硫黄ドープ型酸化チタンは,可視光応答型の光触媒である。本論文では,可視光照射条件下における薄膜処理した硫黄ドープ型酸化チタンの
E. coliに対する抗菌効果を評価した。その結果,薄膜処理した硫黄ドープ型酸化チタンは,酸化チタンよりも高い抗菌活性を示した。しかしながら,硫黄ドープ型酸化チタンは,可視光(1,700 lx)照射180 分後においても,
E. coli懸濁液(初発濃度:10
6 CFU/mL)を完全に不活性化することは出来なかった。そこで,さらに抗菌活性を促進させる為に,銅・銀・ニッケルの添加効果を検討した。その結果,いずれの金属添加条件下においても,抗菌活性の増大が見込めた。特に,銅添加効果が最も高かった為,銅添加濃度における影響を調査した。その結果,至適添加条件は,4-7%の場合であった。この時,可視光(1,700 lx)照射5分後で,
E. coli懸濁液(初発濃度:10
6 CFU/mL)が検出限界以下となった。本論文によって提案された銅添加硫黄ドープ型酸化チタンは,光強度に依存的に抗菌効果を発揮するが,日常的な光強度である650 lxにおいても,高い抗菌活性を発揮した。実際に,老人ホーム(福岡県北九州市)のトイレで実証試験を行った所,銅添加硫黄ドープ型酸化チタンを施工したトイレでは高い抗菌効果を示した。これらの結果より,銅添加硫黄ドープ型酸化チタンは非常に有効であり,新たな衛生素材としての可能性が示唆された。
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