理科教育学研究
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45 巻, 3 号
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原著論文
  • 池田 仁人, 戸北 凱惟
    2005 年 45 巻 3 号 p. 1-10
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    「オノマトペ(擬態語・擬音語等)」は,幼稚な言語であるといわれてきたために研究が進んでいなかったが,田守,スコウラップらによって日本語における重要な言語要素であることが,また,滝浦らによって子どもの認知と関係深いことが明らかにされてきている。本研究は,「オノマトぺ」が,低学年における科学的思考の萌芽となる「知的な気付き」を教師が見出す手がかりとなるのではないかと考え,「オノマトペ」が「気付き」を包含することを明らかにするために,次の3つの調査を行った。1.観察初期におけるオノマトペの機能の調査 2.活動の中で気付いたことを伝える場合のオノマトペの機能の調査 3.オノマトペの伝達機能の調査 その結果,次の結果を得た。○オノマトペは,活動初期では,対象の触覚的特徴にかかわる個の印象を表す場合が多く,活動が進むにつれ,触覚的特徴に加え,聴覚的特徴をとらえたものも多くなる。○オノマトペは,自分勝手な表現ではなく,受け手にその様子まで想起させることができる表現方法である。以上の結果より,「オノマトペ」は,個々がつかんだ様々な情報を個々の表現方法で表すもので,「知的な気付き」の手がかりとなり得ることが考えられる。また,対象の特徴を正確に捉え,伝達できることから,科学的思考の萌芽ととらえることができ,理科教育においても有効な表現方法となる可能性を見出すことができた。

  • 小川 哲男, 森本 信也
    2005 年 45 巻 3 号 p. 11-21
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    生活科における子どもの自然事象に関わる「知的な気付き」の構造を明らかにするために,カミー,デブリーズの「論理操作」,ヴィゴツキーの「発達の最近接領域(ZPD)」,ホワイトの「知識の構造」の三つの諸論を視点として検討し,その結果,生活概念・素朴概念から発達の最近接領域(ZPD)を通して自然事象に関わる「知的な気付き」のネットワークが形成されることが明らかになった。

  • 川上 昭吾, 雨森 真司, 佐藤 真歩
    2005 年 45 巻 3 号 p. 23-30
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,中学校理科第2分野「生物の細胞と生殖」の単元の発展的な学習及び選択教科の時間に行うDNA抽出実験について適切な方法と材料を明らかにした。従来のDNA抽出の方法では湯せんを2回行うが,湯せんを1回にしたところ,十分満足できるDNAを抽出することができた。動物の肝臓にこの方法をそのまま適用すると,DNAを抽出できないが,ろ過を行う前に2M NaCl水溶液を加えることで,DNAを抽出することができた。3種類のDNA抽出法により,様々な材料を使用してDNAの抽出を行い,DNA抽出に適した材料を明らかにした。中学校選択理科の授業で実践したところ,生徒は実験を完全に遂行し,DNAを抽出することができた。

  • 野添 生, 磯崎 哲夫
    2005 年 45 巻 3 号 p. 31-42
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,科学カリキュラム作成の背後関係を,作成者,行政関係者,科学教育研究者の3者の視点から検討・分析を行うために,インタビュー調査と文献調査を基に研究を進める新しいアプローチを起用し,ナショナル・カリキュラム科学の作成過程に焦点を当て,主として政治的文脈から科学カリキュラムそのものの「意味」を探ることを目的とした。その結果,次のことが明らかとなった。①ナショナル・カリキュラム科学の作成過程では官僚的統合が見受けられ,加えて,その背後では諸々の権力関係が取り巻きさまざまな続制が複雑に働いていたこと。②その中心は理科教師や科学教育研究者で構成された科学作業部会からの専門的統制と,学校教育の中央集権化を図る中央政府からの官僚的統制であること。③ナショナル・カリキュラム科学はこれらの対立という過程を通して構成されたものという見方もできること。

  • 福岡 敏行, 大貫 麻美, 井上 典子, 田中 保樹
    2005 年 45 巻 3 号 p. 43-50
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    概念地図法は理科教育や環境教育において多様な目的で使用でき,その有効性は様々な実践で報告されている。この概念地図法を用いて作成者の概念構築の把握を図る際に,その主観的側面の把握を容易にする目的で,概念地図作成時に「自分」ラベルを導入することを試みた。この手法は,生物を題材とした学習においては更なる利点が考えられる。それは即ち,学習内容と自分自身とを関連づけてとらえることが,生物学的な内容に関する有意味学習を行うために有効な手段となることである。これは,分類学にのっとりヒトの下位に自分を位置づけ,多様な生物の中にある一種の一個体である「自分」概念を構築し,他の生物と比較することで生物概念の再構築を行うことを示す。また「自分」概念の構築は,さらに,学習の主体であり,身近な環境の中で生命活動や社会活動を営んでいる個の「自分」を振り返る契機にもなると考えられる。本研究では,複数の事例研究から,「自分」ラベルを導入した概念地図法が,理科教育や環境教育の場で,上述の利点をもつ有効な手法であることを示している。

  • 三宅 志穂
    2005 年 45 巻 3 号 p. 51-59
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,自然体験学習を提供する機関・組織が,学習プログラムを開発していく際に重要となる要件を,英国のフィールド・スタディーズ・カウンシル(Field Studies Council:FSC)の児章・生徒向き学習プログラム開発方法を事例として検討した。検討を進めるために,第一に,FSCの児童・生徒向き学習プログラム開発過程における(1)開発組織,(2)利用者ニーズへの対応,と(3)FSCが提供している学習の課題・活動と利用者である学校の教員が認めている利用価値,を詳述した。第二に,FSCにおける学習プログラム開発方法の特色を探った。最後にこれまで,日本における社会教育施設の学習プログラム開発の課題として指摘されている点を挙げて,FSCの特色を参考にしながら,わが国において自然体験学習プログラムを提供することを事業活動のひとつとしている諸機関・組織が,今後,学習プログラム開発に取り組む際に示唆となり得る点について考究した。FSCの学習プログラム開発方法の特色を検討した結果,次の4点をわが国への示唆として抽出した。(1)学習プログラム開発を過程別に分担する開発組織の構成 (2)明確で一貫性のある学習課題の設定 (3)基礎的な学習技能の習得を保証し,地域特有の環境を活かしたオリジナルな学習プログラムの提供 (4)利用者の要望に柔軟に対応する,学習モジュール開発・ストック法の採用

  • 宮田 斉
    2005 年 45 巻 3 号 p. 61-72
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学1年の「ガスバーナーの基礎操作」の授業(全2.4時限)を事例として,ガスバーナーの操作技能を協同で学ぶ際の生徒の教えあいを阻む要因を明らかにし,その要因を克服する教授法としての“循環型の問答-批評学習”利用の有用性を検討することである。その結果,本事例の範囲内において,“生徒の「操作技能を獲得したい」と「緊急的な危険回避」といった思念に起因する強い語調の助言”と,“「操作が難しいと認識している生徒が.自分の助言した通り操作できない事態を見て,操作者が自分の助言を受け入れていないと判断する」といった他人の情況を推し量れない事態”が,ガスバーナーの操作技能指導における生徒間の支持的な関係の構築を阻む要因として見い出された。そして,“循環型の問答-批評学習”利用は,誤操作に際して“ストップと言った後,「事前説明や操作等の良い点を述べた後,改善点を付け足す」”といった発話の表出を促し,生徒にこれらの要因によって脆弱化した支持的な関係を省みさせ,メタコミュニケーションを行う心のゆとりを与えて,質の高い教えあいを促すことが見い出された。

  • Kouichi MORIMOTO, Atsuhito TAKEMURA
    2005 年 45 巻 3 号 p. 73-77
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    In order to demonstrate the occurrence of the phototaxis to high school students in a clear manner, an experiment using Euglena was improved. In this experiment, a compact apparatus was devised. Several Light-Emitting-Diodes (LEDs) containing white, blue, yellow, and red were used as the light source in the apparatus. The improved experiment using the newly devised apparatus was tested in four 10th grade science classes. The students obtained good results. It was confirmed by students' reports that they could realize the phototactic phenomenon of Euglena. They also considered that there might be some relationships between the action spectrum for phototaxis and the absorption spectra of chlorophyll pigments.

  • 高垣 マユミ, 田原 裕登志
    2005 年 45 巻 3 号 p. 79-86
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学5年生理科「おもりの動きとはたらき」の単元を取り上げ,小学生の子どもたちが,振り子の力学現象の観測時間及び観測位置を正確に測定することを可能とする学習ツール,「学習者主体の思考実験シミュレータ」を開発した。この「学習者主体の思考実験シミュレータ」を用いて小学校理科授業を行った結果,その教授効果として,以下の3点が明らかにされた。1)現実世界の振り子の力学現象を,リアルタイムで正確かつ詳細に,分析・考察できる。2)学習者ひとりひとりの興味と実態に即して,コンピュータ上で時問軸を操作しながら.振り子の力学現象を疑似体験できる。3)実験から得られたデータを分析し,物理則を見出し,それに従って実験を模擬し.現実の物理現象と照合する,という思考実験を可能にする。

  • 三崎 隆, 西川 純
    2005 年 45 巻 3 号 p. 87-92
    発行日: 2005/03/01
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究では,中学校の理科の観察・実験時にグループ内で生徒が選択する役割と,場独立型-場依存型の認知型のタイプによる同調行動との関係を調査した。生徒の場独立型-場依存型の認知型のタイプと,理科の観察・実験時における生徒の役割を把握し,場独立型-場依存型の認知型のタイプごとの役割の差異,並びに同一実験グループ内における同じ役割を選択する場独立型-場依存型の認知型のタイプの差異を検討した。その結果,場独立型と場依存型の問で役割の差は見られなかったが,同一実験グループ内においては場依存型の認知型のタイプの生徒の方が同じ役割を選択する割合が多かった。このことから,理科の観察・実験峙には,場依存型の認知型のタイプの学習者は同じ役割の学習者と同調行動を取る割合が高い可能性が示唆される。

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