室内環境
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13 巻, 1 号
室内環境
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 塚原 伸治, 中島 大介, 藤巻 秀和
    2010 年 13 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/06/01
    ジャーナル フリー
    近年,胎児や小児に対する環境リスクの増大が懸念され,環境中の化学物質に対する子供の健康影響について関心が払われている。発達途上にある胎児や小児の脳は性的に分化する。発達期の精巣から分泌されたテストステロンの働きは脳の性分化にとって重要である。成人男性や成熟雄ラットの血中テストステロン濃度はトルエン曝露により低下する。我々は,発達期のラットの血中テストステロン濃度がトルエン曝露によって低下することを明らかにした。また,テストステロンレベルの低下は,精巣のテストステロン産生に関与する酵素である3β-HSDの発現量の減少が一原因であることを示した。性分化した脳には,構造の性差がみとめられる部位(性的二型核)が存在する。ラットの性的二型核の一つであるSDN-POAの体積とニューロン数は雄において雌よりも優位である。最近の我々の研究から,発達期にトルエンを曝露した成熟雄ラットのSDN-POAの体積が正常雄ラットよりも縮小していることが示唆された。本稿では,我々の研究知見をふまえて,脳の性分化におよぼす発達期トルエン曝露の影響とその作用機序について論じる。
  • 堀 雅宏
    2010 年 13 巻 1 号 p. 9-19
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/06/01
    ジャーナル フリー
    この総説ではTVOCの定義,測定法,生体影響と基準値,効用と限界などについてまとめるとともに,その使い方あるいは使われ方,TVOCのおかれている状況やTVOCを巡る経緯や諸問題について述べた。TVOCは室内空気中に多種類存在するVOCの総合的簡易表記法として,またその汚染影響の可能性を示すものとして提案され,多くの調査研究で用いられてきたが,TVOCは本質的に毒性学的な指標にはなりえず,また,現行のVOC・TVOC測定法では見逃される微量刺激成分の存在により,汚染レベルを示す指標としての欠陥が指摘されている。しかし,TVOCは基準値の設定されていない多くのVOCが共存する中で,発生源や建材の評価や監視を通してまた,VOCリスクの低減をはかるための大まかな環境管理指標として意義がある。
原著論文
  • 福田 翼, 前田 恵, 今村 由希, 佐藤 貴裕, 大中 真莉子, 森田 洋
    2010 年 13 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/06/01
    ジャーナル フリー
    硫黄ドープ型酸化チタンは,可視光応答型の光触媒である。本論文では,可視光照射条件下における薄膜処理した硫黄ドープ型酸化チタンのE. coliに対する抗菌効果を評価した。その結果,薄膜処理した硫黄ドープ型酸化チタンは,酸化チタンよりも高い抗菌活性を示した。しかしながら,硫黄ドープ型酸化チタンは,可視光(1,700 lx)照射180 分後においても,E. coli懸濁液(初発濃度:106 CFU/mL)を完全に不活性化することは出来なかった。そこで,さらに抗菌活性を促進させる為に,銅・銀・ニッケルの添加効果を検討した。その結果,いずれの金属添加条件下においても,抗菌活性の増大が見込めた。特に,銅添加効果が最も高かった為,銅添加濃度における影響を調査した。その結果,至適添加条件は,4-7%の場合であった。この時,可視光(1,700 lx)照射5分後で,E. coli懸濁液(初発濃度:106 CFU/mL)が検出限界以下となった。本論文によって提案された銅添加硫黄ドープ型酸化チタンは,光強度に依存的に抗菌効果を発揮するが,日常的な光強度である650 lxにおいても,高い抗菌活性を発揮した。実際に,老人ホーム(福岡県北九州市)のトイレで実証試験を行った所,銅添加硫黄ドープ型酸化チタンを施工したトイレでは高い抗菌効果を示した。これらの結果より,銅添加硫黄ドープ型酸化チタンは非常に有効であり,新たな衛生素材としての可能性が示唆された。
  • 一條 佑介, 野崎 淳夫
    2010 年 13 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/06/01
    ジャーナル フリー
    室内空気環境の改善を図り,より健康・快適な空間とするために,空気清浄機が普及している。空気清浄機には使用に伴う性能劣化の問題があり,使用時間と劣化性との関係についての科学的資料が求められている。しかし,既往研究においては機器の初期性能を求めたものが多く,劣化性を定量的に求めたものはほとんど見当たらない。そこで,本研究では,ガス状汚染物質除去性能の劣化性を求める新型試験法を提案し,同試験法を用いてある使用期間(4ヶ月間)に伴う性能劣化性を1機種のみの対象であるが,定量的に明らかにした。試験対象物質はシックハウスの原因物質とされ,かつ建築基準法による規制物質のホルムアルデヒドとした。結果として,試験した家庭用空気清浄機のホルムアルデヒド除去性能は,使用時間の増大と共に大きく低下する。すなわち,初期性能は機器評価指標の相当換気量で表すと99.6m3/hであったが,1,2,3,4ヶ月間の使用でそれぞれ40.7m3/h(低下率:約59%),29.1m3/h(約71%),29.2m3/h(約71%),25.5m3/h(約74%)となった。特に,使用開始1ヶ月間に大きな除去性能の低下が生じた。今後の課題は,同試験法を用いて,種々の家庭用空気清浄機についての検証を行い,機器の除去性能の劣化性についての実態をより明確なものとすることにある。
  • 小林 智, 武内 伸治, 小島 弘幸, 高橋 哲夫, 神 和夫, 秋津 裕志, 伊佐治 信一
    2010 年 13 巻 1 号 p. 39-54
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/06/01
    ジャーナル フリー
    北海道のオホーツク海に面した小学校において,新築校舎使用開始後,全児童17人中10人と教職員9人中3人が様々な体調不良を訴えたため,約1ヵ月後に近隣の地区センターへ避難して授業を行うことになった。竣工後と症状発症後の民間検査機関による検査では,学校環境衛生基準に定められた8物質及び指針値の設定された13物質はいずれも基準値・指針値を下回っていた。竣工後約6ヵ月を経過した時点で室内空気中化学物質を精査したところ,指針値の設定されていない1-メチル-2-ピロリドンと2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート(テキサノール)が高濃度(前者の最高濃度:1000μg/m3,後者の最高濃度:290μg/m3翌月の測定では510μg/m3まで上昇)で検出された。これら2種の化学物質は新校舎内壁面の塗装に使用された水性塗料成分であることが判明した。これらの低減化を図るために換気の徹底とベークアウトを行った。また,児童・教職員が体調不良を発生した時点の1-メチル-2-ピロリドンとテキサノール濃度を推定するために,学校の環境を模した温湿度条件で小形チャンバー法による放散量の測定を行った。その結果,竣工後から校舎使用開始までの1-メチル-2-ピロリドンやテキサノールなどの減少量は少なく,校舎使用開始に伴う暖房の使用によりこれらの放散量が急激に増加し,校舎内の室内空気を汚染したことが推測された。
調査資料
  • 斎藤 育江, 大貫 文, 上原 眞一, 瀬戸 博, 栗田 雅行, 小縣 昭夫
    2010 年 13 巻 1 号 p. 55-64
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/06/01
    ジャーナル フリー
    床施工に酢酸ビニル樹脂系接着剤(以下,酢ビ接着剤)を使用した木造一戸建新築住宅において室内空気中の揮発性有機化合物及びアルデヒド類(以下,揮発性物質)を調査したところ,濃度が高かったのは,アセトアルデヒド,ヘキサナール,ノナナール,酢酸,アセトン,テルペン類(α-ピネン,β-ピネン,リモネン),パラジクロロベンゼンであった。これらについて発生源を調べたところ,パラジクロロベンゼンを除き,床下空間が共通の発生場所であると推察された。そこで硬化した酢ビ接着剤から発生する揮発性物質を調査したところ,樹脂の分解により主に酢酸,アセトアルデヒド,アセトン,酢酸ビニルモノマーが発生し,その発生量は湿度の上昇とともに増加した。また,床下が閉鎖的な空間であることから,硬化酢ビ接着剤から発生した揮発性物質をテドラーバッグに取り分けて濃度変化を調べたところ,実験開始直後に比べて7日間経過後には,アセトアルデヒド及びアセトンについて2.5倍の濃度増加が見られた。本新築住宅の床構造材に使用されていた杉はアセトアルデヒド,ヘキサナール,ノナナール,アセトン,テルペン類を放散することから,アセトアルデヒド及びアセトンは,構造材及び酢ビ接着剤の両方から発生して床下空間で滞留中にその濃度を増し,他の揮発性物質とともに内装材の隙間から室内に流入したと推察された。
室内環境学関連情報
  • ―シックハウスに関する高大連携環境講座―
    河村 歩美, 関根 嘉香, 福島 章喜, 谷井 明
    2010 年 13 巻 1 号 p. 65-70
    発行日: 2010年
    公開日: 2012/06/01
    ジャーナル フリー
    環境意識の向上・啓発において,環境教育は重要な役割を果たす。しかし室内環境教育に関する実践事例はほとんどない。そこで,文部科学省サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)の一環として,東海大学理学部化学科および東海大学付属望洋高校の教員が連携し,高校生に対する室内環境をテーマにした特別理科講座を開講した。この講座はシックハウスの予防や改善に関する知識の習得を目的とし,大学で研究開発を行っているホルムアルデヒド検知材料および分解除去材について基礎的な実験授業を行った。講座終了時には参加生徒に対して授業アンケートを実施し,理解度や満足度などを調査した。その結果,今回の講座は面白かったかという問いに対し,「面白かった・どちらかといえば面白かった」と答えた生徒の割合がいずれの実験においても90%以上であった。また,講座を自分なりに理解できたかという問いに対し90%以上の生徒が,「理解できた・どちらかといえば理解できた」と回答した。これらの結果より講座の内容や難易度が参加者に適したものであったと思われる。今後も室内環境をテーマにした科学講座を開発していきたい。
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