理科教育学研究
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45 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著論文
  • 今田 利弘, 小林 辰至
    2004 年 45 巻 2 号 p. 1-8
    発行日: 2004/09/17
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    理科教育における,科学的な問題解決能力育成の重要性については1950年代から指摘されてきたが,科学的な問題解決能力を身につけていない中学生が多いと言われている。科学的な問題解決能力の要素の1つであるプロセス・スキルズに着目し,中学校における指導状況について調査を行い,実態を明らかにすることは,重要な意味を持つものと考える。そこで,中学校理科教員を対象に,プロセス・スキルズの指導にどのくらい力を入れて指導し,どの程度定着していると感じているか,また,日常の授業実践においてどのような工夫をおこなっているのかについて質問紙による調査をおこなった。その結果,次の事柄が明らかとなった。(1)中学校埋科教員はプロセス・スキルズの指導に力を入れているにもかかわらず,定着していないと感じている傾向のあることが明らかとなった。(2)探究的姿勢の強い理科教員は,仮説の立案や課題を明確にする活動を取り入れ,実験・観察の条件統一や結果予想などのプロセス・スキルズに力を入れて指導している傾向が認められた。(3)探究的姿勢の強い理科教員は,グループの話し合いや発言の場を多くとるなど,協同的な学習の場の構築にも配慮して指導している傾向が認められた。

  • 久保田 善彦, 西川 純
    2004 年 45 巻 2 号 p. 9-18
    発行日: 2004/09/17
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    理科教育では,会話を重視した授業が注目されている。しかし,教室全体の会話は,学年が上がるにつれて成立しにくい。また,子どもの発言は曖昧であったり未完成であったりするため,わかりにくいなどの問題がある。局所的に発生する子ども同士の発話を「ローカル発話」とし,教室全体の発話の成立とローカル発話の関連について研究を行った。教室全体への発話が生起する場面と,発話が継続する場面について分析をすると,以下のようなことが明らかになった.①ローカル集団による‟意味づけ”によって教室全体の発話が生起している。これによって,発言に自信のない子どもであっても,教室全体の発話が可能になる。②ローカル発話は,未完成な発話をリアルタイムに助け,教室全体の発話を完結させている。これによって,子どもは安心して教室全体に向けた発話をすることができる。③教師は戦略的にローカル発話を起こし,そこから教室全体の発話を成立させている。ローカル発話による子ども同士の相互作用によって教室全体の発話が成立する事例が見られた。特に,小集団学習の形態で教室全体の学びが進行する理科学習では,ローカル発話が重要な働きをしている。教室全体の学びを成立させるためには,教師-子ども問の相互作用のみに注目するのでなく,ローカル発話による子ども同士の相互作用も考慮しながら授業経営をすべきである。

  • 郡司 賀透
    2004 年 45 巻 2 号 p. 19-27
    発行日: 2004/09/17
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    戦後発行高等学校化学教科書の水酸化ナトリウム製造法教材の変遷を調べ,教科書執筆関係者にインタビューを行い,当時の水酸化ナトリウム製造法教材選択の観点を明らかし,化学工業における水酸化ナトリウム製造法変遷の技術的社会的背景の一端を探った。(1)戦後の高等学校化学教科書の水酸化ナトリウム製造法教材は,炭酸ソーダ法,隔膜法,水銀法,イオン交換膜法の4教材であった。(2)当時の教科書執筆関係者の水酸化ナトリウム製造法教材選択の観点は,①工業的製法の消長を化学教材に即時に反映する観点,②製造法の中核をなす化学的概念を生徒が学習しない段階で化学教材としない教材配列の観点,であった。(3)戦後発行高等学校化学教科書の水酸化ナトリウム製造法教材変遷は,化学工業内部の水酸化ナトリウム製造法変遷と,ほぼ一致していた。

  • 佐藤 寛之, 森本 信也
    2004 年 45 巻 2 号 p. 29-36
    発行日: 2004/09/17
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    Head, J. O., Sutton, C. R. らは,「科学概念におけるメタファー表現は,個人の認知・情意・レトリックが融合したものである。」としている。つまり,情意的なこだわりを持ち,類推することで新しい概念の構築がなされていることを示している。子どもにおける自然事象の概念を表現する能力を養うため,理科授業においてはこうした視点に立つ類推のような論理の構築方法を学ぶ学習場面が必要である。同時に,このことは情意と認知が融合した「温かい認知(warm cognition)」の有用性を示すものであり,理科の授業デザインにおける必須条件と考える。

  • 松原 道男, 松山 智明, 多賀 みより
    2004 年 45 巻 2 号 p. 37-44
    発行日: 2004/09/17
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,教師の指導法の違いによる理科学習場面に対する子どもの好き嫌いと考えの深まりについて明らかにすることを目的とした。小学校と中学校の子どもを対象に,質問紙調査を行った。質問は,理科学習場面の多い少ない,好き嫌い,考えの深まりについてである。各学校において平均値を求めるとともに,考えの深まりについて共分散構造分析を行った。その結果,子どもの予想や話し合い,考察を行うといった学習場面の多い小学校のクラスにおいては,子どもはそのような学習場面が好きであり,考えが深まると感じていた。そして,子どもが課題を設定し,観察・実験の計画を立て,観察・実験を行い,考察していくといった順序で,考えが深まることが明らかになった。一方,小学校,中学校ともに,教師が説明を行い,子どもはそれを記入するといった学習場面の多いクラスでは,子どもはそのような学習場面が好きであり,考えが深まると感じていた。そして.教師が課題や観察・実験の方法を説明し,子どもが観察・実験を行い,教師が説明してまとめ,子どもがノートに記入するといった順序で,考えが深まることが明らかになった。

  • 宮田 斉
    2004 年 45 巻 2 号 p. 45-52
    発行日: 2004/09/17
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    これまで“循環型の問答-批評学習(以下,「循環学習」と略記する)”利用は,児童のメタコミュニケーションを促し,科学的なコミュニケーション能力を高めあう教授法として有用であることが示唆されている。本研究の目的は,小学校6年「電流と電磁石」の単元の授業(全11時限)を事例として,循環学習を利用する授業と利用しない授業を行い,質問紙調査の結果から循環学習利用の効果を検討することである。その結果,本事例の範囲内で,循環学習利用には次のような事項が見い出された。(1)循環学習利用は,児童に「電磁石の力の大きさを比較する実験方法に関する知識」の獲得を促進させる。(2)循環学習利用は,児童に「実験器具を導線でっなぎあわせて回路を作る知識」の獲得を促進させる。特に,この点は女子に顕著である。(3)循環学習利用は,児童に「最初に回路を組む時,直流用電流計の5〔A〕のマイナス端子を選ぶ理由に関する知識」の獲得を促進させる。

  • 山路 裕昭
    2004 年 45 巻 2 号 p. 53-60
    発行日: 2004/09/17
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    旧ソ連邦では,社会主義社会建設の要求から発せられた工業化の要求に対応するために,自然科学を習得した人材が求められ,それは学校に対して科学の基礎を子どもたちに習得させることを要求した。その結果,1930年代には労働を中心とした生活経験主義的総合教育は科学の基礎の習得という要求に合わないものとして否定され,代わって分科理科教育が採用された。この科学の基礎を重視する姿勢は,その後の工業化の進展の中で強化され,さらに科学技術革命の認識の下で人間形成の面からも強力に求められるものであった。そしてそのような科学の基礎を重視する姿勢が,一貫して維持されただけでなくさらに強化されていったことが,旧ソ連邦において科学の基礎を習得するための分科理科教育体制を堅持させることに直接つながっていったと考えられる。さらに科学の基礎を重視する姿勢の背景には,自然科学の役割を重視し,自然科学によって生活や社会が発展するという意味で,科学主義の存在を指摘できる。1930年代の分科理科教育の導入は、旧ソ連邦における科学主義に基づく理科教育の始まりであり,その後この科学主義の考え方が普及,強化されていくとともに,分科理科教育は確固たる地位を占めていったと見ることができる。すなわち,1930年代以降の旧ソ連邦においては,科学主義を背景として科学の基礎の習得が一貫して求められ,そのことが中等分科理科教育体制の堅持を支えていったと考えられる。

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