前報の口腔内亜硝酸生成実験に引き続いて本報は, 1日絶食させたサル5匹に, 硝酸ナトリウム5,000ppmを含む滅菌BHIを20ml/kgの割合で胃内経口投与を行った. 胃内容物は, ネラトンカテーテルを用いて注射器の吸引により採取し, BHI投与1, 3, 5, 7時間後の各時間ごとの胃内容物中のNO
2-濃度, 微生物叢ならびにpHについて検索し, 唾液については, BHI投与直前のものを採取し, 特に胃内NO
2-生成に関与する唾液と胃内容物中の微生物叢の関連について比較検討を行った.
1) サル胃内NO
2-生成の最高濃度は, それぞれ96.6, 94.1, 69.1, 3.2, 377.9ppmを示し, 胃内NO
2-生成に対する個体による差異が明らかに認められた. しかしながらその時間的生成ピークは, 生成量に関係なく, 硝酸ナトリウム投与5時間後に一致する成績が得られた.
2) 胃内容物ならびに唾液中の微生物叢の関連について検討した結果, 各時間ごとに検出される胃内容物中の微生物は, いずれも口腔内徴生物叢の由来菌種によって占められ, しかも検出された主要な硝酸塩還元菌種は, 嫌気性菌では
Bacteroidaceae, Peptococcaceae, Propionibacteriaceae, valonellaceae好気性菌では
Corynebacterium, Haemophilus, Nocardiaceae, Micrococcaceaeの各菌種に属するものであった.
なお好気性菌の菌数は, NO
2-生成ピークと比例して投与7時間後には減少するのに対し, 嫌気性菌は, さらに増殖する傾向を示し, 胃内NO
2-生成には, 胃内に生存する唾液由来の嫌気性硝酸塩還元菌が大きな役割を演じているものと思われる.
3) 胃内容物中のpHは, pH 7.4のBHI投与によりかなり高く, それぞれの平均値は, 5.2~6.6であったが, そのpH値とサルそれぞれの胃内NO
2-生成量との間には, 明らかな相関性が認められた.
4) 硝酸ナトリウム投与直前ならびに投与1時間後の唾液中に生成されたNO
2-と投与1時間後の胃内で生成されたNO
2-濃度を比較すると, 嚥下された唾液中生成NO
2-の胃内での蓄積は, 余り認められず, むしろ胃内NO
2-生成主要因子は, 大部分が唾液といっしょに嚥下された口腔内微生物叢のうち, 特に硝酸塩還元菌の還元力に由来する結果が得られた.
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