本研究では,実際の食肉処理施設で取り扱われる部分肉の大きさで,表面の志賀毒素産生性大腸菌(STEC)を完全に除去できる過酢酸製剤の使用条件を決めることを目的とし,Escherichia coli O157:H7を接種した肉片を過酢酸製剤に浸漬させた際の殺菌効果を評価した.ともばらの小肉片(5 cm×5 cm×5 cm)を用いて,過酢酸製剤への浸漬時間を検討した結果,900 ppmと1800 ppmのいずれの濃度でも,浸漬時間が長いほど高い殺菌効果が得られた.過酢酸濃度を検討するために,5部位の小肉片を用いて900 ppmと1800 ppmに30分間浸漬させたところ,900 ppmでは菌数の減少が2.6~4.0 log CFU/cm2と部位によって違いが見られたが,1800 ppmでは3.9~4.1 log CFU/cm2以上減少し,すべての部位で検出限界値となった.部分肉を想定した9部位の大きい肉片(5 cm×20 cm×20 cm)を用いて,殺菌効果の検証を行ったところ,過酢酸濃度1800 ppmの製剤に30分間浸漬させることで,部分肉表面に接種したE. coli O157:H7が約3.5~3.8 log CFU/cm2以上減少し,検出限界値未満となった.部分肉表面の菌数を踏まえると,過酢酸濃度1800 ppm,30分間の殺菌条件は,部分肉表面のSTECの完全な除去に有効であると考えられた.
各種ミネラルウォーター類(MW)におけるシアン(シアン化物イオンおよび塩化シアン)の測定条件を検討し,妥当性を確認した.MWには,炭酸含有の有無,硬度の高低など様々な製品がある.既にシアン分析において妥当性を確認した水道水質の測定条件を用いた測定では,炭酸含有のMW中のシアン化物イオンおよび塩化シアンの真度が妥当性確認ガイドラインの目標値を満たさなかった.また,前処理のpH調整において,一部のMWでは水道水質試験で想定されているpHが約2.4にならなかった.そこで,試料をリン酸緩衝液で5倍希釈して測定するとpHは約2.4になり,真度は改善された.この5倍希釈した試料を用いて妥当性確認を行ったところ,真度は93.0~103.8%,併行精度は3.83%以下,室内精度は4.68%以下であり,いずれの対象物質とも妥当性確認ガイドラインの目標値を満たした.これらの結果により,本法は様々な種類の市販MW中のシアン化物イオンおよび塩化シアンを精確に測定できる有用な方法であると考える.
LC-MS/MSを用いたミネラルウォーター(MW)製品中のクロロ酢酸類の一斉分析法を開発した.当分析法はMW中のクロロ酢酸類の分析に係る通知法を一部変更することで確立した.通知法ではLC-MS/MS分析における試料中のマトリックスによるイオン化抑制またはイオン化促進を防ぐため,陽イオン交換樹脂カラムを用いて試料中のマトリックスを除去するが,これには時間とコストがかかる.今回開発した分析法は,LC-MS/MSへの注入量を減少させることでこの工程を省略できるため,迅速かつ低コストな分析が可能である.硬度および炭酸の有無の異なる様々なMW試料を用いて当分析法の妥当性を確認したところ,真度,併行精度および室内精度はそれぞれ95.3~104.3%,1.1~2.9%,2.4~6.4%であり,厚生労働省の妥当性ガイドラインの目標値を満たしていた.当分析法の適用性を確認するため,30種類のMW製品を用いてクロロ酢酸類の添加回収試験を実施したところ,回収率は91~108%だった.以上の結果から,当分析法はMW製品中のクロロ酢酸類の分析に適用可能であると考えられた.
標準溶液による絶対検量線を用いたLC-MS/MSでの残留農薬一斉分析法を開発し,その妥当性評価を行った.当研究室で農産物中の残留農薬検査に用いている,アセトニトリル抽出,脱水・塩析による水との液液分配および固相カラムによる精製法を,緑茶葉に適用可能なようにアセトニトリルとヘキサン洗浄蒸留水の量および固相カラムの種類について検討を行った.その結果,試料2.0 gにヘキサン洗浄蒸留水10 mLを加え静置後,アセトニトリル25 mLで抽出することとした.脱水・塩析後,得られたアセトニトリル層をInert Sep® PLS-3 (200 mg/ 20 mL)とSupelcleanTMENVI-CarbTMII/PSA (300 mg, 600 mg/ 6 mL)の連結カラムで精製することで,緑茶葉中の成分による農薬の定量への影響を大幅に改善できた.本法について, 2濃度(0.01 mg/kgおよび0.1 mg/kg), 2併行5日間の添加回収試験を実施した.92農薬中84農薬で,食品中に残留する農薬等に関する試験法の妥当性評価ガイドラインで定める目標値に適合した.本法における定量限界は,0.01 mg/kgと一律基準レベルに設定可能であった.本研究により,改良した分析法は緑茶葉中の残留農薬の定量分析に有用であることを示した.