アレルギーの頻度及びサイトカインプロファイルを評価し、病態への関与を検討した。

    【方法】

    対象は、当院にクローン病で通院中の患者および健常対照者。17種の食物抗原を含むIgE MAST-36を評価し、クラス2以上を陽性とし、食物抗原のどれか一つ以上に陽性者を食物抗原感作群、検索した抗原のどれか一つに陽性者を抗原感作群とした。Chemokine Magnetic Bead Panel Immunoassayにより29種類の血清サイトカインを同時に測定した。

    【結果】

    対象はクローン病55例(平均年齢39.7歳、男性40例)および健常者39例(平均年齢41.5歳、男性23例)の計94例。クローン病群と健常者の2群間で食物抗原感作率 (24.1% vs. 17.9 %) に有意差を認めなかった。健常者と比較して、クローン病群でSTAT3活性化およびTh17細胞分化に関連するサイトカインがIL-6を含め有意に高値であったが、Th1サイトカインであるIL12p70およびIP10が有意に低値であった。健常者において、非感作群と比較して食物抗原感作群で、IL-6は有意に低値であったが、IBDにおいては、食物抗原感作群でIL1α(p=0.02), IL15 (p=0.03) が、抗原感作群でIL2値が有意に高値 (p=0.01) であった。病変活動性や重症度とアレルギーの有無およびサイトカイン値には関連性を認めなかった。小腸型は、大腸あるいは小腸・大腸型と比較してMCP-1が有意に高値であった。

    【結論】

    クローン病患者は健常者と比較して、Th17優位であったが、Th1サイトカインの過剰発現は認めなかった。アレルギーの有無によりサイトカインプロファイルは異なり、健常者ではTh17抑制、クローン病患者ではIL-2を介したSTAT5活性化が示唆され、アレルギーの有無がクローン病の病態に関与している可能性が示唆された。

  • 永山 学, 新 幸二, 須田 亙, 成島 聖子, 小林 泰俊, 坂本 博次, 矢野 智則, 宮原 晶子, 東條 浩子, 関谷 万理子, 本田 ...
    セッションID: S2-7
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景】

    クローン病は感受性遺伝子と環境因子の関連により免疫系の破綻を来たして発症すると考えられており、近年は環境因子の中でも腸内細菌が注目されている。これまでの菌叢解析は主に糞便を用いており、主病巣である小腸を解析したものは少ない。我々はダブルバルーン内視鏡を用いて小腸サンプルを採取し細菌叢解析を行った。

    【方法】

    サンプルから酵素法を用いてDNAを抽出し、Illumina MiSeqを用いて16Sメタ解析を行い、統計学的解析を行った。サンプルから単離した菌を無菌マウスに投与し、Flow cytometryとqPCRを用いて腸管免疫細胞解析を行った。

    【結果】

    ①部位による菌叢比較:小腸は固有の細菌叢クラスターを形成した。

    ②クローン病の有無による比較:小腸細菌叢はクローン病の有無により統計学的に有意な差が見られた。また、クローン病に有意に多い細菌や有意に少ない細菌が抽出された。

    ③クローン病関連かつ小腸優勢菌の代表として大腸菌が抽出されたため、クローン病の小腸サンプルより同菌を単離して無菌マウスに投与したところ、無菌マウス/SPF飼育下マウスと比較して、クローン病感受性遺伝子のTNFSF15とその受容体であるDR3の発現が増加し、腸管粘膜固有層においてTh1とTh17が有意に増加した。

    【考察】

    クローン病では小腸細菌叢に変化が見られ、その代表菌として大腸菌が抽出された。クローン病の小腸から単離した大腸菌はTNFSF15/DR3の発現と炎症性T細胞を誘導したことから、クローン病の発症に関連していることが示唆された。

  • 及川 洋祐, 田中 良紀, 吉原 努, 日暮 琢磨, 中島 淳二, 中島 淳
    セッションID: S2-8
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    近年,脳梗塞再発予防等に使用される低用量アスピリンとプロトンポンプ阻害剤 (PPI) の併用症例が増加し,その副作用として小腸傷害を生じることが報告されている.そこで,NSAIDによる小腸傷害を軽減することが実験的に知られているBifidobacterium bifidum G9-1 (G9-1) が本小腸傷害に対しても効果を示すかを明らかにするため,PPI及びアスピリン誘発性小腸傷害モデルマウスを作製し検討した.

    【方法】

    C57BL/6J雄性マウスに高果糖食を9週間摂食させるとともに,オメプラゾール20 mg / kgを腹腔内投与した.アスピリン200 mg / kgの経口投与3時間後に解剖し,腸管透過性,空腸の傷害レベル・細菌叢及び遺伝子発現量を評価した.

    【結果】

    PPI及びアスピリン併用投与群では,腸管透過性の亢進や病理スコアの増加並びに,空腸内におけるAkkermansia属の占有率増加が認められた.一方,アスピリン投与1週間前よりG9-1を経口投与した群ではいずれの変化も認められず,また空腸において粘膜ムチン層に関連するMUC2やTFF3の発現亢進が認められた.さらに,A. muciniphilaを腸管に定着させたノトバイオートマウスで亢進した腸管透過性がG9-1投与群で抑制された.

    【結論】

    PPI及びアスピリンの併用投与により生じる小腸傷害に対し,G9-1は有意な抑制効果を示した.そのメカニズムとして,ムチン分解菌Akkermansia属細菌の抑制並びにムチン層維持増強の関与が考えられる.

シンポジウム3 小腸腫瘍・ポリポーシス診療の現状と未来
  • 関谷 万理子, 坂本 博次, 矢野 智則, 小林 泰俊, 篠崎 聡, 砂田 圭二郎, 山本 博徳
    セッションID: S3-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    家族性大腸腺腫症(FAP)では大腸外病変として十二指腸を含む小腸にも腺腫を発症する。FAPの大腸腺腫に対する内視鏡的治療の有用性については報告があるが、十二指腸・小腸腺腫に対する内視鏡的治療に関する検証は少なく、有用性を明らかとするために検討を行った。

    【方法】

    2004年8月~2018年7月の期間で当部門においてダブルバルーン内視鏡(DBE)を用いてポリープ切除を複数回施行したFAP患者8例を対象とし、1)進行十二指腸・小腸癌の発生、2)内視鏡的治療の内容及び偶発症について後ろ向きに検討を行った。

    【結果】

    初回検査の平均年齢は31歳、観察期間中央値は77.5ヶ月だった。1)観察期間中に進行十二指腸・小腸癌の発生は認めず、1例十二指腸上行脚に腺腫内癌を認めたのみであった。2)72件のDBEを施行し、1237の腺腫が切除された。偶発症は後出血6件、急性膵炎4件であった。Cold snare polypectomyとcold biopsyのみの検査19件において、偶発症は急性膵炎1件のみであった。後出血に対しては内視鏡的クリップ止血、膵炎は絶食と点滴の保存的加療を行い、いずれも重篤なものはみられなかった。

    【結語】

    FAPの十二指腸・小腸腺腫に対するDBEを用いた内視鏡的切除は安全に施行できる。小さな腺腫であれば高周波凝固を避けることでより安全に効率的な切除を行うことができる可能性が示唆された。進行十二指腸・小腸癌の予防効果も期待されるが、より多数例での長期的な経過観察による検証が必要である。

  • 大森 順, 田中 周, 星本 相理, 橋野 史彦, 片岡 宏章, 梅田 隆満, 高木 信介, 西本 崇良, 秋元 直彦, 佐藤 航, 三井 ...
    セッションID: S3-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    Peutz-Jeghers症候群(PJS) は大きな有茎性ポリープを切除することが腸重積の予防に非常に有効である.ダブバルーン小腸内視鏡(DBE)でのクロスドクリップ法によるポリープ切除は,ポリープ数の増加,偶発症の減少が見込める.一方で大きなポリープは癌化することがあるため,ポリペクトミー後の検体回収が必要になる.さらにPJSは開腹歴の既往のためDBE挿入困難例で長時間の検査が多い為,安全で確実なDBE処置が求められる.

    【方法】

    2006年6月より2018年9月までに,DBEを施行したPJS12例,全検査37件を分析し,クロスドクリップ併用群と非併用群に分けて後ろ向きに比較し,当科におけるPJSの小腸ポリープ切除の特徴を遡及的に検討した.

    【結果】

    男性4例,女性8例.初回検査時の平均年齢は34.7(16-64) 歳,12例中開腹歴があったのは11例で,そのうち10例で癒着高度のため挿入困難であった.DBEによる小腸ポリープ切除施行例が10例(クロスドクリップ併用4例),2例は観察のみであった.全小腸が観察可能であったのは,13例中9例で,全小腸の平均挿入時間(検査時間)は122分(207分)であった.ポリープ切除10例中クロスドクリップ併用群4例の平均ポリープ処置数は17.5個,非併用群6例の平均ポリープ切除数3.5個であった.合併症に関しては,6例で高度の出血が見られたが,いずれもクロスドクリップ非併用群であった.

    【結論】

    PJSに対する内視鏡的ポリープ切除では,クロスドクリップを併用することで,より多くのポリープ処置が安全に可能であった.

  • 渡辺 知佳子, 高本 俊介, 冨田 謙吾, 穂苅 量太, 三浦 総一郎
    セッションID: S3-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    クロンカイト・カナダ症候群(CCS) における小腸病変の実態、臨床経過との関連について解析した。

    【方法】

    本邦におけるCCS210症例を対象にしたアンケート調査の結果を解析した。

    【結果】

    蛋白漏出シンチグラフィが行われた56例のうち42例が有所見で、そのうち小腸からの漏出は6例でみられた。小腸画像検査としてレントゲンまたは内視鏡検査が120例でおこなわれ、空腸・回腸にそれぞれ50.4%・74.1%に病変をみとめた。胃や大腸に比べると比較的小型のポリープが散在する傾向がみられた。レントゲン検査だけでなく、内視鏡検査(カプセル内視鏡または小腸内視鏡)を併用するほうが、有病変率は高かった(74.2%、86.9%)。小腸ポリープを先進とする腸重積・小腸癌の合併はなかった。治療はステロイド治療が多くの症例で行われ、反応は良好であったが、一部に難渋例があり、長期的に癌の合併が高率にみられた。小腸のポリープが大きい、または密度が高い場合は、ステロイド治療により内視鏡的に回復するまでに時間がかかる傾向があった。

    【結論】

    CCS診断時に、小腸もふくむ全消化管を内視鏡で評価することは、臨床経過の予測に有用である可能性がある。また、消化管・皮膚の症状の改善だけでなく、上部および下部内視鏡検査で治療効果を判定してから、ステロイドの中止あるいは維持量へ減量することが、長期的臨床経過の改善につながると考えられた。

  • 久米井 智, 平井 みなみ, 朝倉 謙輔, 永塚 真, 藤田 泰子, 郷内 貴弘, 漆久保 順, 鳥谷 洋右, 梁井 俊一, 川崎 啓祐, ...
    セッションID: S3-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【症例1】

    10歳女児.9歳時に学校検診で貧血を指摘され近医を受診したところ,便潜血検査陽性であった.上部・下部消化管内視鏡検査では出血源を認めなかったため,小腸精査目的で紹介となった.カプセル内視鏡,ダブルバルーン内視鏡(DBE)で上部空腸に類円形で暗赤色の隆起性病変を認め,全身に多発する血管腫を伴うことからblue rubber bleb nevus症候群と診断した.小腸血管腫に対しDBE下にポリドカノール局注療法を施行したところ,1ヶ月後には病変の退縮が確認され,その後現在まで貧血の進行なく経過している.

    【症例2】

    18歳男性.精神発達遅滞,巨頭症,性器の色素沈着あり,PTEN遺伝子の欠失からBannayan-Riley-Ruvalcaba症候群と診断され小児科で経過観察中であった.明らかな消化器症状はなかったが,母親が肉眼的血便に気づき当科を紹介受診した.上部内視鏡検査では食道にglycogenic acanthosis,胃に過誤腫性ポリポーシスがみられた.DBEでは空腸に周囲粘膜と同色調の無茎性,ないし有茎性隆起性病変が散在していた.大腸内視鏡検査でも全大腸に隆起が散在し,7個の病変を内視鏡的粘膜切除術を施行したところ,1病変は腺腫,他は過誤腫であった.

    【結語】

    小児の消化管ポリポーシスや全身性疾患においても,小腸内視鏡検査は小腸病変の診断・治療に有用と考えられた.

  • 石橋 朗, 加藤 真吾, 山鹿 渚, 可児 和仁, 屋嘉比 康治
    セッションID: S3-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    小腸癌は症例数も少なく、診断も困難な疾患である。今回、DBE(double balloon endoscopy) にて確定診断に至った小腸癌症例を報告する。

    【方法】

    2008年1月~2018年6月の間、当院においてDBEによって診断となった小腸癌(十二指腸癌を除く) の症状経過及び診断に関して考察した。

    【結果】

    当院にて診断された空腸および回腸癌のうち、DBEにて確定診断に至った9例の検討を行った。CE(Capsule Endoscopy) 先行でDBEを施行した例が3例、他の6例ではCT検査後DBEで診断されていた。臨床症状は腹部膨満感・嘔吐が4例、貧血が4例、主訴無しが1例であった。全例手術が施行され術後化学療法が5例に施行されている。その他4症例は術後PS悪く化学療法まで至らず、緩和病院へ転院となっている。期間内での小腸癌の死亡率は33.3%(3/9 例) と高かった。

    【考察】

    腹部症状や貧血にて精査され、DBEにて確定診断には至るが、根治的手術は困難であり、術後化学療法まで至らず緩和療法になる症例も多いことが判明した。

  • 和智 博信, 蔵原 晃一, 平田 敬, 大城 由美, 八板 弘樹, 浦岡 尚平, 萱嶋 善行, 吉田 雄一朗, 松塲 瞳, 南 一仁
    セッションID: S3-6
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】

    原発性小腸癌の臨床的特徴を明らかにすること。

    【方法】

    1983年4月から2018年3月までの35年間に、外科的切除標本の検討により病理組織学的に確診が得られた原発性小腸癌19例の臨床的特徴を遡及的に検討した。

    【成績】

    原発性小腸癌19例の平均年齢は56.8歳で、男性8例、女性11例であった。Lynch症候群に合併して発症した症例を1例認めた。癌の占拠部位は空腸が9例、回腸が8例、大腸内視鏡検査で発見された回腸末端が2例であった。小腸バルーン内視鏡検査が5例(空腸4例、回腸1例)、カプセル小腸内視鏡検査が3例(空腸2例、回腸1例) で施行されていた。術前に生検で小腸癌と診断されたのは7例(空腸4例、回腸1例、回腸末端2例)であった。腫瘍径の中央値は45mmで、肉眼型はⅠs+Ⅱcが1例、1型が2例、2型が8例、3型が7例であった。組織型は高分化腺癌が11例、中分化腺癌が5例、低分化腺癌が2例、その他の癌が1例であった。壁深達度はpMが1例、pSSが5例、pSEが10例、pSIが3例であった。リンパ節転移は11例に認められ、リンパ管侵襲は15例、静脈侵襲は15例に認めた。病期は0期1例、Ⅱ期3例、Ⅲa期3例、Ⅲb期3例、Ⅳ期9例であった。予後の判明した8例の内、4例は生存していたが、4例は原病死しており、術後観察期間中央値は15ヶ月であった。

    【結論】

    原発性小腸癌はいずれも高度に進行した状態で発見されており、今後、より早期の診断を可能とする診断体系の確立が望まれる。

  • 國原 紗代子, 岡 志郎, 田中 信治, 飯尾 澄夫, 壷井 章克, 大谷 一郎, 茶山 一彰, 有廣 広司
    セッションID: S3-7
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【対象と方法】

    2005年5月~2018年7月に当科にて経験した原発性小腸癌16例23病変の臨床病理学的特徴と予後を検討した。

    【結果】

    男性11例,女性5例,平均年齢58.1歳であった。他臓器重複癌6例を認めた。主訴は,腸閉塞9例,OGIB6例,他疾患の検査で偶発的に発見2例であった。初診時の平均血中Hb値は11.2mg/dl,CEA値は4例で高値(>5.0ng/mL)であった。診断のきっかけとなった検査は,腹部CT10例,カプセル内視鏡2例,体外式超音波検査2例,ダブルバルーン内視鏡(DBE)1例,PET-CT 1例であった。単発13例,同時性多発2例,同時性/異時性多発1例であった。局在は,空腸18病変,回腸5病変,平均腫瘍径は33mm,全周性病変は7病変に認めた。肉眼型は,0型3病変,1型3病変,2 型14病変,3型2病変,5型1病変であった。DBEにて18病変は病変まで到達可能であり,うち14病変は生検にて癌と確定診断した。治療法は,外科手術18病変,化学療法19病変,内視鏡治療3病変であった(重複あり)。主組織型は,tub1 6病変,tub2 11病変,pap 2病変,por1 2病変,sig 1病変,muc 1病変で,深達度はTis 3病変,SS 9病変,SE以深11病変であった。リンパ節転移を11例,遠隔転移を8例に認めた。病期は,ll期4例,llla期1例,lllb期3例,IV期8例であった。予後は,生存5例,原癌死11例であった(平均観察期間39.3ヶ月)。

    【結語】

    原発性小腸癌の診断にDBEは有用であったが,ほとんどが進行癌で発見され予後不良であった。

一般演題1
  • 太田 和寛, 竹内 利寿, 小嶋 融一, 原田 智, 菅原 徳瑛, 樋口 和秀
    セッションID: O1-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景】低用量アスピリン(LDA: low-dose aspirin) はアテローム血栓症性疾患の2次予防目的に広く使用されている。LDAは上部消化管粘膜傷害を引き起こすが、プロトンポンプ阻害薬(PPI: proton pump inhibitor) で胃酸分泌を抑制することにより粘膜傷害発症を予防することができる。小腸においてもLDAにより粘膜傷害を生じることが分かってきており、酸が関与しない小腸においてPPIは無効である。最近になり、粘膜防御因子増強薬にLDA起因性小腸粘膜傷害の予防に有効であるという報告が増えてきている。健常被験者を対象に粘膜防御因子増強薬のエカベトナトリウム(ES: ecabet sodium) のLDA起因性小腸粘膜傷害予防効果を確かめる前向き臨床試験を行った。

    【方法】健常被験者30名を2群に分け、A群はLDAを、B群はLDAとES6gを2週間服用してもらい、その前後で小腸カプセル内視鏡検査を行い、ESによるLDA小腸粘膜傷害予防効果を検討した。

    【結果】24名(A群12名、B群12名) で評価可能であった。2群間の被験者背景に有意な差は無かった。A群ではLDA内服後に小腸粘膜傷害数が有意に増加したが(1[0-5] → 5[1-11], p=0.0059)、B群においては有意な増加はなかった(0.5[0-9] → 3[0-23], p=0.0586)。またB群に関して、第1三分位では小腸粘膜傷害数に有意な変化はなかったが(0[0-4] → 1.5[0-8], p=0.2969)、第2第3三分位では小腸粘膜傷害は有意に増悪していた(0[0-5] → 2[2-15], p=0.0469)。結論: ESはLDA起因性小腸粘膜傷害に対して予防効果を有しているが、その効果は上部小腸に限られている。

  • 太田 和寛, 菅原 徳瑛, 平田 有基, 原田 智, 小嶋 融一, 柿本 一城, 竹内 利寿, 後藤 昌弘, 樋口 和秀
    セッションID: O1-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景】フルオロピリミジン系抗癌剤である5-FUは各種悪性腫瘍患者に対して持続的に経静脈投与が行われるが、時に重篤な下痢を引き起こして化学療法継続が困難となる。S-1やカペシタビンは経口フルオロピリミジン系抗癌剤であり、過去の臨床試験報告では、経口フルオロピリミジン系抗癌剤の方が、下痢の頻度が多いと報告されている。ラットでの基礎研究では、5-FUを腹腔内投与すると小腸内細菌叢は変化し、小腸粘膜傷害が生じるとの報告がある。今回、悪性腫瘍に対してフルオロピリミジン系抗癌剤を含んだ化学療法レジメンを実施している患者に対して小腸カプセル内視鏡検査を行い、そのリスク因子を横断的に検討した。

    【方法】フルオロピリミジン系抗癌剤をレジメンに含む化学療法を実施されている入院患者に対して小腸カプセル内視鏡検査を行い、小腸粘膜傷害の有無と程度で患者背景の中のリスク因子が何であるかを検討した。

    【結果】18名の患者に同意を得、カプセル内視鏡で全小腸を観察しえた16名で検討を行った。小腸粘膜傷害の有無で、性別、年齢、分子標的薬有無、化学療法開始後日数、化学療法休薬後日数には有意な差は無かったが、5-FU経静脈投与より経口内服薬(S-1あるいはカペシタビン) の方が小腸粘膜傷害を有している患者が多い傾向にあった(経静脈:33%, 経口:100%, p=0.0769, Fisherの正確検定)。また、下痢の頻度が多いほど、小腸粘膜傷害を有する可能性が有意に高かった (CTCAE Grade0:16.7%, Grade1:57.1%, Grade2:100%, p=0.016)。次に、投与方法別に小腸粘膜傷害の程度を比較したところ、経口投与の方が有意に小腸粘膜傷害の個数が多いことが明らかとなった(経静脈: 中央値0個, 経口: 中央値6.5個, p=0.0162)。[結論] フルオロピリミジン系抗癌剤をレジメンに含む化学療法中の患者では、下痢頻度と小腸粘膜傷害有無に相関傾向があり、小腸粘膜傷害の程度は経口投与の方が重篤となる。

  • 宮口 和也, 都築 義和, 山岡 稔, 芦谷 啓吾, 大庫 秀樹, 尾花 花子, 古村 眞, 中元 秀友, 今枝 博之
    セッションID: O1-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景】炎症性腸疾患(IBD) は、原因不明の消化管の炎症性疾患であり若年での発症が多い。IBDには主として潰瘍性大腸炎(UC) とクローン病(CD) がありCDがUCより若年発症であり加療が長期にわたるため小児科または小児外科で診断および初期治療を担当し、15歳前後から内科管理に移行することも多い。今回、小児外科でCDと診断され、13~17歳で主として再燃を契機に内科にスムーズにtransitionした症例を5例経験したので報告する。

    【症例】平均発症年齢12.6歳(12~14歳)、平均罹病期間2年(0.5年~5年)であった。発症時の症状は口内炎、痔核、下痢、血便、腹痛が多かったが、不明熱1例、皮疹1例も認めた。皮疹は結節性紅斑と診断した。病型は小腸型1例、小腸大腸型3例、大腸型1例であった。小腸型の症例は胃にも所見を認めた。診断は上下部内視鏡及びその際の病理組織、小腸造影、造影CT等によりなされた。内視鏡所見としては小腸の病変では回腸末端の縦走傾向の潰瘍が多く、大腸は1例で多発アフタ、1例で敷石像、1例で潰瘍瘢痕を認めた。2例で胃に竹の節様所見を認めた。17歳の症例ではダブルバルーン小腸鏡を経肛門的に施行し、大腸内視鏡では通常観察できない回腸に腸間膜付着側に縦走潰瘍を認め、診断に有用であった。病理組織検査でのgranuloma検出率は60%(3/5) であった。治療は5-ASA製剤をベースとし改善ない時はステロイド、さらに無効であった2例には抗TNF-α製剤を投与し、寛解導入可能であった。

    【結語】平均罹病期間2年のCDで発症時小児外科が担当し、15歳前後で内科に転科した5症例を経験した。小腸病変を有することが多く、診断には上下部消化管内視鏡のみならずダブルバルーン小腸鏡が有用であった。CDは寛解再燃を繰り返し、その間複数回手術となり短腸症候群を呈することが多い。増悪時は速やかな活動性評価およびtransitionが重要であると考えられた。

  • 森田 康大, 馬場 重樹, 高橋 憲一郎, 西田 淳史, 辻川 知之, 佐々木 雅也, 杉本 光繁, 安藤 朗
    セッションID: O1-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【目的】クローン病(CD)の経過において狭窄は最も多い手術理由である。CDによる消化管狭窄病変に対する内視鏡的バルーン拡張術(EBD)の有効性に関する検討はこれまで多く報告されているが、小腸狭窄に限定した報告は少ない。当院におけるCDにおける小腸狭窄病変に対するEBDの有効性について検討した。

    【方法】2005年11月から2017年12月までの期間に、当院で小腸狭窄病変に対してEBDを施行したCD患者93例(EBD 334件)を対象とした。これらの症例に対してEBDの合併症、治療成績、手術回避に関わる因子について検討を行った。

    【結果】対象93例の内訳は、男女比74:19、初回EBD時の平均年齢は38歳であった。カプランマイヤーを用いた累積手術回避率は3年後85.5%、5年後83.1%、10年後73.1%であった。手術回避に寄与する因子に対してCox回帰分析にて多変量解析を行ったところ「狭窄長が2cm以上」「拡張術不成功」が有意な因子(P値<0.05)であった。一次性狭窄(de novo)と二次性狭窄(吻合部)は手術と関連を認めなかった。偶発症は限局性の腹膜炎が2例、手術を要した穿孔が1例あった。

    【結語】シングルバルーン小腸内視鏡を用いたCDの小腸狭窄に対するEBDにより、比較的高い累積手術回避率が得られた。初回拡張時に狭窄長が2cm未満でEBDが可能であれば手術回避が可能となると考えられた。また、バウヒン弁の狭窄病変や、回盲部切除後の吻合部狭窄と孤発性の小腸狭窄との比較においても手術との関連を認めなかった。

一般演題2
  • 藤田 朋紀, 町田 卓郎, 小川 亮, 西原 功, 河上 純彦
    セッションID: O2-1
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    症例は80歳台女性。平成30年6月より腹痛・嘔気を認め、症状出現時より4日目に前医受診。採血にて炎症反応の上昇を認めたものの、抗生剤の投与で経過観察とされた。翌日当院受診され、PTP包装による穿通疑い・限局性腹膜炎の診断で当院入院となった。炎症反応は前医に比してやや改善傾向を呈していたことから保存的加療を選択。入院day7には炎症反応改善したため原因精査・加療目的にバルーン内視鏡検査を行った。病変の局在は回腸と判断したためまず経肛門的ダブルバルーン内視鏡を行ったが病変に到達できず、後日経口的ダブルバルーン内視鏡を行い、PTP包装を確認。内視鏡的に摘出した。以降炎症反応も落ち通いており退院とした。

    PTP包装の誤嚥に伴う小腸穿通・穿孔の報告は散見されるが、治療としては外科的治療が選択されており、PTP包装を内視鏡的に摘出した報告は今までにない。腹膜炎を保存的に改善できるのであれば今後内視鏡的治療も選択の余地があるのではないかと考え、今回動画を中心に供覧・報告する。

  • 山田 聡, 松浦 稔, 岡部 誠, 北本 博規, 本澤 有介, 山本 修司, 妹尾 浩
    セッションID: O-2-2
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【背景】小腸カプセル内視鏡は、原因不明消化管出血に対して2007年に保険適応となり、2012年より小腸病変が疑われる患者に適用拡大されている。しかしながら、受動的検査故の限界もある。今回我々は、当院で経験した小腸カプセル内視鏡での診断が困難であった小腸腫瘍2例を経験したため、ここに報告する。

    【症例1】57歳男性。横行結腸癌と盲腸癌の既往があり、リンチ症候群と診断されていた。2015年6月 貧血(Hb9.4g/dl)の精査にて、上・下部消化管内視鏡、小腸カプセル内視鏡、小腸透視、経肛門的小腸内視鏡、腹部CT検査を施行されるも診断に至らず。その後も貧血持続するためPET-CTを施行したところ、トライツ靭帯遠位側の上部空腸に集積亢進を認めた。経口的小腸内視鏡にて小腸癌の診断となり、空腸部分切除を施行した。

    【症例2】67歳男性。2016年7月黒色便およびHb 7.7 g/dlの貧血を認め、消化管出血を疑われた。上・下部消化管内視鏡、腹部CTでは出血源を同定できなかったが、小腸カプセル内視鏡では上部空腸内に出血を認めた。経口的小腸内視鏡を行い、トライツ靭帯遠位側の上部空腸に小腸癌を認めた。PET-CTでは明らかな遠隔転移を認めず、空腸部分切除を施行した。

    【結語】小腸内視鏡検査の進歩により、今後、小腸悪性腫瘍に遭遇する機会が増えると予想される。小腸腫瘍に対するカプセル内視鏡での小腸スクリーニングにおいて、上部空腸に腫瘍性病変が存在する場合には特に注意を要すると考えられた。

  • 佐野 正弥, 鈴木 孝良, 門馬 牧子, 中原 史雄, 水上 創, 藤澤 美亜, 中村 淳, 内田 哲史, 松嶋 成志, 峯 徹哉
    セッションID: O2-3
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    小腸内視鏡にて診断し外科的処置により良好な経過をたどった、脂肪腫からの小腸出血の一例を経験したので報告する。

    症例は67歳男性。黒色便・動機を主訴に前医受診した。前医にて上下部内視鏡検査を施行するも出血源の指摘ができなかった。そのため、カプセル内視鏡を施行したところ、上部空腸に腫瘤性病変を疑う所見を認め、精査加療目的に当院に紹介され受診した。当院入院後、前医での所見をもとに、画像検査を追加するとともに、小腸内視鏡検査を施行した。小腸内視鏡では、上部空腸に約30mmの腫瘤性病変を認め、同部位の生検検査を施行し終了とした。各種検査を施行しても、消化管出血の原因として他の病変を指摘できなかったため、この腫瘍部分からの出血を疑い、出血のコントロールのため手術適応と判断した。後日、術前検査を施行し当院消化器外科にて小腸部分切除術を受け、術後経過良好にて退院した。病理結果はLipomaであった。退院後は消化管出血を認めず、現在も順調に外来経過中である。

    小腸出血を呈した、小腸脂肪腫の一例を経験した。小腸脂肪腫による出血は報告数が非常に少ない。文献的考察を加えて報告する。

  • 高橋 憲一郎, 馬場 重樹, 西田 淳史, 稲富 理, 杉本 光繁, 谷 眞至, 木藤 克之, 安藤 朗
    セッションID: O2-4
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【症例】30歳代男性

    【主訴】心窩部痛

    【既往歴】なし

    【現病歴】20XX年9月下旬より心窩部痛と便通異常を自覚した。近医にて上部消化管内視鏡、腹部超音波検査を施行されるが明らかな原因は指摘されず内服加療をされていた。症状が改善せず、3ヶ月で12kgの体重減少があり20XX+1年1月に当院を紹介受診された。

    【経過】腹部CT検査にて回腸に壁肥厚所見を認め、近傍の腸間膜領域に腫大リンパ節を認めた。悪性リンパ腫や小腸癌の可能性を考え経肛門シングルバルーン小腸内視鏡を行ったところ、回腸に管腔内を占拠する巨大な発赤の強い腫瘤を認めた。拡大観察で腫瘤表面の絨毛は萎縮しており、cushion sign陽性の柔らかい腫瘤であった。生検組織ではびまん性に増殖するN/C比の高い異型円形核を有する腫瘍細胞を認め、免疫組織学的検討ではCD3陰性、CD20陰性、MPO陽性、CD34陽性と顆粒球系マーカーが陽性であった。骨髄検査では異常を認めず、回腸原発の顆粒球肉腫と診断した。腫瘍狭窄を来していたため、原発巣切除を行い、切除標本の病理結果は生検結果と同様の組織学的所見であった。顆粒球肉腫は経過中に急性骨髄性白血病に進展する可能性が高いため、術後は血液内科にてDNR-AraCによる寛解導入療法を行っている。

    【考察】小腸原発の顆粒球肉腫は稀な疾患であり、術前に内視鏡生検にて確定診断された報告例は多くない。バルーン小腸内視鏡の普及により、今後は術前に内視鏡診断される症例が増加すると思われる。当院で経験した拡大観察を含む顆粒球肉腫の内視鏡所見を提示するとともに、若干の文献的考察を含めて報告する。

  • 久野木 健仁, 小林 裕, 村上 雄紀, 岩間 琢哉, 佐々木 貴弘, 高橋 慶太郎, 安藤 勝祥, 上野 伸展, 嘉島 伸, 盛一 健太郎 ...
    セッションID: O2-5
    発行日: 2018年
    公開日: 2019/09/06
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    【はじめに】多発性骨髄腫をはじめとする形質細胞性腫瘍の多くは骨髄に発生し、髄外性形質細胞腫は極めて稀である.今回我々は,多発性骨髄腫の治療中に腸重積にて発見された小腸形質細胞腫の一例を経験したので報告する.

    【症例】70歳代男性.X年2月に多発性骨髄腫(IgG-κ型)の診断でVMP療法を施行後,再発なく経過していた.翌年8月に嘔気・嘔吐が出現し腸閉塞の診断で当科入院となった.CTでは小腸に多発し造影効果のある腫瘍を認め,空腸の一部で腸重積を来していた.小腸内視鏡では,空腸にSMT様の立ち上がりと頂部に潰瘍を有する腫瘍が多発しており,生検ではCD138陽性,κ-restrictionを認め形質細胞腫と診断した.腫瘍縮小を目的にTHP-COP療法を選択し、3コース施行した時点でCT上腫瘍は消失したため食事摂取を開始した。X+2年3月までに6コース施行したが,再度イレウス症状が出現しCT上再発を認め、肺炎を併発し永眠された.

    【考察】形質細胞腫の髄外性病変は5%以下であり,多発性骨髄腫の経過中に発症した小腸原発形質細胞腫は0.9%と非常に頻度が低い.また、腸重積を来した形質細胞腫の報告は本例を含め8例であり、非手術療法にて腸重積を解除し得た症例は本症例で2例目である。腸重積を呈する小腸腫瘍を認めた際には形質細胞腫を念頭に置き、診断を進める必要がある。

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