呈色反応を用いたツキヨタケ簡易判別法における呈色化合物を特定した.ツキヨタケのメタノール抽出物から液–液分配により塩基性条件下で呈色する化合物を単離した.この化合物のスペクトル解析を行ったところ,テレフォール酸であることが判明した.テレフォール酸のエタノール溶液とツキヨタケのエタノール抽出液について,両溶液の紫外可視吸収スペクトルおよびビーム試薬(5%水酸化カリウムエタノール溶液)に対する呈色変化を比較したところ,両者で一致した.また,LC-MS/MSを用いて,ツキヨタケおよび食用のムキタケ,ヒラタケ,シイタケ中のテレフォール酸を分析したところ,ツキヨタケのみからテレフォール酸が検出された.以上のことから,当該呈色反応における呈色化合物がテレフォール酸であり,少なくとも前述3種の食用キノコとツキヨタケの鑑別において有用であることが裏付けられた.
多層構造のラミネートフィルムは食品包装材として多用されている.それらに含まれている物質は食品へ溶出する可能性があるが,その実態は知られていない.本研究では,食品用ラミネート袋42試料に含まれる24元素の含有量をICP-OESおよびICP-MSにより定量した.その結果,17元素(Na, Mg, Al, P, Ca, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Cu, Zn, Sr, Sn, SbおよびPb)が検出され,7元素(K, Ni, Ge, As, Ag, CdおよびBa)は定量下限未満であった.検出された元素はアルミニウム層の不純物,金属触媒,顔料や接着剤などに由来するものと推測された.次に,これらのうち14試料について,食品擬似溶媒(水および4%酢酸)を用いて溶出試験を実施した.Sb, SnおよびAlの最大溶出量は0.11, 5.5および74.8 ng/mLであり,その他の元素は定量下限未満であった.SbおよびSnは食品非接触層から溶出した可能性が示唆された.
味噌汁中のテトロドトキシン(TTX)分析法において,強陽イオン交換固相抽出で精製し,LC-MS/MSで分析する方法を検討した.強陽イオン交換固相抽出を用いた精製では,負荷溶液中の塩分濃度が回収率に強く影響した.負荷溶液を希釈して塩分濃度を下げると,洗浄時の回収率低下を抑制できることが分かった.しかし,負荷時には,希釈による固相への保持向上と負荷溶液量の増加によるTTXの溶出量増加の影響が相殺され,希釈による回収率向上効果は認められず,負荷に供する抽出液量が重要であることが明らかとなった.また,溶出溶媒に揮発性塩である酢酸アンモニウムを用いる方法を試み,良好な回収率が得られる条件を決定した.開発した試験法により味噌汁試料を対象に味噌の種類,塩分濃度およびTTX濃度による添加回収試験を実施した結果,いずれのケースでも80%以上の良好な回収率が得られた.
乳酸菌等微生物がカビ毒と結合能を有し,減毒効果を示すことがよく知られている.結合能を測定する方法としてin vitro法が一般的に用いられており,我々もキュウリから単離した乳酸菌(L. lactis, AZ 132)がアフラトキシンに高い結合能を示すことを報告している.しかし,この方法は間接的に結合能を推測する方法であり時間がかかる.本研究では表面プラズモン共鳴イメージ(SPRi)を用いて,カビ毒と乳酸菌との結合能をリアルタイムで直接的に迅速に検出する方法を開発し,アフラトキシンM1 (AFM1)およびデオキシニバレノール(DON)との結合能をin vitro法と比較した.SPRiのリガンドとしてAFM1-牛血清アルブミン(BSA)およびDON-BSAを用いた.In vitro法では生菌および死菌ともAFM1でDONよりも強い結合率が認められた.SPRi法では生菌ではAFM1との結合が屈折率(%ΔR)の変化および視覚的に確認できた.DONに弱い結合が見られたが,熱処理菌はいずれのカビ毒に対しても結合が見られなかった.これらの結果から,生菌を用いたSPRi法で,in vitro法とほぼ同等の結果がリアルタイムで見られたことから,本測定法はデトックス効果の高い乳酸菌の迅速スクリーニング法として有効であることが示唆された.
乾燥食品の放射性セシウム検査では,乾燥状態での分析結果を厚生労働省が示す重量変化率を用いて飲食に供される状態の濃度に換算し,検査結果とすることが認められているが,重量変化率が示されている乾燥食品はごく一部に限られている.乾燥食品の基準値への適合判定を適切に行うためには,科学的知見に基づいて設定された個々の乾燥食品の重量変化率を用いることが理想的である.そこで,比較的高濃度の放射性セシウムが検出されやすく,重量変化率が基準値への適合判定に及ぼす影響が大きい乾燥コウタケの重量変化率を検討した.乾燥コウタケの重量変化率は4.2~6.9 (平均値5.7)であり,平均値は現在適用されている重量変化率4.0より1.4倍大きい値となった.一方,重量変化率の最小値は4.2であったことから,本検討結果から安全側に配慮して保守的に設定する場合,現在適用されている重量変化率は乾燥コウタケの重量変化率として妥当であると考えられた.しかし,乾燥コウタケ個別の重量変化率の設定や現在適用されている重量変化率の妥当性評価のためには,さらに多くのデータを収集する必要があると考えられた.
有毒植物,毒キノコおよびそれらの調理品に適用可能な植物毒26種およびキノコ毒11種を対象としたLC-MS/MSによる迅速かつ高感度な一斉分析法を確立した.本分析法は,Scherzo SS-C18カラムを用いることで,高極性で低分子量の化合物を含む多様な37種の有毒成分を10分以内で高選択的に測定可能である.試料からの抽出および精製方法として,メタノールおよびトリクロロ酢酸で抽出後,Captiva EMR-Lipidで精製する方法を採用した.試験溶液のメタノール濃度を50 vol%とすることで,多くの成分においてマトリックスの影響が改善された.6種類の食品試料を用いて分析法の性能評価を実施した結果,添加濃度1 mg/kgにおいて,回収率56.0~180.5%(96%以上の成分が70~120%の範囲内),併行精度16.0%以下(98%以上の成分が10%以下)と健康危機管理のための分析法として十分な性能を満たした.また,過去の健康被害事例において原因と疑われた調理残品や参考品から,想定された有毒成分を迅速かつ高感度に検出することができた.
抗甲状腺薬の2-チオウラシルは牛の体重を増加させる目的で使用されることがある.しかしながら,欧州連合(EU)では2-チオウラシルの使用が禁止されており,EUへ牛肉を輸出する際は牛尿のモニタリング検査が求められている.本研究では牛尿中の2-チオウラシル,4-チオウラシルおよび6-メチル-2-チオウラシル分析法を確立し,性能評価を実施した.本分析法は,試料に塩酸およびエチレンジアミン四酢酸溶液を加えて安定化させた後,3-ヨードベンジルブロミドで誘導体化し,ジビニルベンゼン-N-ビニルピロリドン共重合体ミニカラムで精製した後,LC-MS/MSで測定する方法である.牛尿を用いて添加濃度10 μg/Lで分析法の性能を評価した結果,真度94~97%,併行精度5%未満および室内精度8%未満となり,良好な結果が得られた.定量を妨害するピークは認められず,選択性に問題はなかった.本分析法は,EUへの牛肉輸出時のモニタリング検査で2-チオウラシルが検出された際に4-チオウラシルまたは6-メチル-2-チオウラシルのいずれかを検出することで,2-チオウラシルの不正使用によるものか,アブラナ科植物を含む飼料を与えたことによるものかを判別する方法として有用と考えられた.