小児耳鼻咽喉科
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43 巻, 1 号
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追悼文
特別講演
  • 森内 浩幸
    2022 年 43 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルスは罹れば誰もが重症化するウイルスではなく,健康な子どもにとっては基本的に風邪のウイルスである。逆に,感冒コロナウイルスも,高齢者や基礎疾患のある人が罹ると重症化することがあり,重症化はウイルスそのものの性質というよりは宿主側の免疫応答の違いがもたらすものと言える。子どもにとっては,RSウイルスやインフルエンザウイルスの方が遥かに危険なウイルスである。また子どもの新型コロナウイルス感染の多くは大人からもたらされているものであり,子どもの感染は社会における流行の最終ステージと言える。子どもでも重症化のリスクとなる基礎疾患を持っている場合は注意が必要であり,周囲の大人と本人へのワクチン接種が望まれるが,健康な子どもへのワクチン接種はベネフィットとリスクのバランスを十分に検討すべきだ。

シンポジウム1―高度難聴児の診療と療育
  • 神田 幸彦, 佐藤 智生, 吉田 晴郎, 小路永 聡美, 熊井 良彦, 高度~重度難聴幼小児療育GL作成委員会
    2022 年 43 巻 1 号 p. 8-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    昨年「小児人工内耳(以下CI)前後の療育ガイドライン(以下GL)」が発刊され,先行の厚労省研究結果を抜粋して解説した。全国の調査で,新生児聴覚スクリーニング(以下新スク)を受けたCI小児は2,358名中59.3%未満であり,地域格差が見られた。また,低年齢の両耳装用児が増加していた。補聴器装用開始平均年齢が1歳未満である小児の割合は新スクを受けたCI児(約75%)がそうでないCI児よりも10倍近く多かった。通常小学校に在籍する小児の療育方法では,聴覚活用療育が約70%であり,聴覚活用をすることで通常学校により進学しやすい。新スクにより早期に難聴が診断されることで,難聴児が聴覚を活用できる方向性が明らかになっていた。CI難聴児の療育格差改善のため厚生労働省研究が採択されその成果の一つである「CI装用前後の療育のGL」は,多数のエビデンスレベルの高いCQと解答で構成され,信頼性のある重要な今後も活用できるGLと考えられた。

  • 高木 明
    2022 年 43 巻 1 号 p. 18-23
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    我が国の新生児聴覚スクリーニング,精密聴力検査機関,療育・介入の現状,課題について延べ,今後の方策に言及した。新スクに関しては結果の全数の可及的即時把握が肝要となるのでそれらを集約,coordinateするセンターが必要であり,今後は新スクの受検率,精度向上のためには産科との協働は欠かせない。里帰り出産などの結果把握のためには新スクは国による義務化が望ましく,また,産科,精密聴力検査機関からデータはon line入力(電子化)されるべきである。精密聴力検査機関の質の均てん化を図り,3ヶ月以内の診断ができるような体制を整える必要がある。人工内耳術後の療育・介入については現状では特別聴覚支援学校が担うことが多いが,音声言語獲得をめざす療育として十分とは言えず,専門家の養成が待たれる。

シンポジウム4―気道障害の診療と療育
  • 宮本 真
    2022 年 43 巻 1 号 p. 24-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    『療育』とは,障害を持ちつつ成長する子どもを,「医療」「治療」といった医学的側面のみではなく,「教育」「保育」といったさまざまな側面と合わせて,子どものできる能力を支える総合的な取り組み,とされている。

    ヒト喉頭は,発声・発語,呼吸,嚥下に関わる重要な機能を有し,これらの障害はコミュニケーション障害,呼吸障害,嚥下障害を生じる。特に気管切開児や嚥下障害児においては,患児それぞれへのアプローチやゴールが異なってくるため,その児の特性に合わせた子育てを心掛け,われわれ医師のみではなく,歯科医師,看護師,保育士,保健師や心理士,ST/PT/OTなど多くの人ができる限り情報を共有して,子どもに向き合っていく必要がある。

    最近は,子どもへの支援のみではなく,療育を行う中心である家人(主に両親)にもしっかり目を向けて支援を行う必要があり,この両者が療育の両輪とされている。

シンポジウム5―頭頸部リンパ管腫の診断と治療
  • 小関 道夫
    2022 年 43 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    頭頸部リンパ管腫や,リンパ管腫症,ゴーハム病の多くは,難治性かつ致死的であり,難治性リンパ管疾患とされているが,現時点では本疾患に対する薬物療法はコンセンサスが得られているものはなく,承認されている薬剤もない。近年,mTOR阻害剤であるシロリムスがこれらの疾患の病状を高い確率で抑えることが国内外で報告されている。我々は2016年に日本医療研究開発機構より研究を獲得し,リンパ管疾患(リンパ管腫,リンパ管腫症,ゴーハム病)に対するシロリムス錠の医師主導治験を実施したところ,高い有効性を認めた。さらに2020年より,小児用製剤である顆粒剤を加え,その他の難治性脈管異常に対する治験も開始し,世界初の薬事承認を目指している。本稿ではリンパ管疾患に対する有効性,安全性のまとめと実際の治療,および今後の展望について解説する。

  • 上野 滋
    2022 年 43 巻 1 号 p. 35-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    小児においても気切は様々な病態に必要となるが,頭頸部および縦隔に及ぶリンパ管腫(リンパ管奇形)は上気道閉塞をきたす疾患のひとつで,気道閉塞が重度であれば,気道管理は必須となる。近年,胎児期においても発見診断されるようになり,気道閉塞症状の有無を予想した上で,生後早期から気道管理を行うことが求められる。厚生労働省研究班リンパ管疾患グループの行った2015年全国調査や文献的検討の結果,本症における気切の適応については,閉塞症状や急性腫脹,出血などのある例や,病変の気道と接触する範囲が広範な例では考慮すべきと考える。しかし,気切が発語や言語理解の発達や家族に多大な影響を及ぼす可能性があることを考え,気切が置かれた場合には,可及的早期の気切閉鎖を行うことが求められる。

シンポジウム6―気管切開が必要な子どもの診療と療育
臨床セミナー
  • 田中 英高
    2022 年 43 巻 1 号 p. 51-56
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    子どものめまいの原因として,起立性調節障害(OD)は重要な位置を占める。昨年来,中国武漢発のコロナパンデミックが,世界中に莫大な損失を与え続けている。日本の子ども達への悪影響も強く,感染対策による外出自粛や休校による生活スタイルの変貌によって,ODが増加した。

    ODは起立時の脳や身体への循環調節障害を生ずる自律神経機能不全であり,めまい,立ちくらみ,ふらつきの他に,朝起床困難,頭痛,気分不良などの体調不良を伴う。診断には日本小児心身医学会によるOD診断・治療ガイドラインが役立つ。新起立試験を行い,心拍血圧反応によってサブタイプを決定し,ガイドラインに従った治療を行う。新起立試験が正常であれば,外出自粛によるdeconditioning,さらに心理社会的ストレスによるストレス関連症状としてのめまいを考える。当該ストレスには,家庭ストレス,学校ストレスがあるが,その背景に神経発達症が関与することも多い。その場合,こどものこころ専門医へ依頼することが望まれる。

  • 酒井 規夫
    2022 年 43 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    小児疾患は小児期に発症する疾患という意味では非常に幅広く,感染症や免疫疾患,炎症性疾患,先天異常など様々です。また,これらの疾患は様々な成因をもって発症しますが,近年臨床遺伝学の進歩からこの中の多くの疾患に遺伝因子が関わっていることがわかってきました。

    本項では先天異常に分類される疾患群の分類,成因を概観し,それらの疾患に対する遺伝学的検査の意義や留意点をまとめてみたいと思います。そして,その遺伝因子の関与する疾患を持った家族に対する遺伝カウンセリングの意義や遺伝医療の今後の展望について述べたいと思います。

ランチョンセミナー
  • 金丸 眞一
    2022 年 43 巻 1 号 p. 61-69
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    鼓膜再生療法は,2019年11月に健康保険適用となった。鼓膜再生療法は,従来の再建医学とは全く異なる再生医学の概念を基盤にした新しい治療法である。皮膚切開や自己組織の採取は不要で,それに伴う後遺症などはない。自己修復能を最大限に高め正常鼓膜の再生を促進する治療である。小児例でも95%という高い鼓膜再生率が得られたが,成人例と比較して2回までの再生率はやや低く,再穿孔率はやや高かった。これには耳管機能の問題や禁止事項を守れないことなどが影響していると思われる。一方,先天性真珠腫症例など鼓膜穿孔がない症例に対する応用は,全例で成功し極めて有効である。

    小児例への応用は,年齢,乳突蜂巣の発育度合,耳管機能の検討,アレルギー性鼻炎など個々の症例に応じ慎重に対処する必要があるが,将来の長い小児に対する低侵襲・短時間で正常鼓膜の再生や気骨導差の極めて少ない聴力改善が期待できる鼓膜再生療法は有効な治療法と考えられる。

原著
  • 松原 茂規, 澤田 正一
    2022 年 43 巻 1 号 p. 70-76
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    今回我々は,小児急性上顎洞炎からChlamydophila pneumoniaeC. pneumoniae)を検出した初めての臨床例を報告する。小児急性上顎洞炎36例(5~14歳)について,上顎洞穿刺洗浄を行い,貯留液からPCRを用いて呼吸器系細菌を検査し,そのうち4例でC. pneumoniaeを検出した。4例の年齢は8~10歳で,男児3例,女児1例であった。また4例のうち3例はC. pneumoniaeのみを検出し発熱はなく,1例はC. pneumoniaeH. influenzaeを検出し発熱を認めた。この結果からC. pneumoniaeが小児急性鼻副鼻腔炎の原因菌の可能性があることが示された。小児急性鼻副鼻腔炎において,特に遷延例やペニシリンやセフェム系抗菌薬無効例では,C. pneumoniaeの可能性を念頭において治療する必要があると思われた。

症例報告
  • 大塚 雄一郎
    2022 年 43 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    鼻腔内に萌出する逆生歯牙を固有鼻腔内逆生歯牙とよぶ。固有鼻腔内逆生歯牙は鼻閉,鼻出血,鼻内違和感,嗅覚障害,顔面痛,頭痛などの症状を呈することがある。一方で無症候性のことも多く小児では40%が無症状で発見される。症例は9歳女児,健康診断で右鼻内異物を指摘され耳鼻咽喉科を受診した。症状はなかった。鼻内所見で右総鼻道底に白色病変を,CTでも同部位に歯牙を思わせる石灰化病変を認めた。無症状であったが,確定診断や将来的な感染リスクの可能性を考え,家族と相談の上で全身麻酔下に摘出した。摘出病変の形態は犬歯様で,病理検査の結果,歯牙と診断された。摘出は容易で術後は問題なく経過している。無症候性の逆生歯牙については手術を推奨するとの報告が多いが,リスク・ベネフィットとインフォームドコンセントの観点を重視して治療方針を決定するべきである。

  • 安藤 喬明, 吉冨 愛, 馬場 信太郎
    2022 年 43 巻 1 号 p. 81-86
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    小耳症は外耳道狭窄症や閉鎖症を合併することが多く,外耳道線維性閉鎖では真珠腫が生じうるため,耳介周囲の蜂窩織炎では,外耳道真珠腫の感染の可能性がある。今回我々は小耳症・外耳道閉鎖症で感染契機に判明した真珠腫に対して外耳道形成術を施行した2例を経験した。症例1は10歳男児で生下時より右小耳症,3歳時のCTで右外耳道線維性閉鎖を認めた。10歳時に耳痛と血性耳漏で再診し,CTで骨破壊を伴う軟部組織の増大を認め,外耳道真珠腫の感染を疑い,外耳道真珠腫除去,外耳道形成術を行った。術後聴力は改善した。症例2は3歳女児で生下時より左小耳症,1歳時のCTで左外耳道線維性閉鎖を認めた。3歳時,耳痛と血性耳漏で再診し,CTで外耳道軟部組織の増大を認め,外耳道真珠腫の感染と考えた。外耳道真珠腫除去,外耳道形成術を行い,術後聴力は改善した。外耳道線維性閉鎖では外耳道真珠腫を早期発見し,手術することが重要である。

  • 千葉 恭久
    2022 年 43 巻 1 号 p. 87-96
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/07/31
    ジャーナル フリー

    【はじめに】機能性難聴は,純音聴力閾値と他の聴覚検査結果や通常の音声弁別との間に不一致が生じる難聴である。今回は,機能性難聴と考えられる病態を示した6名の片頭痛または前庭性片頭痛の子供達の経過を報告する。

    【経過】2019年3月から2020年7月までに子供達は受診した。初診時の4点平均聴力レベルは32.5 dBから62.5 dBだったが日常会話・各種検査結果はほぼ正常であり,彼らは機能性難聴と診断された。問診では片頭痛関連の訴えが聴取され,赤外線CCDカメラによる観察では片頭痛や前庭性片頭痛患者に認められる眼球・眼瞼の異常運動所見が得られた。彼らの片頭痛治療は漢方薬で行われ,聴力以外の症状や所見の改善には4ヶ月から12ヶ月の時間を要したが,聴力はほぼ3ヶ月以内に全員25 dB以下となった。

    【結論】片頭痛・前庭性片頭痛の治療により難聴が改善したことから,これらの病態と機能性難聴とは関連があると考えられた。

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