畜産物中の残留動物用医薬品は,食品衛生法により基準値を超過した食品の流通が禁止されている.畜水産物は鮮度や品質が時間とともに劣化するため,迅速かつ高精度な検査方法が求められている.本研究では,販売量上位を占めるテトラサイクリン系抗生物質を必須分析対象として,多成分同時分析法の開発を目的に研究を行った.迅速性の観点から抽出にはQuEChERS法をベースとし,精製には膜ろ過精製(SPEEDIA)法を用いた.抽出条件(溶媒種,キレート剤の濃度,pH)ならびに精製工程を最適化した結果,豚筋肉試料においてテトラサイクリン系抗生物質4種を含む全体の約9割の化合物が,妥当性評価ガイドラインの回収率および精度の目標値を満たすことを確認した.さらに通知試験法と比較して,前処理時間の大幅な短縮や有機溶媒使用量の削減が可能であることが示された.本法は豚筋肉中における多成分の動物用医薬品を同時分析可能な簡易・迅速分析法として有用であると考えられる.
小麦において基準値が設定されているデオキシニバレノール(DON)と今後小麦と大麦において基準値の設定が予定されているオクラトキシンA (OTA)について,効率的な検査体制の構築に寄与するために,小麦における同時分析法の開発を行った.小麦からの抽出液を多機能カラムで精製し,LC-MS/MSで定量を行うDONとOTAの同時分析法を考案し,国内の10分析機関による試験室間共同試験を実施した.その結果,得られたパラメーターはクライテリアを満たしたことから妥当性が確認された.さらに,DONの公定法及び汚染調査で用いられたOTAの分析法でそれぞれのかび毒を単独に分析する場合と同等の分析値が同時分析法により得られるかを検証するために,DONとOTAの人工共汚染小麦を用いた検討を実施した.その結果,開発した同時分析法では,DONとOTAともに単独で分析する場合と同等の分析値が得られた.これらの結果より,本研究にて開発した小麦中のDONとOTAの同時分析法は,それぞれのかび毒を単独で分析する方法の代替法として用いることができると考えられた.
【目的】処理条件の異なる3群におけるジビエ肉の微生物検出状況を比較する.
【方法】令和元年11月から令和5年3月までの41か月間に,大分県および大阪府で捕獲されたジビエ個体を①現地解体群(n=8),②簡易的拠点解体群(n=30),③食肉処理業施設解体群(n=223)の3群に分類した.腹腔内部および臀部筋肉を拭き取り,フードスタンプ培地により一般細菌,大腸菌群およびブドウ球菌を培養した.群間比較にはFisherの正確確率検定を用いた.
【結果】現地解体群および簡易的拠点解体群では全例で何らかの菌が検出されたのに対し,食肉処理業施設解体群ではいずれの菌も検出されなかった(p<0.001).簡易的拠点解体群では検出率はやや低下したが,有意差は認められなかった.
【結論】現地解体群および簡易的拠点解体群では,食肉処理業施設解体群に比べて指標菌の検出率が高かった.ただし,これは処理環境の影響を示唆する観察所見であり,因果関係を直接示すものではない.一方,本研究は観察研究であり,地域差,捕獲法差,季節差,現地解体群の少数例性,搬入前選別によるセレクションバイアスの影響を分離して評価したものではない.
酸化エチレン(ETO)は発がん性を有する燻蒸剤であり,食品への使用は多くの国で禁止されている.現在,ETO燻蒸の指標としてETOおよび2-クロロエタノール(2CE)が用いられているが,ETOは揮発性が高く直接検出が困難であり,2CEは自然生成が報告されているため特異性に課題がある.本研究では,クミン種子を対象にプロセッシングメタボロミクスを適用し,ETO燻蒸に伴う化学変化を解析した.その結果,燻蒸特異的代謝物により燻蒸試料と非燻蒸試料は明確に識別された.高分解能GC-QTOF/MSにより,分子式C6H10O6にETOが1分子付加したリンゴ酸ETO付加体を検出し,標準品を用いたin vitro試験で生成を確認した.本化合物はETO燻蒸したゴマおよびダイズにも検出され,非燻蒸試料では検出されなかったことから,ETO燻蒸により栄養成分修飾体が生成することを初めて直接的に示した.以上の結果から,本化合物は従来の2CEとは異なる新たな燻蒸マーカーの有力な候補と考えられた.
牛筋肉中のスチルベン類(ジエチルスチルベストロール,ジエネストロール,ヘキセストロールおよびそれらの抱合体)の分析法を開発した.本分析法は,試料に内標準物質を添加後,エタノール/水(9 : 1, v/v)で抽出し,β-グルクロニダーゼ/アリルスルファターゼによる加水分解を行った後,親水性基修飾スチレンジビニルベンゼン共重合体およびアミノプロピルシリル化シリカゲル固相抽出カートリッジで精製し,LC-MS/MSで測定する方法である.ジエチルスチルベストロール,ジエネストロールおよびヘキセストロールについて,牛筋肉を対象として添加濃度0.5 μg/kgで妥当性評価を行った結果,真度94~100%,併行精度5%未満,室内精度8%未満の良好な結果であった.本分析法は日本で規制されているジエチルスチルベストロールおよびその抱合体に加え,EUで家畜への成長促進目的での使用が禁止されているジエネストロールおよびヘキセストロールについても定量可能な方法である.これらの抱合体については直接的な検証は行っていないが,ジエチルスチルベストロール抱合体との類似性から定量可能と推察された.
ポリカーボネート製器具・容器包装の材質試験におけるジフェニルカーボネート(DPC)およびビスフェノールA (BPA)類試験法について,DPCの分解などの課題に対応したうえで,改良分析法を構築し,その性能を評価した.なお,BPA類の規格は,BPA,フェノール(PH)およびp-tert-ブチルフェノール(BuPH)の合算として定義されている.改良分析法の併行精度,室内精度,真度は,3濃度においてそれぞれ,DPCで0.1~0.3%,0.3~0.9%,および98~100%,BPAで0.2~0.3%,0.3~1.5%,および101~102%,PHで0.2~0.4%,0.4~0.7%,および97~98%,BuPHで0.2~0.4%,0.2~0.4%,および99~100%と推定された.これらの結果から,改良分析法は規格を適否判定する分析法として有用であることが示された.
熱分解GC-MSを使用して食品用容器包装の分析を行い,ポジティブリスト(PL)制度への適合性判定に適用可能か検討した.発生ガス分析法により得られたサーモグラムから,熱脱着分析法および熱分解分析法の加熱条件を決定し,熱脱着分析法により添加剤などの揮発性成分や残存モノマーを,熱分解分析法によりポリマー成分など基材の推定を試みた.同じ目的で開発・検討されている既報と同様,非意図的添加物質との判別も困難で,推定不能なピークもあるなど,PLへの適合性を判定する検査法としての課題が明確になったが,本試験法は,既報に比べ試料量も少なく前処理も不要なため,検査において大幅な省力化や分析時間の短縮が見込まれる.また,一連の分析により材質の識別も可能で,添加剤も低レベルで検出できる方法であることから,PL制度に係る監視指導等の一助となる有用な分析法であることが示唆された.
食品に接する手袋は,食品衛生法に適合しなければならない.しかし,食品営業許可施設において必ずしも食品衛生法の規格に適合した手袋が使用されているとは限らない実態が報告されている.本研究では,ポリ塩化ビニル製手袋を対象に蒸発残留物試験を実施するとともに,溶出物の定性分析を行い,ポジティブリストへの適合性を確認した.さらに,6種のフタル酸エステル類について含有量および溶出量を定量した.その結果,食品衛生法適合の記載がある検体は規格を満たしていたが,食品衛生法適合の表示がない,もしくは適合であるか不明な検体は,いずれもヘプタンを擬似溶媒として用いた蒸発残留物の規格値を超過した.また,主な溶出物を確認した結果,2検体からポジティブリストに収載されていない物質が検出された.6種のフタル酸エステル類について含有量および溶出量を測定した結果,1検体はフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)を含有しており,溶出量は約3000 μg/mLであった.食品営業許可施設に対して,食品衛生法に適合の製品の使用を促す指導の必要性と,一般消費者への注意喚起が必要であると考えられる.