食品衛生学雑誌
Online ISSN : 1882-1006
Print ISSN : 0015-6426
ISSN-L : 0015-6426
61 巻, 4 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
報文
  • 杉山 広, 森嶋 康之, 賀川 千里, 荒木 潤, 巖城 隆, 小松 謙之, 味口 裕仁, 生野 博, 川上 泰, 朝倉 宏
    2020 年 61 巻 4 号 p. 103-108
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー

    回虫は土壌伝播蠕虫の代表となる寄生虫で,ヒトは虫卵に汚染された植物性食品を摂食して感染する.日本では少数の国内感染症例が継続的に報告されているが,症例数の推移や感染源となる植物性食品の汚染状況は不明な点が多い.そこで,近年の回虫症例発生状況および感染源を明らかにするため,日本臨床寄生虫学会誌,PubMedおよび医中誌Webを用いた文献検索,および臨床検査機関・食品検査機関を対象としたアンケートによる聞き取り調査を行った.文献検索の結果では,1990より2018年の29年間に計193例の回虫症例が確認された(年平均6.7例).しかし2002年以降の報告数は激減し,年平均1.3例にとどまった.臨床検体における回虫症例数も,2000から2008年の年平均19.7例が,2009年以降2.8例と激減した.回虫の感染源となる植物性食品は12,304検体が検査されたが,アニサキス類の幼虫が検出された(11例)ものの,回虫は検出されなかった.ただしキムチは,173検体中の1検体から虫卵が検出され,回虫の感染源であることが疑われた.回虫症例は減少傾向が明らかだが,いまだに発生は確認され,このために感染源を特定して予防対策を確立するために,食品の調査を今後も継続する必要があると考えられた.

  • 関村 光太郎, 神田 真軌, 林 洋, 松島 陽子, 吉川 聡一, 大場 由実, 小池 裕, 林 もも香, 永野 智恵子, 大塚 健治, 橋 ...
    2020 年 61 巻 4 号 p. 109-118
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー

    豚筋肉中動物用抗菌剤の一斉分析法として微生物学的スクリーニングとLC-MS/MSによる同定・定量を同時に可能となるように改良した.前処理は豚筋肉を1回目はマキルベン緩衝液(pH 6.0)で抽出し,PLS-3で精製した.2回目はアセトニトリルで抽出し,その抽出溶液を用いてPLS-3に保持させた薬剤を溶出した.微生物学的測定では新たな試験菌を用い,かつ試験平板作製条件を変えた結果,高感度となり,33剤で残留基準値程度の検出が可能となった.また,偽陽性を示さなくなったことに加え,同一試験溶液を機器で測定できるようになったことにより,判定不可能な結果が生じない効率的なスクリーニングが可能となった.

  • 吉成 知也, 渡辺 麻衣子, 大西 貴弘, 工藤 由起子
    2020 年 61 巻 4 号 p. 119-125
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー

    フモニシンはフザリウム属菌が生産するカビ毒で,主にトウモロコシやその加工品に検出される.近年,遊離型のフモニシンに加え,そのモディファイド化合物もトウモロコシ加工品に存在することが報告されてきた.モディファイドフモニシンの毒性や汚染実態については明らかになっていないことが多い.本研究では,日本人の健康に対するモディファイドフモニシンのリスクを評価するために,日本に流通するトウモロコシ加工品に含まれるモディファイドフモニシンを解析した.食品検体中の遊離型とモディファイドフモニシンをまとめてアルカリ処理し,加水分解フモニシンへと変換し,LC-MS/MSで定量した値を全フモニシン量とした.コーンフレーク,コーンスナック,コーンフラワーおよびコーンスープにおける全フモニシン量は,遊離型フモニシンに対してそれぞれ4.7,2.8,2.1および1.2倍であった.全フモニシン量を用いて日本人におけるコーンスナックとコーンフレークからのフモニシンの一日平均摂取量を算出した結果,遊離型フモニシンを用いて算出した場合の3倍となった.これらの結果より,フモニシンの真のリスクを評価するためには,モディファイドフモニシンも含める必要があると考えられた.

  • 佐々木 貴正, 岩田 剛敏, 上間 匡, 朝倉 宏
    2020 年 61 巻 4 号 p. 126-131
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー

    カンピロバクターは,食品媒介性感染症における最も重要な原因菌の1つである.カンピロバクター感染症の際に抗菌薬が使用されることは稀であるが,症状が重度である場合や長期間持続する場合には使用されることがある.カンピロバクター感染症の原因の1つは,カンピロバクターに汚染された牛肝臓の喫食である.牛肝臓は,と畜場において胆汁により表面と内部が汚染される可能性がある.以上のことから,われわれは,と畜場において,胆汁のカンピロバクター汚染状況およびその分離株の性状を調査した.カンピロバクターは35.7%(55/154)から分離され,C. jejuniC. fetusが上位2菌種であった.C. jejuniでは,テトラサイクリン(63.0%)とシプロフロキサシン(44.4%)に高率な耐性が認められた.Multi-locus sequence typingにより,C. jejuniは12型に分類され,ST806が最も多く,37.0%を占めていた.すべてのC. fetusは全身性疾患の原因となることがあるC. fetus subsp. fetusと同定された.C. fetusでは,シプロフロキサシン(66.6%),ストレプトマイシン(58.3%)およびテトラサイクリン(33.3%)に高率な耐性が認められた.すべてのC. fetusは,ST3 (16株)およびST6 (8株)に分類された.16株のST3のうち,15株(93.8%)はストレプトマイシンとシプロフロキサシンの両方に耐性であった.本調査結果は,牛胆汁の高率なカンピロバクター汚染とその分離株の高率な薬剤耐性を示していている.と畜場における牛肝臓の胆汁汚染防止は,カンピロバクター感染のリスク低減策の1つである.

ノート
  • 石﨑 直人, 鎌田 洋一, 古畑 勝則, 小西 良子
    2020 年 61 巻 4 号 p. 132-137
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー

    ブドウ球菌食中毒(SFP)は黄色ブドウ球菌(SA)が産生する嘔吐毒であるブドウ球菌エンテロトキシン(SEs)により引き起こされる.SEsには古典型と新型が存在するが,近年食品から両方の型を有するSAが多く検出されている.なかでもブドウ球菌エンテロトキシンQ (SEQ)はSFPにつながる潜在的なリスクが高いと考えられている新型SEsである.そこで,食品中におけるSAの菌数と古典型SEAおよびSEQの産生量との相関性を,スクランブルエッグをモデルとして条件をpH 6.0,7.0および8.0,塩分濃度0.5および1.0%,静置温度25℃に設定し検討した.SAの菌数はすべての条件で24時間後では107/10 g以上,48時間後では109/10 gとなった.SEAの産生はすべての条件で24時間後に確認された.SEQは,NaCl 1.0%加スクランブルエッグではいずれのpHにおいても24時間後に検出されたが,NaCl 0.5%下でのpH7.0と8.0では24時間では検出されなかった.SEQの産生量はSEA量より少なかったが,SEQは比較的低いpHおよび水分活性のスクランブルエッグにおいては産生されやすく,SFPの発症に関与する可能性があることが示唆された.

  • シャヒーム エラヒ, 藤川 浩
    2020 年 61 巻 4 号 p. 138-142
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー

    黄色ブドウ球菌食中毒は食品中で産生されたブドウ球菌エンテロトキシン(SE)によって起こる.本食中毒はSE型の中で多くの場合,エンテロトキシンA (SEA)が原因物質である.各種食品中での本菌の増殖とSEA産生に関する研究は多いが,パンに関する研究はほとんどない.そこで本研究では通常のパン製造工程において,パン生地発酵中のブドウ球菌増殖とSEA産生性,さらに焼成中のSEA失活について検討した.25または35℃で4時間の発酵中,パン生地(全重量約470 g)中での本菌増殖およびSEA産生は認められず,このような条件の発酵中,生地におけるSEA産生リスクは無視できるほど小さいと推察された.一方,生地に接種したSEA (6.0および0.56 ng/g)は200℃の焼成中それぞれ20および10分後には検出できなかった.この結果は生地の焼成時間(25分)でこれらの濃度のSEAを十分に失活させることを示した.本研究で得られた製造過程における生地中のSEA産生および失活の結果はパン製造における微生物学的な食品安全のための有用な情報となるであろう.

  • 吉光 真人, 上野 亮, 松井 啓史, 小阪田 正和, 内田 耕太郎, 福井 直樹, 阿久津 和彦, 角谷 直哉
    2020 年 61 巻 4 号 p. 143-147
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー
    電子付録

    われわれはLC-MS/MSを用いた迅速簡便な6種類防かび剤分析法を開発した.イマザリル,o-フェニルフェノール,チアベンダゾールに加えて,2011年以降に防かび剤としての利用が認められたフルジオキソニル,アゾキシストロビン,ピリメタニルを測定対象とした.迅速かつ簡単な分析法の確立を目指し,残留農薬分析法と抽出操作を共通化した.また,試料からの抽出液1 mLを充填剤量500 mgのOasis HLBカラムに負荷,アセトニトリル8 mLで溶出する精製法を採用した.次いで,オレンジ,グレープフルーツ,レモンに6種類の防かび剤を添加して添加回収試験を行ったところ,真度は89.7から100.0%,室内精度および併行精度はそれぞれ,1.5から5.0%,0.5から4.9%となり,食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインの目標値を達成した.定量限界は,o-フェニルフェノールでは1 mg/kg,その他の防かび剤では0.2 mg/kgとなり,防かび剤の基準値よりも低い値であった.本分析法の有用性を確認するため,2017~2019年に市販柑橘類の分析を行ったところ,検出された防かび剤は表示との整合性が確認された.また,基準値を超過する濃度の防かび剤が検出された検体はなかった.

調査・資料
  • 小野 高明, 上田 三都子, 辻 正康, 川本 千代実, 山根 伸久
    2020 年 61 巻 4 号 p. 148-153
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー

    福山市内を流通する乳のアフラトキシンM1 (AFM1)汚染と時期および地域による関連性を知るため,2018年6月~2019年1月にかけて夏期および冬期の各1回調査を行った.また,AFM1汚染の知見が少ない乳飲料について,福山市内を流通する同時期の乳飲料のAFM1汚染度を乳と比較した.結果はすべての乳でAFM1の基準値(0.5 μg/kg)未満となった.時期別の比較では夏期の牛乳1検体がEUの基準値(加熱処理乳:0.050 μg/kg)を超える濃度(0.07 μg/kg)を示したが,AFM1汚染度に有意差はなかった(p>0.05).地域別の比較では,乳のAFM1汚染度について冬期は中国地方のほうがその他地方より有意に高く,夏期は有意に低かった.乳のAFM1汚染は,時期または地域による直接的な関連性があるわけではなく,供与する飼料の種類,量,管理方法による影響を受けると考えられた.乳および乳飲料の比較では,乳飲料のAFM1汚染度のほうが有意に低かった(p<0.01).夏期の乳飲料1検体から最も高濃度(0.08 μg/kg)のAFM1を検出した.乳飲料のAFM1汚染は,原材料の汚染の程度,それらの配合割合および加工による影響を受けると考えられ,製品の無脂乳固形分の増加がAFM1汚染の増加要因となると推定された.

妥当性評価
  • 中島 崇行, 大塚 健治, 富澤 早苗, 増渕 珠子, 八巻 ゆみこ, 上條 恭子, 吉川 聡一, 髙田 朋美, 小鍛治 好恵, 渡邊 趣衣 ...
    2020 年 61 巻 4 号 p. 154-160
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/10/02
    ジャーナル フリー
    電子付録

    食品中の残留農薬分析において,ある農薬の定量値が正しいかどうかを確認するため,異なる機器を使用して定量値の確認を行うことがしばしばあるが,それぞれの機器の値が完全に一致することは珍しい.本研究では,食品毎にどの程度違いがあるかを比較するため,当研究室の日常検査法を用い,121成分,6種類(グレープフルーツ,ばれいしょ,パプリカ,キャベツ,ほうれんそう,玄米)の食品について,GC-MS/MSおよびLC-MS/MSそれぞれの機器で妥当性評価を実施し,その結果を主に真度に着目して比較した.その結果,GC-MS/MSでは,上述の食品において97,111,110,118,111,63成分が基準に適合した.一方LC-MS/MSでは,50,114,103,112,100,103成分が基準に適合した.これら両機器の結果の差は,主にマトリクス効果によるものだと考えられ,マトリクス効果の補正によりそれぞれの真度は近似した.しかし真度の一致度については食品試料による差が大きく,特に玄米ではマトリクス効果を補正しても両機器の真度の差は20%以上であった.

feedback
Top