宗教にも似た情熱をもつ人々によって広められ, ほかの人々からは懐疑的に見られながらも, 適応制御はほぼ40年間にわたり魅力的で, 興味深い, そして, 自動制御の分野の中で, しばしば誤解された領域の1つであった. 実際に直面している欠点 (たとえば, 性能の問題は適切に扱われていない) にもかかわらず, 適応制御は最初に考えられたものからはるかに進歩してきた. 表面上は無関係な発見的な考え方がある程度集積し, 今日では適応制御は, 基本概念と原則的な方法による構成法を説明するのに役立つ本格的な基本理論に基づいている. 理論的発展に寄与した早期における進歩は, 今日では古典となった単一入力単一出力の“モデル規範問題”の定式化と解答であった. 問題の解答に対するおもな障害は高い“相対次数”のノミナルなプロセスモデルの取扱いであった. この相対次数の問題への挑戦には多くの人々が従事し, 数年間にわたって行われた. この問題の最初の解答は1970年代の後半に現れ, 今日“積分器のバックステッピング”と呼ばれているものが用いられた. 2番目の解答は約3年後に現れ, “誤差の正規化”の考えに基づいたものであった. 後者の手法は前者よりも概念的により洗練されたもので, バックステッピングにより与えられた形よりはるかに簡単な全体の制御アルゴリズムを導出した. その結果, バックステッピング法は全体的に誤差正規化法によりその光彩を失い, ほぼ15年間もそのままであった. 皮肉なことに, 積分器のバックステッピングは適応および非適応系の両方においてある種の非線形性を取り扱える特有の能力のために最近になって復活し, 注目されるようになった. 本稿の目的は, バックステッピングとは何かを説明し, 古典的なモデル規範の問題に対するバックステッピングの解答の発見に至る取組みを詳述し, 現在の適応制御の広い状況下におけるこの仕事の意味を論じることにある.
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