理科教育学研究
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49 巻, 2 号
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原著論文
  • 東 俊一郎, 喜多 雅一
    2008 年 49 巻 2 号 p. 1-10
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    高等学校で使われる「化学I」の教科書の大多数が,アルカリ金属と水との反応をナトリウムに代表させて,生徒実験として取り上げている。また,「理科総合A」の教科書のうちにも,同様の生徒実験を扱っているものがある。この実験の主要な部分を占めるのが,水素が発生することをマッチの火で点火したときの爆発音で確認する操作である。ところが.教科書で指示されている方法やナトリウム片の大きさでは,爆発音が確認できない場合が多い。この理由は,発生する水素の体積と,水素が捕集されていてマッチの火を近づける容器の容積との関係が十分に検証されていないことに起因する。本稿では,爆発音を発生させるのに必要な,水素の容器に対する体積の比を測定して,100%の確率で実験の目的が達成できる条件を求めた。ナトリウムが水と反応する実験は簡単に行うことができる。この反応とともに重要なのが,ナトリウムと塩素が直接反応して塩化ナトリウムを生成する現象である。しかし,この実験は,反応が激しく危険であると考えられているのか,生徒実験で扱っている教科書はない。ところが,実験の方法を工夫すれば,非常に印象的な実験を,安全にかつ簡単にできることがわかった。

  • 荒井 妙子, 永益 泰彦, 小林 辰至
    2008 年 49 巻 2 号 p. 11-18
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,中学生を対象に自然事象の変化に関わる従属変数及び独立変数の抽出等,変数への気づきに影響を及ぼすと考えられる諸要因の因果関係を明らかにすることである。「変数への気づき」を目的変数とし,「身近な自然に関わる体験」,「数学への好感度」.「理科に対する自信」,「自然・科学技術への知的好奇心」,「科学的探究の経験」,「理科への好感度」,「物づくり体験」を説明変数としてパス解析を行ったところ,以下の因果関係が明らかになった。(1)「自然・科学技術への知的好奇心」と「理科への好感度」は共変動し,「変数への気づき」に影響を与える因果モデルの初発の段階に位置している。(2)「科学的探究の経験」,「物づくり体験」及び「理科に対する自信」は「自然・科学技術への知的好奇心」と「理科への好感度」から影響を受け,「物づくり体験」は「科学的探究の経験」と「理科に対する自信」に影響を与え,「科学的探究の経験」は「理科に対する自信」に影響を与えながら,最終的に「身近な自然に関わる体験」と「数学への好感度」に影響を与えている。(3)「身近な自然に関わる体験」と「数学への好感度」は「変数への気づき」に直接的影響を及ぼしている。

  • 齋藤 裕一郎, 遠西 昭寿
    2008 年 49 巻 2 号 p. 19-27
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    コンセプトマップはNovakとGowinによって学習者のための“Learning How to Learn”のツールとして提案された。しかし,学校現場ではWhiteらの“Probing Understanding”に見られるような学習者の学びのツールというより,むしろ,学習者の理解を評価するためのツールとしての利用が多く見られるようになった。そこで本研究は,コンセプトマップを本来の目的である“Learning How to Learn”のツールとして再提案し,コンセプトマップの共有とラベル圧縮によってこれを実現させることを目的とする。コンセプトマップは作成者の理解を示すものであり,学習者の認知構造の写像として捉えることができる。コンセプトマップの問題点として多次元的で広範な構造をもつ認知構造を二次元平面上に表現することによる,構造の複雑化が挙げられる。この問題点を解決するものとして,ウエストらによって提案されたノード圧縮の考え方を.コンセプトマップに適用し,独自の方法で授業実践を行った。その結果,以下の3点が明らかになった。1.ノード圧縮は概念のチャンク化であり,サブマップを作成することによって上位概念の内部構造を理解させることに役立つ。2.ノード圧縮は概念のチャンク化であり,概念ラベル数を減少させるのでコンセプトマップを簡略化し,自己モニタリングを効果的に機能させることに役立つ。3.ノード圧縮によるコンセプトマップの簡略化はメタ認知・メタ学習を促進させる。

  • 柴 一実
    2008 年 49 巻 2 号 p. 29-39
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,1947(昭和22)年に作成された「学習指導要領・理科編(試案)』の第1〜3学年の内容の構成原理を明らかにし,低学年理科がどのように戦前から戦後へと変貌したのかについて把握することである。関係する文献資料を分析した結果,文部省教科書局の岡現次郎(1901−84)は,連合国軍最高司令官総司令部(GHQ/SCAP)の民間情報教育局(CIE)係官から提供されたヴァージニア州のコース・オブ・スタディ(1943)やワシントン州スポケーンのコース・オブ・スタディ(1943),進歩主義協会による『一般教育としての科学』(1938)などのアメリカ側科学教育情報を取り入れながら,戦前の『自然の観察』(1941・42)からの転換を図り,新しい理科カリキュラムの枠組みづくりを行ったことが明らかになった。昭和22年版学習指導要領理科編はその内容構成において,ワシントン州スポケーンのコース・オブ・スタディをモデルとし,戦前の『自然の観察』よりも同コース・オブ・スタディの指導内容・方法を積極的に取り入れた,新しい理科カリキュラムとして成立したのである。

  • 大黒 孝文, 出口 明子, 山口 悦司, 舟生 日出男, 稲垣 成哲
    2008 年 49 巻 2 号 p. 41-58
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,ジョンソンら(1998)が提唱する協同学習の5つの基本的構成要素全体を活性化するための思考外化テクノロジの利用の仕方を明らかにすることであった。まず.理論的検討として,協同学習の基本的構成要素ごとに,それらを活性化する有効な手立てについて議論した。協調学習支援を目的としたテクノロジの機能や活用方法に関する理科教育学および隣接分野の先行研究を検討し,それぞれの研究で採用されている個別的な手立てを基本的構成要素を活性化するための手立てとして集約・統合し一般化を試みた。その結果,5つの基本的構成要素のすべてを活性化するための思考外化テクノロジ利用に関するデザイン原則を導き出すことができた。次に,こうした仮説的な着想を検証するために,コンセプトマップをデジタル化したソフトウェア「あんどう君」に着目し,中学校3年生の「生殖と遺伝を極める」の単元において,3学級118名を対象に,デザイン原則に基づいた「あんどう君」の機能の活用を考案し,授業を実施した。主として授業のビデオ記録に基づくエピソード分析の結果,デザイン原則に基づく「あんどう君」の活用が5つの基本的構成要素すべてを活性化するのに有効であることがわかった。この結果は,本研究の仮説的な着想を実証的に支持するものであった。

  • 平澤 林太郎, 久保田 善彦, 鈴木 栄幸, 舟生 日出男, 加藤 浩
    2008 年 49 巻 2 号 p. 59-65
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    近年,理科実験において,学習者が自分たちの仮説を外化し,操作することの効果が報告されている。本研究では,仮説に対する自信と証拠の程度を二次元マトリックス上に外化する学習活動を提案した。その授業実践から,学習者の学びの様相を明らかにした。学習者は,仮説を操作するツールとして同期型CSCLシステムを利用し,実験結果の書かれた表と二次元マトリックスを行き来しながら学習を進めていた。二次元マトリックス上の移動は,証拠軸は成功した実験数によって,自信軸は仮説の確証を得ることで移動をする。教師は,このような特徴を理解することで,二次元マトリックス上の仮説ラベルの位置や移動経路から,学習者の実験活動や考察の進行状況を把握できると考える。

  • 宮崎 貴吏, 安藤 秀俊
    2008 年 49 巻 2 号 p. 67-80
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    高等学校化学における実践を前提として,酸性雨と,酸性雨の土壌への影響を扱った環境教育に関する調査・研究を,次の3点について行った。I.国内における酸性雨・土壌の環境教育教材としての取り扱いについて,文献を調査し,研究動向を明らかにした。II.小・中・高校の理科教科書における酸性雨・土壌の取り扱いについて調査した。III.高校生が酸性雨に対してどの程度の知識やどのような意識を所持しているかを質問紙法により調査した。以上3つの調査結果を総括すると,次のことが明らかとなった。(1) 酸性雨・土壌は多種多様な教材化研究が行われており,実際に授業で実践されている例も少なくない。しかし,実践ではpH等の簡易的な測定にとどまっている。(2) 多くの教科書に酸性雨に関する記事が掲載されており,特に,酸性雨による被害については写真が多用されている。また,酸性雨についての科学的な説明は,小・中学校の教科書には発達段階に応じた内容が記載されているが,高校教科書では中学校教科書と同程度の内容にとどまっている。(3) 高校生は,酸性雨の原因や被害等の知識は豊富に持っているが,pHや溶存イオン等の科学的な知識はあまり持っていない。また.酸性雨に対し危機感は持っているものの,それを解決するために自身の行動を起こそうとする意欲は薄いという実態が明らかとなった。

  • 柳本 高秀, 大高 泉
    2008 年 49 巻 2 号 p. 81-92
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    これまで「月の満ち欠け」の理解の鍵を握る重要な視点と目される「かげのしくみ」に着目した先行研究はほとんどなく,「影と陰の区別」を扱った先行研究は全くと言っていいほどなかった。そこで本研究は,小学4年生の「月の満ち欠け」と「かげ」の理解の関係を解明するため,基礎的な天体運動の理解に関する質問紙調査を行った。その結果,以下の4点が明らかとなった。(1)光が物体に遮られるためにできる「影」と,物体そのものにできている反射面以外の「陰」を区別して理解している児童は,全くと言っていいほど存在しない。(2)「月が太陽の光を反射して輝いている」という認識をもっている児童は半数以下である。(3)「光とかげ」に関して理解の高い児童の多くは,月は太陽の光を受けて輝き,半球状の反射面(または陰)を持っているという認識をもっている。(4)児童における2種類のかげに関する理解と月の満ち欠けの理解には強い関連性がある。特に,月にできている半球状の「陰」を認識している児童の多くは,正しい月の満ち欠け現象の認識をもっている傾向にある。

  • 山本 容子
    2008 年 49 巻 2 号 p. 93-105
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    現在,欧米では持続可能な社会の実現に向けて,人間個人のライフスタイルを,よりエコロジカルに変容するような意識変革が重要視されるようになってきた。この意識改革を標榜する環境教育の有力な一つが「ディープ・エコロジー教育」である.本稿では,アメリカ.カナダを中心とした「ディープ・エコロジー教育」のプログラム事例について多面的に分析し,ディープ・エコロジー思想を導入した環境教育の発展と特質について解明した。「ディープ・エコロジー教育」としては,自己開放型の環境教育プロジェクト,自然同化型の環境教育プロジェクト,ディープ・エコロジー思想の概念援用型の環境教育プロジェクトが実践されている。その中心的特質として,以下の4点が挙げられる。(1)教育目標として,「自己実現」を目指している。(2)自己と他の多様な生命および生命以外の自然物との一体感を実感できるような体験学習を導入している。(3)地域の自然の中で行う野外活動が中心となっている。(4)当初,地域の環境学習センターにおける希望者向けワークショップの形式で実施される形態から地域の学校と共同して環境教育プロジェクトを実施する形態へと移行しつつある。

資料
  • 境 雅子, 上土井 幸喜
    2008 年 49 巻 2 号 p. 107-113
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    工業高等専門学校の「生物」を履修しない16歳の生徒を対象に,カリキュラムの不備を補うための一案として総合理科の時間を利用して細胞・遺伝・分子生物学の授業を行なった。授業は,科学者の探究する姿勢や様子に気付かせる効果があった。また基礎知識や概念を身に付けさせる効果があり,科学的思考力の育成にも効果があると推察された。興味関心を引き出す効果も見られ,主体的に発展的内容にまで取り組む能力や態度の育成にも効果があることが推察された。しかし総合的に理解できるよう組み立てた授業では,各小単元から派生する関連事項について設定時間内に学習させることができなかった。また社会科学に関する授業や生命を尊重する態度を育成するための授業の必要性が認められた。2005年と2006年のアンケート調査によると,授業の中で最も興味を持った内容については遺伝の仕組みや血液型がよく選ばれた。新学習指導要領の改訂に伴い遺伝の規則性を中学校で学習するため,今回のような授業では血液型や伴性遺伝など実際的な内容を中心に扱うことができるようになる。理科の有用性を実感させることができるようになると考える。中学校新学習指導要領の内容を踏まえ,理解の定着を図る授業及び問題点を改善し理解の広がりと深まりを実現する授業の構成と方法についての検討が必要であると考える。

  • 杉尾 幸司, 吉田 安規良, 本多 正尚, 松田 伸也
    2008 年 49 巻 2 号 p. 115-122
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    児童生徒の理科に対する興味・関心等を育成することを目的として合宿形式の学習活動「中学生サイエンスサマーキャンプ」を実施した。実施内容として,森林内部の動植物の夜間生態観察やマングローブ林の生物観察,天の川と星座の観察,小型天体望遠鏡での木星・星雲の観察地層の観察,タンパク質と脂肪の消化実験を計画した。沖縄県のように豊かで特色のある自然環境を持つ地域においては,生物観察などの野外活動は大変魅力あるプログラムであるが,日程の変更が容易でない宿泊型体験学習において,野外活動を主体とした計画は,天候に依存するリスクが大きくなる。今回の取り組みにおいても,実施当日は台風接近による悪天候にみまわれたため,夜間生態観察の代わりに室内でのスライドを使った講義を,星座観察の代わりに天体望遠鏡の構造や天球儀を用いた天体のみかけの運動についての講義を行うなど,実施内容の一部を代替プログラムに変更した。天候の影響を受けやすい内容に関しては,効果的な代替プログラムについても十分に検討する必要がある。全日程終了後のアンケート結果からは,取り組み内容の「おもしろさ」「わかりやすさ」に関して高い評価が得られた。また,「全体の印象」「来年の参加」などの項目についても高い評価が得られるなど,実施内容は参加者に高く評価された。大学が今回のような取り組みを通して地域社会への貢献により積極的に取り組むためには,現実に即した支援体制の充実が強く望まれる。

  • 那須 悦代
    2008 年 49 巻 2 号 p. 123-127
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    シャボン玉液の工夫に関する本やインターネットサイトは多数ある。シャボン玉は身近な科学遊びであり.大きなシャボン玉をつくろうと工夫することは楽しい。しかし,遊びだけで終わるのではなく理科の探究教材とするには,大きさの元となるシャボン玉液の表面張力の測定が重要である。さらに小学生でも理解可能な実験とするには,簡易な計測器具や測定方法の工夫が不可欠である。本研究では.デジタル機器の進歩により手軽な測定が可能になっていることから,簡易な実験装置によってシャボン玉液の表面張力を測定することで,小学生が理解できる教材の開発を試みた。

  • 正元 和盛, 川元 信人
    2008 年 49 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 2008/11/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    デンプンのり溶液では,低濃度でもヨウ素デンプン反応後にだ液を加えた場合,デンプンの分解が不完全で,青紫色の呈色は消え難い。デンプンの替わりに水溶性などの特性が改良された新規デキストリン(クラスターデキストリン)を用いると,だ液の働きによってデキストリンが分解されて,ヨウ素デンプン反応の呈色反応が消失し,その反応液を直接用いて糖の生成を確認することもできる。本改良によって実験時間が短縮され,だ液によるデンプンの分解の進行を視覚的に確認でき,更にその液の糖も確認できるので,児童生徒がだ液の働きを実感を持って理解することの一助となると考えられる。

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