ツキヨタケは,シイタケやヒラタケ,ムキタケと誤認されやすい毒キノコの一種で,日本でのキノコによる食中毒の主要な原因キノコである.本研究では,ツキヨタケを迅速に判別する分子生物学的手法としてPCR-RFLPを用いた判別法を構築した.Sau96I, Bpu10I, SfcI, DrdI/HincIIの4組の制限酵素を用いたPCR-RFLPにより,有毒のツキヨタケと食用キノコのシイタケ,ムキタケ,ヒラタケを明確に判別することに成功した.また,加熱調理や消化によりDNAの一部が断片化した試料でも判別可能な200 bp程度の領域を対象としたShort PCR-RFLPも構築し,リアルタイムPCRによる確認試験法についても検討した.これらは,ツキヨタケが疑われる食中毒事例の原因究明に有効な検査法として有用と考えられた.
食品に添加された甘味料(サッカリンナトリウム(Sa),アセスルファムカリウム(AK),アスパルテーム(APM),ズルチン(Du))の抽出および精製を行う迅速な透析法を開発した.従来法では48時間の透析が必要な穀物調製品のクッキーに,0.02 g/kgの甘味料を添加して検討を行った.透析は透析総量を200 mLから100 mLに減らし,透析膜の有効長を55 cmから50 cmに変更した.さらに透析液に30%メタノールを用い,50℃に加温し,160 rpmで振とうして行った.その結果,透析1時間後のSa,AK,APMおよびDuの回収率(%)は,それぞれ99.3,102.3,103.8,99.4と良好であった.
日本では毎年,有毒キノコの誤食による食中毒が数十件発生している.食中毒の原因究明のために行われるキノコの肉眼・顕微鏡観察による形態学的鑑別法は,高度な菌類学の専門知識を要するうえ,キノコが原形をとどめていない食中毒検体(喫食残品や患者吐物)には適用が困難である.そこで,種の同定に有用とされるDNAバーコーディング法(塩基配列解析による種同定)を応用した種特異的プライマーの設計によるキノコのスクリーニング法について検討した.日本で食中毒事例のあるキノコのうち,5種類のキノコ(オオワライタケ,オオシロカラカサタケ,ニガクリタケ,スギヒラタケ,カキシメジ)について種特異的なプライマーを作製した.本法は調理および人工胃液による処理の影響を受けず,湿試料100 mgのキノコ(DNA 10 ng)を,約2時間半で検出可能であった.キノコによる食中毒疑いが発生したとき,本法によるスクリーニング検査と同時に,ITS1領域の塩基配列解析による確認検査を行う.塩基配列解析には約9時間以上要することから,本法と塩基配列解析を併用することにより,検査精度を担保するとともに,保健所や衛生研究所等において,より迅速な食中毒対応が可能になると考える.
LC-MS/MSによるアユ中のフェニコール系薬剤(クロラムフェニコール,チアンフェニコール,フロルフェニコール)の分析法を開発した.試料は,筋肉以外に骨や内臓を含む可食部全体とした. 90%アセトニトリル溶液で抽出した試料抽出液の一部をフロリジルカラム(2 g)で精製後,アセトニトリル–n-ヘキサン分配により脂肪を除去した.アセトニトリル層を分取して濃縮した後,リン酸緩衝液に置換して水酸基表面修飾型スチレンジビニルベンゼン共重合体カラム(200 mg)により精製した.得られた溶出液を脂質除去機能付き除タンパクフィルターに通して試験溶液とした.クロラムフェニコールはサロゲート物質(クロラムフェニコール-d5)を用いた検量線で,チアンフェニコールおよびフロルフェニコールは絶対検量線で定量した.厚生労働省通知のガイドラインに基づく妥当性評価の結果,真度が85~103%,併行精度が5.0~13%,室内精度が7.6~13%となり,目標値を満たしていた.本法はアユ全体中のフェニコール系3薬剤の残留を効率良く検査する試験法として有用である.さらにクロラムフェニコールとチアンフェニコールの残留が認められた場合は,本法で求めた定量値で食品衛生法の規格基準への適合を判断することが可能である.
不揮発性アミン類5種(プトレシン,カダベリン,ヒスタミン,チラミン,スペルミジン)のダンシルクロリド誘導体による一斉分析法を確立した.試料よりアミン類を抽出し,試料溶液3 mLを強カチオン交換カラムに負荷し,水5 mLで洗浄後,1 mol/L炭酸カリウム溶液5 mLで溶出をした.その溶出液中のアミン類を直接ダンシル誘導体化し,トルエンで抽出後,減圧濃縮乾固した残留物をアセトニトリルで溶解した.その溶解液に5%プロリン・1 mol/L炭酸カリウム溶液1 mLを加えて振とうし,分離したアセトニトリル層(上層)をろ過し,HPLCで測定した.本法の定量下限は,プトレシンおよびカダベリンが0.2 μg/g,スペルミジンが0.8 μg/g,チラミンが2.0 μg/g,ヒスタミンが5.0 μg/gであった.9食品における平均回収率は5種すべて80%以上であり,本法は各種の食品に適用が可能であると考える.
茶は,妨害成分であるカテキンやカフェインを多量に含むため,残留農薬分析における精製が困難である.著者らは,これらの妨害成分を除去する2種類の精製材料(S-NH2とS-Si)を開発し,茶中残留農薬分析ですでに用いられている4種類の精製材料(オクタデシルシリル化シリカゲル,グラファイトカーボン,アミノプロピルシリル化シリカゲルおよびシリカゲル)とカテキンおよびカフェインの除去効果を比較した.筆者らが開発した2種類の精製材料は,カテキンおよびカフェインの除去に優れており,特にカテキンの除去にはS-NH2が,カフェインの除去にはS-Siが効果的であった.S-NH2およびS-Siにおける農薬成分の添加回収試験では,80成分のうち約7割以上の農薬成分が70%以上の回収率を示した.以上より,これらの精製材料は,茶中残留農薬分析の精製剤として有用であると思われた.
種々の高タンパク食品中の酸性タール色素分析について,抽出方法について検討した.かまぼこおよびはんぺんでは,1%アンモニア水に引き続くエタノール抽出の後,1%アンモニア水–エタノール混液(1 : 1), 1%アンモニア水–テトラヒドロフラン混液(1 : 1)の順で抽出を行った.ソーセージでは,併せて低温で遠心分離することにより,固形油脂を除去した.辛子明太子では1%アンモニア水–エタノール混液(1 : 1)で2回,さらに1%アンモニア水–テトラヒドロフラン混液(1 : 1)で抽出を行った.キサンテン系色素の精製にはジビニルベンゼン–N-ビニルピロリドン共重合体を用い,目詰まりしやすい試料では粒子径の大きいものを用いた.その他の色素の精製にはポリアミドカラムを使った.各色素を食品中5 μg/gになるように添加した場合,かまぼこ,はんぺん,ソーセージで76~102%,辛子明太子では,2検体の平均で45~98%の回収率であった.
わが国に流通する食品用ステンレス製品合計164製品(172試料)について,含有金属の実態調査を行った.蛍光X線およびICPを用いて含有金属の分析を行った結果,マンガンの組成比が高い(9.59~20.03%)ステンレス製品が17試料あり,それらはどのJISの鋼種にも分類されなかった.次いで,ICPを用いて食品擬似溶媒による金属の溶出量分析を行った.その結果,ステンレス製品の溶出試験の規格があるイタリアの限度値に適合していた.また,それらのステンレス製品は蛍光X線およびICP分析で鉛とアンチモンは検出されず,日本の食品衛生法の規格に適合していた.